不器用なくちびる

新代田の駅を出てすぐの横断歩道を渡り、住宅街を少し入ったところにあるドーナツ屋さんに来た。

ドーナツを食べに。カフェラテを飲みに。

ここのドーナツは、生地に砂糖を使っておらず、パン生地なのだけどパンぽくはない。甘くないケーキとパンの中間な感じ。甘くないぶん、トッピングの味がちゃんとする。

お店に入ると、左手のカウンター席はもう隣を一人ぶん空けるように人が座っている。

座るなら手前のテーブル席しかないと怖じ気づきつつ、エスプレッソとダークチョコレートを練り込んだドーナツと、カフェラテを頼む。

本当は、以前来たときにオーナーが貸してくれたCDを返しにきたのだけど、なかなか言い出せない。

カフェラテを飲み、チョコレートで口の周りを汚しながらドーナツを食べる。

CDは家でなかなか聴けなかった。実家にはオーディオがあったけれど、今家でCDを聴くならパソコンしかない。

パソコンで聴くとなると音楽を聴いている感じもしなくって、およそ文化的な生活ではないようだ。

店から先客がいなくなり、ドーナツを食べ終えカフェラテを飲んでそろそろ腰を上げる。

トレーと皿を返し、CDのことを話す頃だ。

お店のスピーカーで聴いたときと、家のパソコンで聴いたときの違いや、オーディオがないとなかなか聴く気分にならないことを言いたかったけれど、うまく言えない。

これから先、オーディオでCDを聴くことも、それについて語る言葉も失くしてしまうのかもしれない。