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【アメコミ】ガールパワー!女性主人公のアメコミ紹介①オンラインゲームを通じた成長を描く「イン・リアル・ライフ」


ふと本棚の半分くらいが女性主人公もののアメコミだという事に気が付いたので、これらの紹介記事を書いていきたいなと思い立った。

アメコミも4割くらいが女性読者という統計があり、また作家や編集者も結構な割合で女性がおり、女性の視点を持つ作品が沢山あるのも当然の帰結ではある。
ジャンルも日常からSF、犯罪サスペンスやファンタジーと様々。
アメコミの女性主人公ってワンダーウーマンとかキャプテンマーベルでしょ?ああいう腕力系ヒロインに興味ないんだよね〜」と思ったそこのあなた、意外とそうでもないんですよ。

in real life あらすじ

今回紹介するのは「イン・リアル・ライフ」。オンラインゲームを舞台に少女の成長を描く、コリイ・ドクトロウによって2004年に書かれた小説を原作にしたコミック。
(その為、ここで描かれる作品内容は必ずしも現在のゲーム環境を反映するものではないが、今も通じる部分はある)

主人公は学校でプログラミングを学ぶ女の子、アンダ。学校でテーブルトークRPGを遊ぶようなオタクだ。

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ある日著名なゲーマー、リザがアンダの学校で講演会を開く。リザは女性が女性アバターを通じてオンラインゲームをプレイする事を避ける傾向を問題視しており、
(背景にはオンラインゲーム上のセクシャルハラスメントの問題がある。詳しく知りたい人は下記の記事なんかが参考になるかもしれない
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ab.21873)


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「女性として」プレイする女性を後押しする為にギルド(クランともいう。目的を同じくするプレイヤー達のチーム、寄合のようなもの)を開いているという。


リザに触発されたアンダは、「女の子としか話さないから」と親を説得してカードで月会費を払ってもらい、ファンタジーMMO RPG「コアーシーゴールド」を始めるのだった。

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アンダのアバター。ゲームの中では誰でも理想の自分になれる

開始してすぐにゲームの世界に没頭し、順調にプレイヤーキャラクターの成長を重ねていくアンダ。やがて彼女の姿が同じクランの先輩であるルーシーの目に留まり、声をかけられる。

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彼女曰く「ゴールドファーマー」と呼ばれる海外の業者達がbotを使って不正にアカウントのLVを上げたり、レアなアイテムやゲーム内通貨を取得し、それをリアルマネーで売買しているという。
ルーシーは彼らのbotを殺して活動を阻害し、それによって依頼主達から報酬(リアルマネー)すら得ているのだった。

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最初は話を疑わしく思うアンダだったが、ルーシーと共に一度bot狩りに参加すると、そのスリルや戦いの興奮に取り憑かれ、夢中になっていく。弱々しいドワーフのアバター達を殺しパワーアップしていくアンダは、いつしかルーシーの相棒となる。

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「整理させて。メキシコ語は?」「bot」「日本語は」「botじゃない」「韓国語」「botじゃない」「中国語」「絶対にbot。ねえ、そんな難しい話じゃないんだよ。話しかけてみて、返事をしなかったり英語で話さなければ殺せばいいの」

皆さんお察しかと思うが、実際のところ彼らはbotではない。ゴールドファーマー狩りの最中、一人逃げ出したドワーフを追ったアンダは、気まぐれに彼に話しかけた事をきっかけに彼らの実態を知る。

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レイモンドを名乗るゴールドファーマーによると、彼らはNYCIなる企業に雇われた中国人の若者達であり、レイモンド自身は16歳だが18歳と偽って学費を稼いでいるという。彼は一日12時間PCに向かって会社の為にノルマをこなし、トイレに行くと言っては身体を休めている。
その過酷な労働環境に驚くアンダは、彼の為に何か出来る事が無いか考え始める。しかし折り悪く母親にクレジットカードの謎の入金を発見され、誤解を受けてネットを切断されてしまう。
「謹慎」の間もゴールドファーマー達の事が頭から離れない。そこで彼女が閃いたのが、父親の会社で起きたストライキだった。

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ネカフェからゲームにアクセスしたアンダはレイモンドに接触。体調を悪化させて倒れた彼は、休養中の賃金も支払われず睡眠時間を削って穴埋めするという負のサイクルに陥っていた。
アンダは働く雇用者に医療保険の適応を要求し、拒否されるなら仲間と団結して労働争議を起こすべきだと提案する。

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上手く行くかどうか不安がる彼に、自分も父親にストライキについて詳しく聞き、きっと力になると約束するアンダ。
その言葉に勇気づけられるレイモンドだったが、事態は二人が思うようには転がらず…

オンラインという「リアル」

本作には様々なテーマが内在しているが、大きな主題は「ネットもリアルの一部」という事だ。
テレビや電話が現実を伝える媒体である事と同様、ネットも媒体に過ぎない。オンラインゲームだってそうだ。アバターの向こうには生身の人間がおり、生活がある。
ネットに慣れていても不慣れでも忘れがちだが、交わされる言葉やそれによって生まれる感情も本物だ。心無い言葉を発する前に自分の想像力が欠けていないかどうか、今一度考えてみる必要があるかもしれない。

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また、ネットが媒体である以上、向こう側…それこそ地球の裏側の現実の問題まで、思いがけず伝わる事もある。アンダの身に起きたように、受け取った人間に変化が生じる事も起こり得る。
彼女はゲームでの体験によって、それまで何の興味も示さなかった級友やニュースに意味を感じ始める。
「中国人が大変だからどうだっていうんだ。君に関係無い事じゃないか」と思うかもしれない。それも正論かもしれない。
しかし一度繋がってしまった相手の事を放っておけなくなるのもまた、人間の性質だと思う。ネットで知り合った友人だって、「現実の」友人なのだ。

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子供のネットを介した社交と成長についてポジティブに捉えたこの物語には、親子関係という要素もある。
「我が子はネットで一体どこの誰と繋がっているのか」という懸念はもっともだと思う。大きな失敗例を我々は幾つも知っている。
もしあなたが親であるなら、本作はデジタルメディアと教育について、ひょっとしたら考えるきっかけになるかもしれない。

子どもによるデジタルデヴァイスの利用、その「質」の重要性について思うこと:伊藤穰一
https://wired.jp/2019/06/30/ideas-joi-ito-screen-time-connected-parenting/

そういえば作品の題材の一つであるゴールドファーマー(RMT)も「現実の」問題だが、初耳で興味を持たれた方はネットで調べてみると、また一つ未知だった「現実の」世界が見えるかも。参考URLをまた一つ貼らせてもらいます。

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MMORPGとRMT RMT労働者
http://www.ferrocar.net/worker.html

ジェン・ウォンのアート・スタイル

本作の原作が短篇小説である事は先に述べた通りだが、コミカライズによってもたらされる最大の効果はアートによって与えられる印象だろう。
ジェン・ウォンによって描かれる世界は、主線に残る筆のタッチに加えて、水彩による彩色が柔らかく、目や口が大きく描かれて輪郭に丸みを帯びた人々には優しい印象を受ける。

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洋風のファンタジー世界にはアジアンなテイストも入っており、小説には無かったゲームの細部がジェン・ウォンのイマジネーションによって魅力的に仕上がっている。
彼女のオリジナル作品はまた別の記事で改めて紹介したい。

最後に

ちなみに実は原作はweb上に公開されている。無料で読めるので比較してみても面白い。ジェンの手によるコミックとは設定や展開が結構異なるし、実は原作はよりラディカルなフェミニズムを感じさせる。男性が作った女性アバターの描写とか、思わず笑ってしまう。

Anda's game

https://www.salon.com/2004/11/15/andas_game/

ブログの為にコミックを読み返して、初読では気付かなかった事、考えなかった事を色々再発見した。
ブログは読み手を意識して書くものだが、実は一番自分のタメになっている気がする。

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読んで頂きありがとうございます!
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Twitterの@boywiththethornです。映画・アメコミ・小説・ゲームの感想文置場
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