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名刺

 私がホームセンターに勤めて以来、店長になっても、実は名刺は持っていなかった。不要だろうという上層部のお考えであり、実際私も使う場面なんぞ、そうはないので必要ないと感じていた。
 ところが、私がきっかけで名刺を作ることになってしまった。
 ある店でクレームが発生し、相手に挨拶にいったのはいいが、「名刺も持たんやつには会わない」といわれてしまい、それを上層部のえらい人に電話で告げた。以来、店長だけは名刺を作ることになった。
 今の新体制では売場のリーダーも持っている。高額にもなりかねない工事関係を受けるさいに、名刺も持たないでは不審がられる、というのが理由であるが、ごもっともな話である。
 ただし名刺を作るのはいいのだが、あまり使うことがないうえに、異動がやたらと多くて(辞める人間が多かったからもあるし、若手をどんどん登用していったのもある。もっともその期待された若手も次々と辞めていったが)使い切ることはなく、いろんんな店の名刺が、たまる一方であった。今では捨てるに捨てられず、思い出の品としてとってはいるが、メモ帳にもなりゃしない。押し入れの天袋の奥の方にしまってある。
 名刺といえば、一番使ったのが、佐世保で広告代理店に勤めていた時である。これは営業職だから名刺は必需品である。当時の政治家先生から商店街の店主に至るまで、散々配って回った。わずか2か月くらいの期間ではあったが。
 学生時代にも名刺は作った。スポーツ編集局主幹の名刺と、卒業アルバム委員会の名刺だ。どっちもあんまり使い道はなかったので、必要性はあまりなかった。余ってるはずだけど、どこへ行ったかは不明である。
 当然ながら、配っているのだから、貰った名刺もたくさんあるはずなのだが、それは全部捨ててしまった。これからの私の人生には何の影響力も与えないだろうから。
 紙切れ一枚に会社の重みなんぞ感じたこともないが、あるよりは、ないほうが気ままでいい。これから先、名刺なんぞ作ることはないだろう。 
 


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