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【小説】女子工生⑨乙4とタコと焼肉(2)

乙4とタコと焼肉

 急いで帰った真白(ましろ)は、ただいまも そこそこに、二階にある自分の部屋へ 駆け上がった。
制服を脱ぐと ベットの上に放り投げた。
アンダーシャツ代わりに着ていた タンクトップと短パン姿で、階段を駆け下りる。
リビングにいた龍一(りゅういち)が ソファーに座ったまま 首だけこちらへ向けて 呆れた
声を出した。

「真白、お前もう少し 恥じらいとか、慎ましやかとか 身に付けたら。」

「だって急いでるんだもん。」

真白は、龍一の方を見もせずにバスルームへ駆け込み、シャワーを浴びた。
本当は髪も洗いたかったが、流石にその時間はない。
その代わりに、体を拭いてからボディークリームを塗った。
爽やかな香りのする、真白のお気に入りだ。
学校へは付けていかないが、夜、お風呂の後や、シャワーして、出かける時に付けて行く事が多い。
塗り終わると、体にバスタオルを一枚巻き付けて、また自分の部屋へ駆け上がる。
ちょうどトイレから出てきた涼二(りょうじ)に
出くわした。

「お前 女らしさをもっと勉強しろ。」

龍一と同じ様な事を言われたが、構わず部屋へ向かう。
クローゼットの前で暫く考え、何枚かの服を取り出す。
ベットの上の制服をよけもせず、その上に出した服を並べて見比べる。
初めは、大、小兄ちゃんの言葉が浮かんで、
白いタンクトップに、グリーンのシースルー・ブラウス、生成りのパンツにしようかと思ったが、焼肉を食べに行くのを思い出し、紺色の
シャツブラウスと、黒いスキニーパンツにした。
そして、多少(?)女子感を出すために、エスニック風な模様が彫り込んである 三日月型のネックレスと、お揃いの小さなイヤリングを着けた。
2年ぐらい前、母が買ってくれたが、着けて遊びに行くこともなかった。
鏡の中で 胸元と、耳たぶで揺れるそれを見て、真白は満足そうに微笑んだ。
薄いピンクのリップを塗って、出来上がりだ。
髪は、高校生になって 伸ばし始めているが、まだ中途半端な長さなので ブラシで整えるだけにした。
お出掛け用の 小振りなバッグに、ハンカチとティッシュ、さっきのリップを入れ、一応 小銭の入った財布も入れた。
そして、再び一階へ。

「お待たせ、行こう。お母さん、行ってくるね。」

「はいはい。行ってらっしゃい。今度みんなを連れてらっしゃい。お母さんも 真白の友達に会ってみたいわ。」

夕食の支度をしながら 母が言った。

「うん。今度考えてみる。あ、クリスマスとか もしみんなが 都合が合ったら、家でやってもいいかな。」

「そうね、そうなったら お母さんもお手伝いするわよ。」

「わーい! 取り敢えず今日は焼肉!お腹減った~。」

「はいはい、行ってらっしゃい。涼二、お願いね。」

「おう。じゃあ、行くか。」

2人は玄関を出た。
そこで、真白が気づいた。

「あれ、大兄ちゃんの車 使っちゃっていいの?」

玄関からリビングの方へ声をかける。

「ああ、いいよ。俺もう酒飲んじゃったし。」

龍一はよく友人とゴルフやら、バーベキューやらに行くので、人や荷物をたくさん乗せられる7人乗りのゴツい車だ。
以前、真白が“無駄にデカイ車”と言っていたやつだ。
涼二は免許はあるが、学生なので車はまだ持っていない。
父の車は、セダンタイプの五人乗りで 小さくはないのだか、後ろの座席に男3人は、やはりきついので龍一の車を借りたらしい。

「お気遣い、有り難うございます。」

真白がペコリと頭をさげとた。

「奢(おご)られる時は、可愛いなお前。」

涼二は苦笑した。
真白は殊更 可愛い声で

「はい♡なんたって今日は 焼肉食べ放題、
4人分ですから♡」

セリフにハートマーク付きで 手を胸の前で
組み、上目遣いで首を傾げた。

「お前、1年中そうやってろよ。メチャクチャモテるぞ。」

「ムリ。これは 頑張っても5分ぐらいしか
もたない猫ですから。♡」

言いながら清文(きよふみ)に電話を入れた。
声色が元に戻る。

「あ、清文?今家出たよ。どこへ行けば
いい?うん、うん、わかった。5分かからないで行ける。うん、OK。」
「A高の正門前にいるって。」

電話を切って涼二に教える。

「そりゃ わかりやすいな。」

車を走らせると、A高校の正門前に清文が立っている。
黒い、胸ポケットだけグレーのYシャツにデニムパンツで、ごくシンプルだが 背が高いので
3割増しで かっこよく見える。

「あれか?男前だな。」

「うん。学校でも人気あるよ。でも、顔より
性格かな。友達多いし。」

清文の前に 車を付けて窓を開ける。

「お待たせ~。後ろ乗って。わかりやすい所で待っててくれて ありがとね。歩いたんじゃない?」

「いや。俺んちコレだから。」

と言って、道の反対側を指差した。
可愛い洋風の二階建てで、庭もベランダも、
かなり手をかけたガーデニングで、草花が溢れている。

「え、ここ?」

「ああ。」

「マジA高の目の前なんだね。でも 清文の家だから もっとゴツいの勝手に想像してた。」

「これは おふくろの趣味。親父はおふくろの言いなりだから。
あと、今 聡(さとし)に連絡いれといた。大橋渡った所にコンビニあるだろ、そこで待ってるって。」

「だって、ちい兄ちゃん。」

「おう。」

「涼二さん、今日は有り難うございます。よろしくお願いします。」

清文が頭を下げた。

「こっちこそ次のやつに電話、ありがとな。
手間省けたわ。」

「いえ、聡も車が着く頃 テツに連絡入れると思うんで。」

「おう。すまないな。」

こうして 聡をコンビニ前で拾い、徹(てつ)を商店街の無料駐車場で拾って、焼肉屋を目指した。

車の中で真白は体を捻って 後部座席の3人をまじまじと見た。
2列目の座席に身を預けていた徹が 少し怪訝な顔をした。

「何。」

「いや、3人の私服、初めてだなって。」

聡は 赤いTシャツに黒いダメージジーンズ、
徹は 薄い水色のチェックのYシャツに茶色のチノパンだ。

「清文と徹は なんとなーく想像してた感じだけど、聡は全然違う。予想と。まさかダメージジーンズとは、」

徹も頷いた。

「うん。聡、赤いTシャツのイメージが無い。」

1番後ろの席から聡が言う。
「これは、僕の趣味ではありません。友達と焼肉って言ったら姉と妹に、寄ってたかってコーディネートされた。自分で選ぶんだったら もっと地味です。だいたい コレ買ってきたのだって、姉ちゃんだし、逆らうと面倒だし、余計な時間食いそうだし、そのまま出てきただけ。」

黙って聞いていた、やはり1番後ろの座席に座っていた清文が、吹き出した。

「ぶははは・・・聡も苦労してんなあ。そうそう、女には黙って従ってた方が身のためだぞ。俺も3コ下の妹いるけど、これが おふくろとタッグ組むと、強いぜー。もう絶対逆らえない。」

「それ、わかるわー」

徹も続いた。

「俺、姉ちゃんとケンカした時、脛(すね)に蹴り喰らって、屈んだらケツに もう一発喰らって倒されたことある。口喧嘩も、ひとつ何か言うと、何倍にもなって返ってくる。」

清文も聡も腕を組んで うんうんと 大きく頷いてる。
どうやら男子達は家に帰ると、学校とは随分イメージが違うらしい。
真白がケラケラ笑いながら

「みんな、やさしいねぇ。」

と、言った。
3人がキョトンとしている。

「だって、本気でやったら 絶対みんなの方が強いでしょ?それわかってるから 皆、黙って言うこと聞いてるんでしょ。優しいんだよ。
たぶん、みんなのお姉さんも、妹さんも分かってるから、安心して口、出せるんだと思うよ。」

清文が、ボソリと呟いた。

「本当に分かってんのかなあ。舐められてる気もするが。」

照れ隠しとわかる。
徹と聡も少し恥ずかしくなり、赤くなった。
車の中は薄暗いので、真白は気づかなかった。
聡が早口で言った。

「真白こそ、今日は可愛い格好 してるじゃない。」

「ホント?可愛い?もっと言って。」

「うん。顔も少し作ってる?リップかな。」

「少しね。本当はもっとブリブリに女の子っぽくしようと思ったんだけど、行き先が焼肉やさんだし 油とかタレとかはねても、あんまり目立たない様にしたんだ。」

「俺、そこまで考えないで、こんな薄い色のシャツ着てきちゃった。」

徹が 自分のシャツを摘まんで焦っていると、
清文と、聡が言った。

「俺も、汚れても目立たないやつって思て、
これなんだけど。」

「僕も姉ちゃんに 白より汚れが目立たないって理由で、赤にしなって言われた。僕は、黒の方が良かったんだけど。」

すると真白が 更に後ろを向いて言った。

「ねえ、私が可愛いって話しは終わりなの?
聡だけ?一言だけ?」

清文と、徹が“うっ”と言葉に詰まって 困っていると、涼二が助け船を出した。

「勘弁してやれよ真白。15、6の男が、いくら友達でも 女に可愛いなんて、簡単に言えないよ。聡君だっけ?彼が特殊なんだよ。家でお姉さんや妹さんに、言い慣れてんのかな。」

突然涼二から、話し掛けられて聡はあわてた。

「え、あ、ハイ。髪型変えた時とか、気づいて褒めてあげないと機嫌が悪くなるので。」

「いい事だよ。女の人躊躇なく褒められるの。大人になったらもてるよ。」

「は、そうでしょうか。」

聡はガチガチだ。
清文が、

「聡、何で会話がそんな軍隊みたいになってんの。」

と聞くと、真白が面白そうに

「聡はちい兄ちゃんが、憧れの人なんだって。」

と、教える。

「はぁ?俺が?何でよ。他にももっといるだろうよ。」

「僕の兄が 涼二さんの1年下で、工業だったんです。いろいろ話を聞いてて 凄いなーって思ってて。」

「君の兄さん、何科で 何部?」

「機械科で サッカー部でした。」

「名字なんだっけ。」

「丸山です。」

「1年下で、機械の丸山でサッカー部・・・。ああ、なんか わりと、うるさくてお調子者だった?」

「はい・・・・たぶんそれです・・・」

「俺が生徒会やってた時、野球部の試合の応援に駆り出されたんだよ。その時バスの中で 何かすげえ、うるさいのがいて、そいつが丸山って言ってたかも。」

「はい、すみません。たぶんそれ兄です。」

「バスの中で サッカー部の部長に 怒られてたな。」

「・・・すみません。確実に兄です。・・・」

そんな話をしながら 車は 某焼肉食べ放題の店の駐車場に、入っていった。

               ⑨ー(3)に続く





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