このYouTubeがレガシーになる日 ~神田伯山真打昇進披露興行~

 松之丞改め、六代目神田伯山の襲名(というか真打昇進)披露興行が盛り上がっているらしい。

 最近、寄席にいけていない身からすると、見に行っている人たちがうらやましいなあとも思うし、これほど並んでまで見に行きたいっていうほどの情熱が自分にはないなあとも思ってしまう。

 毎日、興行の様子を、それも楽屋という裏側を見せてもらえるのは本当に素晴らしい。 

 楽屋で何が起きているか、特にこういった披露興行のときなにが起きているか、というのは、芸人の枕でその断片を知ることはあっても、素人の「目に触れる」機会はなかった。

 これは画期的な試みだ。毎日、楽しみにしている。

 同時に、一連の動画は伯山が後に名人となった時に「レガシー」として残るだろう。

 従来は、観に行った人だけが、後々になって「小三治の真打披露興行を観に行ったよ」などと語ることができた。
 真打披露興行の全容(特にその裏側)というのは記録として残らなかったのだが、今回こうやって動画として残ることで、三十年後、四十年後、YouTubeというメディアは廃れてしまっているかもしれないが、何らかの形で動画は残るだろう。
 今日でも、志ん朝や圓生、志ん生の往年の映像や音声を享受できるが、伯山に至っては、真打披露興行の「裏側」まで振り返ることができる。

 そして、「裏側」を記録したはじめての芸人としても、名人:神田伯山の先駆性は語り継がれるだろう。

 それは、たとえば半世紀後、いや1世紀後に、「2020年頃の真打披露興行はこのように行われていたらしい」という記録としても重大な価値を持つことになる。
 このYouTubeには、伯山だけでなく、多様な芸人が登場する。100年後、卒論で「21世紀前半の落語芸術協会の危機と逆襲」について書く奇特な学生が出てきたとしたら、このYouTubeの映像を見て、「ああ、やっぱり寿輔師匠は本当にこんな派手な着物を召していたんだな」と嬉しくなるだろう。

本当のレガシーになるために

 素人が評論家ぶって言うことではないけれど、この動画が本当のレガシーになるために、落語芸術協会にはぜひ、がんばって寄席を盛り上げてほしい。
 今、伯山は「最もチケットが手に入りづらい」芸人と言われているそうだけれど、もう少し落ち着いてきたらでいいので、普段の何ともない芝居の、わりと早い出番なんかに伯山が出てくるようになってほしい。

 それは、伯山に寄席に出つづけて欲しい、ということ以上に、伯山に並ぶ人気芸人が出てきて欲しい、バラエティに富む人材が出てきて欲しいという、寄席が好きな1ファンとしての希求だ。

 池袋の夜席あたりで、客が本当に3,4人しかいない芸協の芝居もそれはそれで大好きだったのだが(往年の川崎球場もこんなだったのかと考えながら、昔昔亭桃太郎の落語を聞いた)、興行の世界でそれは本来望ましくない姿。

 落語界のパ・リーグこと落語芸術協会の逆襲が始まるのが、楽しみだ。