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【感想メモ】能楽公演2020狂言「茸」能「道成寺」を見た話。(NHK放送)

2020年の夏に行われた、新型コロナウイルス終息祈願の舞台「能楽公演2020」の放送がNHKであった。
演目は、狂言が和泉流・野村萬斎の『茸』、能が宝生流・宗家の『道成寺』だという。

京都にいた頃、私はトータル10年ぐらい能の稽古をしていた。
萬斎さんや宗家には、舞台でお会いしたことが何度かある。

特に私自身が宝生流で、宗家と実はほぼ同世代ということもあり、「宗家・・・!なんかすごい・・・!」というより「和英さん・・・注目されて大変やな・・・」という、勝手かつ一方的な親近感をもって拝見している気がする。

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さて、野村萬斎さんの狂言。
萬斎さんの芸は、個人的には「大衆向け」という感覚だ。わかりやすく、フラットで、なじみやすい。
今回の演目『茸』というチョイスもコミカルで、かなり一般向けだった。うじゃうじゃ、キノコがまわりに出てくる。Eテレの影響は多分にあるだろう。たまたまチャンネルつけた人が見ても「おっ」と気になるような、単純に絵面としておもしろい演目だ。
今回もとてもわかりやすかった。Eテレ「にほんごであそぼ」のしっかり版を見ている気さえした。

ただ個人的には、『茸』という演目はかなり個性的なので、ちょっとどうかと思う部分もあった。
でも「コロナ終息」ということを鑑みると「うじゃうじゃ増えるキノコ」と「うじゃうじゃ増えるウイルス」というのはとても近しく、ただ祈り続ける山伏は滑稽で、ウイルスにあわあわしている現代人と被る。
だからこその『茸』で、野村萬斎さんなのだろう。

CM、ドラマ、映画と、野村萬斎さんは実に多彩だ。
それは狂言や能という、今や「守らなければ廃れるばかり」という伝統芸能にとって、大事な大事な「一般大衆との橋渡し役」としての責務を担われているからだろう。
露出すれば、狂言を見ようという人も出てくるかもしれない。
そのうち何人かは、また来てくれるかもしれない。
やがて、狂言自体を好きになってくれるかもしれない。
ご本人もそれを意識されているがゆえか、芸も自然と「初めての人にもわかりやすく」という気持ちがにじみ出ている気がする。
楽しく古典に触れよう。一緒に笑おう。
そんな気持ちが、見ている人の心を軽くしてくれる。
野村萬斎さんはすごい。そしてありがとうございます。

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『道成寺』は、よく知られる隅田川や井筒などと並ぶ、演目の中では有名な曲のひとつだ。
見せ場は、鐘がどーんと落ちて、中に入る場面。

今回、副音声で解説を聞きながら見たのだけど、かなり勉強になった。

装束が地味だなーと思ったら、その説明がポッと入ったり、乱拍子のときに
「現在、白拍子の伝承はほぼ途絶えておりますが、乱拍子に名残を見ることができます・・・」という解説があって、ほほーと思ったりした。

鐘がどーんと落ちる部分はさておき(置くんかい)、前にある乱拍子は興味があって、じっくり見ていた。
つま先を上げた状態で静止し、鼓と同時におろす・・・
うーん。難しいなぁ。
私が昔舞った「鶴亀」の舞囃子とは比べようもないけれど、お囃子と息を合わせるのは、稽古量がものを言う。
稽古に稽古を重ねて、舞そのものが呼吸となり、そのとき初めて別の次元で稽古を重ねた誰かとの呼吸が合う。

乱拍子ともなると、宗家は一体、どんな次元で舞われているのだろうか。
そして、この舞台にどれだけの稽古をして臨まれたのだろうか。

・・・そんな雑念が入ると、シテとしてではなく、一人の舞手として見てしまって、物語に入り込めずよくないのだが。
それでも、たとえ稽古から離れて久しくても、「何か自分に置き換えたときに得るものはないか」と思って見てしまう。
体重のかけ方。重心の移動。拍子の打ち方。声のハリ。
自分のつま先ひとつ、下ろすだけで、場の全空気を集中させるもの。
どんな意識があるのだろうと思ってしまう。

そして感想としては、また「宗家・・・お疲れ様・・・」という感じになってしまった。
凄い演目見た!というよりは「同世代で、こうやって舞台に立ち続ける方がいるのだな。がんばらねば」という感じ。

あと、放送では、2020公演のときにあった他の演目もサラーっと見ることができた。
一瞬だけど、やはり凄い方のはギュッと心をつかまれるし、見たいと感じた。

コロナで、今は稽古もしにくいし(何せオウム返しが対面で唾とばしまくりだから)大変な時期だ。
これを乗り越えて残っていくのは「感動」であり「楽しさ」だと思う。
見て楽しい。
稽古して楽しい。
だから続く。
今回の舞台のように、名人芸を惜しみなく配信することが、誰かの心をつかむきっかけになると思う。
だから残りの部分もいつか配信してくれないかな・・・(希望)

ともあれ、久々に見て楽しかった。
ただやっぱり、舞台そのものとTVで見るのとでは、実感が違うなぁという印象(当たり前だけど)。
やっぱり見るなら舞台がいいな。
あの緊張感、空気感は、その場にいる人しか得られない。
オンラインがどんどん増えればいいと思うし、この先そうあるべきだと思う一方、だからこそ「本物」の価値を体感する機会も惜しまずあるといいなと思う。

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