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記事随想-氷見線・城端線のLRT化検討

城端・氷見線のLRT化検討 JR西・県・沿線4市
JR西日本は29日、城端線と氷見線のLRT(次世代型路面電車)化に向けた検討を始めると発表した。新しい交通体系に転換して乗客の利便性を高め、路線の活性化を目指す。沿線自治体が求めていた直通化も議論する。完成時期や運営主体は未定で、建設財源など課題も多い。2020年春にも県や高岡、氷見、砺波、南砺の沿線4市と議論を始め、実現可能性を探る。(2020年1月30日・北日本新聞)
https://webun.jp/item/7633845

LRT化が提案された背景

JR西日本が、氷見線と城端線のLRT化について地元自治体に提案して、地元自治体も提案を真摯に受け止めるとのことです。

氷見線は富山県の高岡と氷見を結び、城端線は同じく高岡から南方にある南砺市の城端までを結ぶ、どちらもディーゼルカーがのんびりと走るローカル線。北陸新幹線の開業で、富山県内のJR北陸本線があいの風とやま鉄道に移管された後も、いわゆる並行在来線ではないとのことでJR西日本が継続して運行してきた路線です。

私はどちらの路線も訪れたことがありますが、共に風光明媚な素晴らしいローカル線でした。特に氷見線の雨晴海岸周辺は富山湾越しに浮かぶ立山連峰との絡みが見事で多くのカメラマンが傑作を残していますし、城端線も終着駅の城端駅をはじめ古くからの木造駅舎が残り、砺波平野の散居村や初夏にはチューリップ畑など長閑な景色が広がります。

その両線がLRT化の提案を受けたということで、正直驚きましたが、これも富山港線から転換を果たした富山ライトレールの成功が背景にありましょう。富山港線は、もともとは街中の短い駅間距離が続く同線に国鉄型の急行型電車が1時間に1本程度走っていたところ、LRTに転換して駅数も増やし、新しい低床型車両にバリアフリーのホーム、駅周辺への公共施設等の集約等を通じて、富山市が推し進めるコンパクトシティ政策の中心的存在として機能しています。今では都市再生のモデルケースとして取り上げられることも少なくありません。今年3月には、富山駅の南側に延びる富山地方鉄道のLRT・路面電車と直通運転を開始し、さらに便利になります。

氷見線・城端線の起点がある高岡にも路面電車が走っています。かつて加越能鉄道として走っていた路面電車が第三セクターの万葉線とその名を変え、低床型車両も走り、公共交通として大切にされています。そういったLRT、路面電車に対するこれまでの実績や地域の理解が今回の提案に繋がったのだと思います。

盲腸線の生き残り策

ですが、個人的には、今回の氷見線・城端線のLRT化は、富山ライトレールや万葉線と比べると、かなり条件的には厳しそうな印象を持っています。

まずは、氷見線・城端線は非電化であること。LRT化となれば電化設備を作らなければなりません。ただ電柱を立てて、架線を引けばいいわけではなく、変電設備なども作らなければなりません。さらには、駅のホームも低床型車両に合わせて作り替えなければなりませんし、新しい車両、新駅を増やすならその整備費用、今回の検討課題でもある高岡駅を境にした南北直結の費用など、どのくらいの整備費用がかかるのか、想像もつきません。

非電化のまま、起終点に充電設備を設けて、電気モーターで列車を走らせる技術はJR東日本の烏山線や男鹿線などで導入されていますので、こういった新技術も参考とされるかも知れませんが、いずれにしろJR西日本が単独で費用負担するとはとても思えず、いつも揉める地元自治体の費用負担がどの程度許容されるのかが成否のカギとなりそうです。

次に、市街地の中を走っていた富山港線や万葉線と違い、氷見線や城端線は、共に郊外路線であることです。鉄道は地域の足であると同時に、都市間を結ぶ速達性も求められます。LRTになればどうしても最高速度は落ちますし、駅が増えればその分、氷見や砺波、城端へ行くには時間がかかります。このあたり、両線の沿線には東海北陸自動車道や能越自動車道が整備されていますので、既に都市間輸送は自家用車を中心とした自動車交通に大半が移っているようにも思われますので、もはや都市間の速達性は捨てて、細かく駅を設けることで沿線住民を細かく拾うという方策なのかも知れません。とはいえ、城端線の末端区間などは田園地帯のど真ん中を行くなど、人口が決して多いとはいえない地域。こういうエリアにLRTが成り立ち得るのかは、あまり先例がないようにも思います。

このように、いろいろと心配な部分はありますが、北陸本線の第三セクター転換に伴い、いわば離れ小島のように残っている両線の未来を考えた時、LRT化はひとつの検討材料といえるでしょう。JR西日本としても経営効率が図れますし、両線を走るキハ40は国鉄時代から走る古参のディーゼルカーですから、延命工事がなされているとはいえ、いつまで走るかわかりません。人口減少や沿線高速道路の開通によって利用者が減っている状況を考えると、新しい車両を導入するのは躊躇するかも知れません。沿線自治体の理解の下、LRT化で細かく客を拾い、バリアフリー化を進める方が、両線の未来を考える上ではいい方向なのかも知れません。

地元自治体が交渉に乗ってくれるうちに

今回のLRT化検討は、まだこれから検討を始めるという段階です。費用負担や運営主体をどこにするのかを含め、実現に向けてはまだまだ越えるべきハードルがたくさんあります。

ですが今回、JR西日本の提案に対して、地元自治体は「真摯に受け止める」と回答しました。さまざまな課題に対して、真摯に向き合い、共に解決策を図っていこうという姿勢は、JR北海道の問題や、九州新幹線長崎ルートの問題、リニア中央新幹線の問題などで、何かと揉めることの多い自治体とJRの関係性を考えると奇跡的ともいえます。地元自治体が話を聞いてくれる今のうちに、両線の将来について、JR・地元自治体双方が歩み寄り、沿線にとって最善の策を引き出していければ言うことはありません。

(トップ写真は筆者撮影。2015年1月、城端線・越中山田-城端間で)

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