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「匠」に欠ける中国人、こだわりすぎる日本人。北京在住MBA准教授に聞く

昨年秋に北京に行きました。タクシーはアプリで呼んで決済はスマホで、物乞いも寄付もQRコードで。ノーマン・フォスター、ポール・アンドリュー、ザハ・ハディドや隈研吾といった世界のビックネームの建築が立ち並び…といった情報はよく知られている通りですが、もう少し分け入った中国や中国の人ってどうなんでしょう。

滞在したのはわずか3日間。それではとてもわからないので、友人を通じて紹介してもらった、中国在住歴も長い米国人、清華大学准教授 スティーブン ホワイトさんに、中国の実際についてうかがってきました。

場所は欧米ブランドや個性的な店主の店が混ざり合う三里屯のカフェ。スティーブンさんはIPAビール、私は中国茶で。日本でも学び、仕事の経験もあるスティーブンさんは日本語スピーカーでもあるので、お話は日本語です

Steven White(スティーブン ホワイト)さん。清華大学准教授。米国生まれ。ヨーロッパ、日本を含むアジアでグローバル経営戦略論、イノベーション等の調査研究・教育に携わってきた経験を持つ。2007年より中国へ。中国きっての理系エリート校として知られる清華大学では、同大学x-labにてMBA教育並びに様々な研究に携わっている。ユーモアと優しさ溢れるお人柄。けれど中国への愛や若者への期待も大きいぶん、中国に関するお話はやや辛口です。スティーブンさんが着ているのは清華大学のオリジナルTシャツ。易経の言葉であり、清華大学の精神でもあるこの漢文は「自らを向上させることを怠らず、人徳を高く持ち義務を成し遂げる」という意味。


匠の漢字はあるけれど

———— 今日はスティーブンさんが感じる今の中国について、率直に聴かせてください

では、いきなり話し出すんですけれど…。現在の中国は「匠」の精神に欠けていると感じています。逆に日本は「匠」の精神に溢れすぎていますよね。どうでもいいことにもこだわりすぎています。

———— 中国には「匠」の言葉自体あるんですか?

漢字はもちろんありますよ(笑)!でもマインドがありません。現在の中国には2つの弱点があります。ひとつめは表面的であること。建築でも研究でもあらゆる分野で感じています。例えば学生でも「この分野に興味があるからこの研究をしたい」と入学してくるのは稀。大学に入ったら何をするのか、親や教師が先に決めてしまうにも習慣にも問題があります。大学に入ってからも、教授がプロジェクトを決定してしまい、自分で考えるチャンスがありません。学生もその方が手堅く効率がよいと考えているようです。

———— スティーブンさんが教えている大学は超難関校として知られていますが、それでも目的意識を持った学生が少ないと?

 中にはそういう人もいますが少ないですね。周囲からは完全に「お金にもならないことをする変わったヤツ」と思われちゃう。もう一つの弱点は個人主義への変化です。日本など特にそうですが、アジアは集団主義。会社や高校と所属するグループが同じだと考え方も行動も同調して似てきますよね。けれど最近の中国人は、よい意味でも悪い意味でも周りを気にしない人が増えています。

飛行機の中で大音量で音楽を聴くなんてすごく迷惑な行為だけど、そうしたことをする本人は悪意さえありません。高校のテストでは、1位からビリまでランキングが全てが発表されるそうですよ。自分が上がれば誰かが下がるという生き残こり競争の中で子どもは育つ中では、横の連携や配慮の気持ちが育まれにくいと思います。

ネゴシエーションが苦手らしい

———— ビジネスでもグループワークが苦手なんでしょうか?

中国人の部下を持つ、何人もの外国人のボスから聞きましたが、「あの人がこんなことをしていた」と同僚を告発する手紙をよくもらうそうで、足の引っ張り合いも激しい。やり方はなんでもよく、勝てばよしといった考え方です。だから人を気楽に信用できないし、グループの中で大切な情報をシェアしたりできないんです。

———— 一方でスタートアップ企業は、たくさんありますよね

自分がボスになりたい人が多いんです。自分が指示する側にまわりたいし、お金を人より儲ける可能性を得たいと言ったところでしょうね。

———— 大学では、グループワークの重要性を教えたりはしないのですか?

私が担当するMBA取得のための基本クラスでは、必ずネゴシエーションについての授業をします。相手が本当に何が欲しいのか、自分は何が必要なのか、なぜそれが必要なのかを理解した上で、二者がひとつの結論に導き出すことをプリンシプルネゴシエーションと言うんだけど、それがなかなかできないんです。

ビジネスの話し合いは、相手に情報を与えなければ前に進まないものですが、中国人にとっては情報は力。「情報を差し出したらパワーが少くなるから、そうした場ではウソを教えた方がいい」という学生がいるくらいです。もちろんそれもあっていいけど、ある程度情報を出さなければ、結論が出せないということが、なかなか学生には伝わらないんですよね。

————  最近の中国は変わったと感じますか?

変わりましたね。2007年から中国で仕事をはじめて今に至りますが、その前に1995年から1年間、博士課程の研究のために中国で過ごしました。あの時の中国が、私は好き。市場経済化が進み、国有企業の経営が悪化。失業者も多く出た大変な時代だったけれど、人々には時間があり、気持ちに余裕がありました。あの頃に知り合った友人たちとは今でも続いています。

日本についても聞いてみたい

————  日本、日本人についてはどう思われますか。

日本人は従うことはできるけれど、prescription(命令)なしで動くことができません。ルールにしばられがちとも言えます。やって悪いことを示すproscription(禁止事項)を渡されても(つまり、禁止事項以外は自由に振るまえる)、先に進むのを怖がってしまうのではないかなと思います。どこへ行けばいいのか、自ら考えもせず知りたがる傾向がありますよね。

———— 匠」の話もでましたが、日本人の丁寧さや細やかさはどうですか?

日本人の匠の技や心は尊敬しますが、やりすぎという面もあります。ある日本企業の仕事を引き受ける中国の工場では、様々な部品をまとめる結束バンドが100以上あるそうです。それに対してドイツメーカーの同商品の結束バンドは6つのみ。それでいいではありませんか?日本メーカーはこうした細かさで「我社の緻密さが生むクオリティはすごい」ということを主張したいのでしょう。

でも実際のところ日本製の商品は、以前は、他の国の機器に比べて確かなクオリティの差があったのでしょうが、今は違いますよね。“細かすぎる仕事”は誰かのためにではなく自己満足のためとしか思えません。その手間が市場にインパクトがあるのか。お客さんに理解されるのか。生産コストに対して回収率が1以上ないとダメですよね。

————耳の痛い話ですね。ところで私は、同じ中国でも、地下鉄で列を作って待つことができる台湾の人も好きなんですが、どう思いますか

知り合いが「台湾の社会や人は、日本人マイナス硬さ」とすごくいい表現をしていました。現代の中国のように自己中心的でなく、周囲への配慮ができてかつ、きっちりすぎず気楽。すごくバランスがよいと思います。

Backward is benefit

————現在の中国に関して厳しい意見も出ましたが、素直にいいと思える点はありますか?

中国にはhopeがあります。誰もが何事にも前のめり。北京にいたら何でもできるという空気があります。2、3年前になりますが、香港には、ワーキングホリデービザで、ものすごく多くのフランス人がやってきた時期がありました。テロや不況で不安の多いフランスから、hopeを求めてやってきたのでしょうね。日本の若い人は現状維持志向で冒険心がないと聞いていますが、社会にhopeがないのではないのでしょうか。

———— いろいろ問題はあるにせよ、中国の滞在中、世界の最先端を実感しました。今後、日本は中国に追いつくことはできるのでしょうか

中国のフィンティックは明らか世界一だし、日本より中国の方が進んでいることを実感されることでしょう。でも私はBackward is benefit(遅れていることはプラスに働く)とも思っています。

中国では、クレジットカードが一部の裕福な人のものでしかなく、一般人には普及していなかった事実を背景のひとつとして、モバイル決済が急速に広がっていきました。80年代のアメリカでは、振込が充実していなかったらクレジットカードが普及しました。満足していないということは、次に飛び出せるチャンスだということですよ。

【お話をうかがって】スティーブンさんのお話を聞きながら、大変そうだと思いつつ「中国の仕事をしてみたい」と思ってしまう私。hopeを求めているのかもしれません…。今回はいつものようにまとめのようなことはいたしません。スティーブンさんのお話を、皆さまがそれぞれに受け止めて頂ければと思います。

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