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ハーレムの黒人たち

前回からのBlack Lives Matterの流れは続きます。

黒人作家の本を読みたくなる気持ちとは裏腹に、昔は自分の店でも、たまに見かけたボールドウィンやトニ・モリソンも店頭にも書庫にもなく悶々としていると、ふと植草甚一のスクラップブックに黒人をテーマにした号が何冊かあったのを思い出した。20号の「ハーレムの黒人たち」が比較的近いところにあったので手を伸ばしてみる。

ジャズ界の裏話から始まり、ブラックナショナリズム、マルカムX(植草さんの表記に準ずる)、ボールドウィンのエッセー「ブルースの効用」について、1964年のハーレムでの暴動のこと、「アフリカへ帰れ」のマーカス・ガーヴェイ(こちらも植草さんの表記に準ずる)、ロスのワッツ暴動、マーティン・ルーサー・キングのこと、コロンビア大学の紛争、などのキーワードについての興味深いチャプターが並ぶ。 植草さんが取り上げた「ジェームズ・ボールドウィン君、この夏の黒人暴動が心配なんですが・・・」というエスカイアでの対談形式の記事には黒人の問題だけではなく、白人の問題も大きいということが書かれている、この本の肝というべき記事で、興味深く読めた。興味を持った事柄は雑誌などからも貪欲に情報収集する植草甚一ならではの記事であろう。

ただ気になったのは、ボールドウィンの受け答えの中に、若い人に言ってもわかってくれないのではという世代間のギャップや暴動が繰り返されることに対して少し諦めているところがあったこと。ウィリアム・メルヴィン・ケリーも「ぼくのために泣け」のはしがきに、作品の中にアメリカの白黒両人種間の問題の解決策や解答が隠されているのではないかと期待されるが、人間そのものの姿をきわめていくのが作家の仕事であって、思想を解明するのは他の学者だとクールであったし、作家はそういうものかもしれないなとも思った。

この「ハーレムの黒人たち」は60年代のアメリカ社会の中の黒人問題を立体的に大きく捉えられることのできる1冊です。しかも日本語で。 

植草甚一スクラップブック20
「ハーレムの黒人たち」
晶文社 1978年発行
装幀 平野甲賀
イラストレーション 小島武

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