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緑の補色は全部赤

赤毛の彼女は太い肉をがつがつと二口かじって、背後の砂浜へと捨てた。
「いい島だ」
肉はぼおんぼおん、とバウンドして元あった場所に落ちる。
「ぐぐ……」
足元を見た。血濡れの迷彩を着た男が彼女の脚を掴んでいた。胸元には禍々しいヤギのピンズも刺してある。
「……やっぱ嫌な島。そうじゃない? 何? 悪の組織? どうでも良いけどさ」
彼女は足を払って散弾銃を一丁抜き、腕ごと肩を吹き飛ばす。
呻き声は無くなった。
少し、後ろを見る。同じような死体から出た血が日本の棺みたいに白い砂へと線を描いていた。彼女の立つ方へと、ずっと延びていた。完璧な都市計画じみて積み上げられた塹壕と土嚢の迷路に沿ながら。
ヤシの木は黙って、静かな人間たちを見下ろしている。
金網の門を蹴破り、女はため息をついた。
その時。
一瞬静寂を見せた島の浜辺は再び混沌を取り戻す。とてもバカンスは出来そうにない。
交渉決裂まであと14時間。
ならば日差しよりも、発火炎の方が似合っている。
それでもこのカオスは、不自然だった。
空から馬鹿でかい鉄のコンテナが轟音と共に降ってきたのだ。
「テロリスト相手じゃ、何起こっても不思議じゃないけど」
ずうううん。
「やっぱり嘘みたい」
ミンチと砂が巻き上がる。塵がゆっくりと落ちる。コンテナが開く。人が這い出す。海の光がまぶしかった。女だった。こちらへ歩いてきた。
散弾銃を無意識のうちに再装填する。構えると、丁度、目が見えた。
濁ったサファイア色をして、剣呑な目だった。
「……君も仕事で来ているの?」
「私は政治とか宗教の話は嫌い。あなたこそ何故ここへ?」
「悪いんだけどさ、秘密主義が——」
そいつはマグナムを抜いて赤毛の足を撃ち抜いた。
「私の前で秘密だなんて一切言うな」血飛沫がハイビスカスを濡らす。
「じゃあ何を言ったら満足する訳」
「私の質問に答えて」
「悪いけど、親玉の脳天は私が飛ばす」
サイレンが鳴った。
さて、これからどう片付けて帰ろうか。

【続く】

コインいっこいれる