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ゴスロリ重兵は革命の歌を聴かない PART THREE:白黒つけて

向かい合い、待ち構えるは、白い、ゴスロリ。

弁天は鼻で笑う。
「だけどボク、ゴシックの精神ってさ、ボクの服みたいに闇夜と思うんだよね。『光る欲望のシャンデリア』? よく知らないけどとにかくそういう事! それとおっぱいでけぇのも……気に食わねえ」
「………………」

目の前の「白ゴス」はただ夢を集めた生き物ではない。純白であるはずのロリータ服にはあからさまに返り血である飛沫の痕が存在し、そもそも指先は鉤爪だ。手の甲には小型の丸鋸を付けている。顔だって、口元がガスマスクで覆われている。時々、しゅうしゅうと呼吸音を漏らす。ここが申し訳程度の「ゴシック」要素だ。

「つまり君が刺客なんだね。順子を殺して、今度はボクらを特性手鎧で真っ二つにする魂胆か。いいだろう」

弁天は右手のライフルを即席相棒のキャロルへと投げる。「それ、持ってきな」ぎりぎりキャッチした。重みが腕をつたう。「……わかった」
弁天は目の前の白ゴスを睨み続け、一対一の状況を生み出す。

そのまま左手のライフルを背中に納める。取り出したのは、カランビットナイフ。派手な色をして、苦無に似た見た目で、メリケンサックを構えるようにして握るのだ。弁天得意のボクシング暗殺法。

「ボクが相手する。180秒。180秒だ」「…………………」「喋れよ」「…………」

白ゴスは電動丸鋸を回転させる。火花が散る。対する弁天は構えを固定する。程よい緊張が背筋を走る。死のリングと化したゴシック・ホール。巡礼階段めいたものに接続された中二階、年代不明の絵画が二人を見下ろす。先の戦いで破壊された彫刻は、冷たく佇んでいた。

「君、名前は?」「…………ヒナギク」弁天はにやりと笑う。「ボクはベンテン。一目でわかるよ。君がこれまでの連中とは違うって事。……ま、最後の刺客がそんな服着てるって事は君もアイツに雇われたんだろうね」「…………」
「黙ってようが、ココから先は踊れるだけ踊ってやるさ——」小さい身振りで挑発する。「——かかってきな」


【PART THREE:BLOOD WITCHES】


飛び交う刃。一ミリの間隔で回避し合い、お互い傷つくことも、傷つけることも無い。「やるじゃん」「…………死ねよ……!」「嫌だね!」

二人は過酷なチキンレースに挑んでいる。勝利条件は、先に急所を切り落とす。敗北条件は、敵の武装解除。普段とは逆である。トドメを刺す行為を先にせねば、得物を持つための腕は鋭い切れ味の刃物で両断され、無様な姿をさらす以外、道はない。

「どうかなッ!」弁天はワンツーを放つ。「…………ぬんっ」ヒナギクはしっかりひきつけ、ひらり、ひらりと避ける。そのまま丸鋸によるカウンターだ! 「当てさせない!」首を確実に狙った攻撃を、大きく仰け反り緊急回避! 髪の毛とゴスロリ装束の繊維がチリチリと吹き飛んだが、頸動脈断裂の悲劇は起きなかった。

ここまでで8回ほど、お互いに致命的となりかねない攻撃を繰り出している。30秒間でだ。ナイフと鉤爪が急所を襲い、拳と丸鋸が相手の動きを規制する。目には見えない陣取りゲーム。命を懸けて、一撃をぶつけあう。だからこそ、避ける。これも命がけだ。赤い絨毯と揺らぐシャンデリア、二人の動きは舞踏のよう。

「君もバレエ、習ってた?」
ヒナギクは踏み込み、そのまま鉤爪の突き。弁天は刃先ではじく。
「私が教えるのは……血の味と一瞬の痛みだ」
そのまま刃をヒナギクへ襲わせる。
「おお、怖。だから爆乳とは関わりたくないんだよ」
だが空いている鉤爪が、ナイフを掴む。
「なにか恨みが?」
間一髪丸鋸が弁天の腕を切断する直前、力づくで引いて手の中より刃を脱出させる。
「友達の彼女がね! 友達もろともトラブル連れ込む疫病神なんだ! おっぱいでかいし!」
ここで弁天は戦法を変える。柔道に似た格闘術の使用だ。相手が腕を駆使するならば、軸となっている足を襲えばよい。問題は、どうやって態勢を崩すかだ。敵を極めればたちまち自分が不利になる。

まずは組みつく前に、ナイフの連続斬り付けで牽制。わずかながらに距離が生まれる。不意を狙って足を払う! だがヒナギクは不敵な笑みを浮かべた。「愚かだ!」 丸鋸、鉤爪の引っ掻きを繰り出す。急所を確実にとらえていた。しかし。弁天が構えを変えている。不審に思ったのだ。
この攻撃と次の攻撃を知っていた、そう言いたげに弁天は上半身をガードする。

加速する判断と攻撃の中、時間はゼロコンマ秒だけ鈍化した。
「シューーッ…………」
得物の突きを解く。「しまった!」ここぞとばかりに、弁天の胴体めがけて回し蹴りを繰り出した。相手の策にはまったと見せかけた、超高度なフェイントの一撃。予想外の方向より飛んできた鉛入りロッキンホースバレリーナの威力は高く、思わず弁天は唇を歪める。レバーにダメージを受けたが、ぎりぎりステップを踏むことでダメージを逃がした。「そのまま倒れちゃえばいいのにぃ……っ」「まだまだッ!」
幸いにして、先ほどよりも距離ができる。次の手を意識する。

ここまで、持っている武器の殺傷能力に差があるとはいえ、実力はさして変わらない。60秒も経っていないのに、ここまでの戦いを繰り広げているのだから。修羅場を潜り抜けてきた者同士の死闘だ。そんな二人は痛いほど理解している。銃を使えば簡単に目の前の相手を吹き飛ばせるだろう事を。

「殺し屋」として雇われ、ここに居るのであるから、二人とも小さい隠し銃の一丁や二丁、格闘術に絡めて使う事は容易である。だが逆に、この開けたゴシック趣味の広間、次に二人の間合いが、銃を使わせない地形的状況を生み出しているのだ。

熟練の人間なら相手の発している殺気、つまるところ微妙な筋肉の緊張や、視線の動きで狙いを付けている場所がわかる。パンチ一発に比べるとはるかに繊細な動作を要求する射撃は、相手の動きを意識の外でも視認できるこの距離では却って動作数が増え、容易に回避できるばかりか無防備な隙を晒すこととなる。だからこそ恐怖と隣り合わせの戦いなのだ。負けは即ち、自分の不覚を意味するのであるから。

「なあ、石器時代のやり方でやろう?」

弁天は構えをもう一度変える。それは実に奇怪だった。中国拳法のようで、そうではない。かといって空手でもない。蛇や猫のような構えだ。

「なめてる?」「……いいや。友達の真似さ」「何があろうが、あと20秒で殺す。あの黒人も殺す」「いいねぇ。でも、デス・センテンスには早すぎるんじゃ?」「あと15秒」

湧き立つアドレナリンが空気を歪ませる。この間合い、やることはただ一つ。両者同時にありったけの力を武器へと込める。読み合いも互角。ナイフと丸鋸が重なり合う。X字の武器交差、つまり鍔競り合いだ。ギリギリと刃先が音を立て、火花を散らす。回転による威力が無い分、弁天は不利!
「……貰った……ァ!」「そのまま押してろ」
弁天は唐突に力を緩めた。猫の手のような構えを取り、丸鋸の刃先を数ミリ上へずらしたと思えば、腰の筋肉が限界を迎えるまで足でブリッジ受け身の姿勢を取る。鍔競り合いを解除し、力を抜いたのだ。自らの攻撃に引っ張られるようにしてヒナギクは前傾する。勢いがついていた。弁天の顔とヒナギクの胸部は数センチの距離! ヒナギクの腕先は床めがけて一直線! だがチャンスとばかりに、「——この首はぶった切る!」ヒナギクは首を狩ろうとする。腕を数センチ、戻したのだ。
 
「それはどうかな」

ここで弁天は奥の手を用いた。だらしなく垂れていた両脇を締め、ヒナギクの二本の腕をつかむ!

「何ッ!?」勝ちを確信していたが、あまりにも奇抜な策に動揺した。弁天は隙を見逃さない。「食らいやがれ!」そのままノーザンライト・スープレックスの要領で、ヒナギクの後頭部から背中を地面へ勢いよく叩きつけた!「ぐうぅ!」

弁天は腕を離さない。アキンボライフル使いであるが故の握力だ。固めた姿勢を保ったまま、指先でナイフを滑らせて、刃先でヒナギクの腕部を真っすぐ切り込む!そして肩にぶっ刺した。鮮血が噴き出す。「きぃやあああああああッ!」カランビットナイフ特有の小回りがここで作用したのだ。

「しょっぱいよ君の血!」
顔面に返り血が掛るが猛攻は止まらない。腰まで手を回し、中腰になった後、ヒナギクを逆さ釣りにする。彼女の天地はひっくり返った。スカートもシャッターじみて蛇腹織りになる。蛍光色の下着を晒す。「ま、待て!」「……さて、今何秒だ?」

無慈悲に弁天はパイルドライバーを繰り出す。頭蓋への強烈な一撃に、ヒナギクはなすすべもなく四肢を投げ出した。

勝敗はここで決した。

脳震盪による行動不能。刃同士による決着が不能なら、原始的な組み付きと斬り込み、少しの蛮勇で挑むほかない。そして、間一髪勝利した。
「ギリギリだ……」ゆっくり息を吐く。
ヒナギクはショックで痙攣しているが、念のためだ。弁天は十字を切った後、ヒナギクの肩より自分のナイフを抜いて、そのまま足の腱を斬る。ブチン。「ンきああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」叫ぶ彼女を一瞥。反対側も。

ヒナギクが数秒、意識を手放す前に見たのは、弁天の目だった。

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14秒後。自分でも思ったより早く、ヒナギクは目を覚ます。足は動かない。さっき、腱を切断されたからだ。腕も動かない。筋肉をズタボロにされたからだ。口が動かない。なにか、咥えている。

おそるおそる、視線を鼻の方に向ける。金属が見えた。緑色の塊もだ。すぐに理解した。手榴弾を咥えている。見下す勝者はこう言った。
「完全に慈悲をあげようと思ったけど。やっぱ、仲間うちの首切り落として投げ捨てる相手を逃がしたんじゃ、キャロルに悪い。だからこれで貸し借りなしだ。口を離した瞬間、ドカン。つまり……仲間の誰かに爆弾処理してもらったら、いいと思う」「…………」「ガスマスクなきゃ、お人形さんみたい」「……………………」「ロリータ一辺倒は苦手だけど」「…………………」「好みの顔。元気しててくれよ」「………………………………………………」

弁天は背中からライフルを取り、両腕で大事そうに抱えると、幽霊がステップを踏むように歩き出した。優雅な背中をヒナギクは目で追いかける。奥まで行って、弁天は何か祈る。何度も、祈る。再び歩き出す。エレベーターの音。

弁天はカゴに乗り込む。このまま、大ボスめがけて一直線だ。人知れず、轟音が響いた。弁天はあまり気にしなかったが、それは下の階での爆発だった。3分が経っていた。

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勝ったッ!第3部完!
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