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『殺人相談承ります』

確かに殺しは簡単だった。だけど人の血液がこんなに温かいなんて知らなかったし、何より生きてる時より、アイツの目が怖かった。

「——オイオーイ。加内氏、元気? 捕まっていませんね? ちゃんと熱湯ばらまいた? 死亡推定時刻は一番のヤバ要素なんです」
「ああ、やった。やった。亜狗亥さん……俺はやったよ……」
「ウム、物凄くビビってますね。良い良い。一般人が殺し屋出来ない理由です。解決方法教えましょ。まず共犯者たる私の顔を、思い浮かべてくださいな」

彼女との出会いはひと月も前。

「仕事を引き延ばす。つまり脳がトロくて休んでんだよなあ」とか、嫌味吐くしか能のない上司の久豆を、ぶち殺したいと思った時期の事。
転機は些細な事だった。行きたくも無い飲みの時。忘れもしない電話番号『052-36-2436』。
6回無視しても掛けて来た。しびれを切らして出てやった。
勿論誘った久豆からはグチグチネチネチ言われた。

『殺人相談承ります。アッ切らないで! 共犯の人間って言うのは絶対信頼置ける自信があるから電話をしているわけであって!』

そこからは、マッハの速度で話が進んだ。
『アクイ人生相談事務所』。
名古屋内でも奇麗な一等オフィスで打ち合わせ。楽な凶器は重力で、一番恐れるべきものは、刑事ではなく自分の身内。
あの眼鏡の女は、ドブ底みたいに殺しを知ってた。

死体に目をやる。楽ではなかった。でも、彼は間抜けに死んで、大口、開けてる。
「——正当化して……最後に……ナイフの重さを確かめて」
ナイフ……俺が、やったんだ。

その時だ。外で単車の音がして、瞬間ドアが蹴破られ、玄能を握るスタジャン女が乱入したのは。

「私の推理も捨てたもんじゃない。『悪意の殺し屋』、殺しの対価は知ってるね?」
俺はすかさず電話に叫ぶ。
「何か来やがったぞ!」
「所謂、探偵の乱入ですね。『殺し合い』は別料金です」

人殺しは頼む物だと、ここでようやく理解した。悪い事じゃないってことも。

【続く】

コインいっこいれる