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【インタビュー】 趣味の社交ダンスで人生を切り開いた --4回の転職も挫折も、整体院をはじめるための糧にしてきた

「興味本位ではじめた社交ダンスが、人生の道を作ってくれたんです」

そう話す男性がいる。

杉並区高円寺にある「メディカル整体あい治療院」の院長、神田浩士さんだ。あん摩マッサージ指圧師の神田さんは、社交ダンス歴30年だという。

サラリーマンを辞め開業するまでの22年間、神田さんにはいくつもの転機があった。脱サラ後に専門学校入学、4回の転職を経て、それらの経験をもとに開業。神田さんがこれまで歩んだ道のりについて詳しく話を伺った。

すべての始まりは【社交ダンス】から

私自身の根っこは【社交ダンス】にあります。大学時代にはじめたんですが、『体を動かしたい』『女の子と仲良くなりたい』っていう下心がキッカケだったんです。軽い気持ちではじめた社交ダンスが自分のキャリアにこんなに影響を与えるなんて、思ってもいませんでした」

大学時代、神田さんは「全日本学生競技ダンス選手権大会」で準決勝に進んだというから、社交ダンスはかなりの腕前だ。

「脱サラして専門学校の試験を受けたんですが、もし受からなかったらダンス教師になろうと思ってたんですよ。実は脱サラして専門学校に行けたのも、社交ダンスのおかげなんです」

脱サラして専門学校に行けたのが、社交ダンスのおかげ?どういうことだろう。

神田さんは、大学卒業後に入った食品メーカーで営業をしていた。知り合いに声をかけられ、営業のかたわら、社交ダンスのアルバイトを始める。今から25年ほど前、副業にそれほど厳しいルールがなかった時代だ。

「ダンス喫茶、今でいうダンスパブでのアルバイトでした。お店に来られたお客さんの相手をして踊るのが仕事。サラリーマンをしながら、週に何回かダンス喫茶で働きました。そのアルバイト収入があったので、会社を辞めて専門学校に入っても生活していけたんです」

社交ダンスをはじめたのがスタート地点で、社交ダンスが道をつくってくれたというか。社交ダンスという軸があって、流されて今ここまで来たなという感じです」

脱サラしたいのに人生に明確なビジョンがなかった

営業をしながら、神田さんは自分には向いていないと感じていたそうだ。

「初めて独立したいと思ったのは営業をしていたころ。食品メーカーの営業だったので、お店のオーナーさんと接する機会が多くて。独立して商売している人がカッコよく見えました。自分がやりたいことを通してるなって。職人気質への憧れみたいなものかな」

独立してみたいけど…神田さんは悩みはじめる。でも独立するといっても、今後の仕事としてなにを選べばいいんだろう。

独立したいと思うものの、人生に明確なビジョンはなかった。書店に行った神田さんは資格の本を手にとる。

「その本に『整体』『カイロ』という文字を見つけて。今後の仕事を選ぶとき『身近で、廃れなくて、社会が変わっても続いていく仕事』がいいなとは思っていました。だからこの文字を見たときに、健康に関わる仕事か…とぼんやり思ったんです」

「小さいころから手先が器用で、社交ダンスをはじめてからは体に関わることに興味がありました。ダンスを通じて、こういう動きをすれば体はこうなるということを分かっていたので」

会社を辞めたい。整体などの手技療法に興味はある。でもだからといって、会社を辞めてどうしたらいいのか。今さら実家に戻るつもりもないんだし。悩む日々が続いたという。

「とにかく今の仕事には区切りをつけようと決めました。社交ダンスのアルバイト収入で、生活していける目途が立っていたので。両親に資格をとって身を立てたいと告げ、専門学校を受験しました。『あん摩マッサージ指圧師』の資格をとるためです」

転職1回目 ーー 指圧学校の教員に  「教員になったのは社交ダンスのおかげ」

会社を辞めた神田さんは日本指圧専門学校を受験し、無事に合格。神田さんが28歳のときだった。

専門学校に3年間通い「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格を取得。その後は鍼灸マッサージ教員養成課程で2年間学び、指圧学校の教員として働き始める。

指圧学校の教員になったのも、社交ダンスのおかげだったんです。その学校の校長先生が偶然にも社交ダンスをされていて『あなたも社交ダンスやっているの?』という話になりました。その話をしてから校長先生が目をかけてくれるようになり、『うちの教員として働かない?』と声をかけてくださって。厚労省から『専門学校の教員を増やすように』という通達があった時期と重なったのも、幸いでした。」

「教員をやってみようと決めた背景にも、社交ダンスがありました。社交ダンスを通じて、体の扱いや教えることに慣れていたので、その経験がよりどころとなりました」

転職2回目 ーー 訪問マッサージ現場へ  「初めての現場で自分を見失った」

指圧専門学校で教えはじめて9年目、神田さんは『現場』に出ることになる。教員を辞めマッサージの現場で働こうと。

「卒業後に治療院で働きだした教え子が『学校で習ったことだけじゃ通用しない。現場で一から覚えなさい』と言われる、という話を何度も耳にして。資格を使ってちゃんと食べていくためには、現場での経験が必要だと改めて思ったんです」

神田さんは教員を辞め、訪問マッサージ会社で働き始める。

「介護やリハビリが必要な高齢者のご自宅や施設に行き、マッサージするのが仕事でした。マッサージというより、リハビリですね。現場でのすべてが学校では知りえなかったことばかりで」

「その当時の私は、マッサージの腕さえあれば患者さんは良くなると思っていたのに、そうではなかった。寝たきりや認知症の方も多く、コミュニケーションもとれない。当時は介護の知識もなく、患者さんになんの価値も提供できない自分が情けなくなりました」

「現場ではあたりまえのことを知らずに教壇で教えていたのか、という自分を恥じる気持ちと、今までは教える立場だったのに、というやっかいなプライドがあり、完全に自分を見失っていました」

このままでは自分がダメになる。悩みぬいた末、神田さんは退職する。

転職3回目 ーー 介護現場へ  「今まで見たことのない世界を体験した」

訪問マッサージ会社を辞めると、また悩む日々が続いた。神田さんは介護現場で働く知人に相談する。

「その知人から『介護現場で働いてみたら?』と言われました。そこでヘルパー2級の資格をとり、老人ホームで働くことにしたんです」

「老人ホームで働くと決めたものの、手技療法で身を立てるという信念を失い、大きな痛みを感じていましたね

自分の信じる道を失ってしまった。その痛みを感じながら働く神田さんにとって、介護現場は驚きの連続だったという。

「今まで見たことのない世界でした。高齢者の身の回りのお世話、お風呂の介助、トイレの介助などすべてさせていただきました」

「老人ホームで働きながら、経験ってすごいなと。高齢者の24時間はこうやって流れていくんだなと体感できました」

介護現場では、高齢者と心が触れ合うことも多かったという。このような介護経験を積んだ神田さんに、再び転機が訪れる。

転職4回目 ーー ふたたび訪問マッサージ会社へ  「過去の経験がすべて繋がっている」

縁があり、神田さんは大手訪問マッサージ会社に転職した。「マッサージ」という1度はあきらめた自分の信じる道が再び開かれ、手技療法で身を立てるという信念は強くなった。

「最初の訪問マッサージ会社のときと比べ、自分の気持ちがまったく違いました。介護現場で働いた経験があったからです。その経験が活かされて点と点がつながったな、そんな感覚がすごくありましたね

「訪問マッサージは、単に腰や肩を揉むだけではありません。高齢者のお宅を訪問するというのは、その人の生活の中に入っていくことなんです。生活全体を見ることで、高齢者の生きる力を支えたいって。このことは、介護職を経験したからこそ気づくことができました」

「あるとき社内で有志を集め、マッサージの自主勉強会を始めました。専門学校で教えていたころの感覚で。すると、社長が声をかけてくれたんです。『社員研修を行う部署で働いてみないか』と。それをきっかけに、訪問マッサージをしながらスタッフ教育の仕事も任されました」

ここでも、点と点が繋がった。専門学校での教員経験がしっかりと活かされたのだ。

「私の場合、前の経験が必ず役に立っているんです。過去にやってきたことがすべてつながって今に至る、という感じです」

杉並区高円寺に「メディカル整体あい治療院」をオープン。施術を初めて受けた人は「なにこれ?」と驚く

2020年3月、神田さんは「メディカル整体あい治療院」を開院した。他の整体院とはちがう、神田さんの施術のセールスポイントはなんだろう。

「人は本来、自ら健康になる力をもっているんです。私がしているのは、良くなろうとする力を引き出す方法。そっと優しく手をあてるだけです。力はほとんど使いません。薬や道具も使いません。体に手をあてるだけの軽い刺激でも、十分効果が出ます」

「小さいころ、お母さんにしてもらいましたよね、『手あて』って。痛いところにそっと手をあててもらったり、さすってもらったり。それと同じような感じです」

「体に手をおくと、患者さんから『あったかくなってきたけど、先生なにしてるの?』と言われます。『手からなにか出してますか?』とも言われます。なにも出してないんですよ。そっと手をあてて、皮膚や関節周辺を操作することで体を整えるんです」


(写真提供: 神田浩士さん)

神田さんの施術を初めて受けた人は、「なにこれ?」と驚くらしい。不思議そうな表情を浮かべる方もいるのだとか。体への負担が少ないので、高齢者にも好評だという。患者さんの多くは口コミを聞いてやってくる。

「大切にしているのは、患者さんの痛みがとれること・体が動きやすくなること。患者さんには『快眠・快食・快便が健康の柱なので、そこを目指すように一緒にやっていきましょうね』と声をかけています」

睡眠のためのマッサージ、「手あて」教室。やってみたいことはたくさんある

「メディカル整体あい治療院」をオープンして1年半。神田さんは、今後どんなことをしていきたいのだろう。

「やってみたいことは色々あるんです。特に50代、60代の人に、いまのうちから体を整えることの大切さを知ってほしいですね。介護現場を見てきて思うのですが、10年、20年後に人の世話にならないためにチェックアップ感覚で整体やマッサージを受けに行く、そういう利用を促していきたい」

コロナの影響で運動不足になり夜眠れない人が増えているので、そこにもニーズがある、と神田さんは言う。

「睡眠のためのマッサージを考えています。マッサージを受けたら血行がよくなり眠くなります。でも治療院での施術だと、そこから家に帰らないといけない。だから自宅で施術してさしあげたいな、と」

自宅に呼べるマッサージのようなものだろうか。

「そうですね。こちらからご自宅に伺って施術をし、終わったらそのまま寝ていただく。他人を家に入れるという敷居があるので、そこをクリアしたいですね」

「良質の睡眠をとれるような手助けをしたい。血行を良くして自律神経の働きを整えれば、体はほぐれてぐっすり眠れます。健康の柱の1つ、『快眠』にも直結します」

「そのほか、『手あて』を教える講座も面白そうだなと思っています。私は治療院での施術のほか、鍼灸学校や整体スクールでも教えているのですが、それらは仕事としてやりたい人向けの講座。そうではなくて『手あて』を家庭で楽しめるような、そんな教室をやってみたいです」

「家で気軽に施術できるような手助けをしていきたい。『手あて』をしながら、子供、親、パートナーとコミュニケーションをとれます。なんといっても、スキンシップになりますから」

すべてのはじまりは社交ダンスだったという神田さん。社交ダンスのことも整体のことも、明るい表情で話してくれた。患者さんともこんなふうに接しているんだろうな、と容易に想像がつく。

今後も『手あて』をとおして、患者さんの健康の手助けをしていきたい。笑顔でそう話す神田さんが院長を務める「メディカル整体あい治療院」は、こちらです。


インタビュー・執筆: み・カミーノ





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