ある時間犯罪とその共犯について①

 『レッドサン ブラッククロス』というタイトルがある。あるときは架空の時間線をたどった世界の戦争を扱ったボードゲームであり、あるときは小説であり、いくらかのものにとっては聖典のような扱いを受けている。

 小説版の外伝にて著者、佐藤大輔は自らを時間犯罪者と称し、タイムパトロールとの逃走劇を見せるメタ短編を書いている。今回のタイトルはそれにちなんでいる。

 小説版『レッドサン ブラッククロス』は、世界の覇権をかけて、第二次大戦を生き残った日本とドイツが戦争を繰り広げるという架空戦記というジャンルに属する小説である。

 小説の歴史の改変点の発端は日露戦争に遡る。日本海海戦で勝利するも、大陸に展開した陸軍の錯誤により陸戦で敗走し、大陸に拠点を失った日本は、同盟国たる英国の支援を受けつつ海洋国家として経済成長を遂げていく。そして、第二次世界大戦で本国を失った英国とともに、ドイツのアメリカ合衆国侵攻から始まった次の世界大戦、第三次世界大戦を戦うという展開だ。

 (日露)両軍間に休戦が成立した時、日本が大陸に維持していた地域は、遼東半島周辺だけになっていた。同じ年の9月に結ばれたポーツマス講和条約は日本陸軍の犯した大失敗を追認する形になった。日本が大陸に保持できた権益は遼東半島――旅順・大連だけであった。『レッドサン ブラッククロス』1巻59頁

 この世界の日本は、戦後日本にも似た高度経済成長に支えられ強大な海軍力を保持している。その推進力となったのは、中国大陸で行われている中国国民党と中国共産党の内戦であり、日本は国民党を支援し、そこからはいる金が経済成長の原資であるとされている。

 90年代に書かれただけあって、史実の戦後日本を40年代におとしこんだ日本の姿がそこにはある。そこでは史実のように頑迷な外交姿勢で帝国を破滅に導いた陸軍中心の勢力は、クーデター未遂を引き起こして排除されている。「三矢事件」と呼ばれるそれについて作中人物の評価は一様にからい。

 しかし、しかしである。英国の極東におけるジュニアパートナーである日本というのは、それほど安寧を維持するものなのか?

 史実における日本の軍事行動について事例を上げていこう

・青島攻略 1914 第一次世界大戦中、ドイツの租借地である青島を占領

・シベリア出兵 1918-1922 共産革命を起こしたロシアへの介入

・山東出兵 1927-1928 蒋介石の北伐に伴う軍乱からの居留民保護

・満州事変 1931 関東軍による満州地域の占領

・第一次上海事変 1932 上海租界保護のための十九路軍との交戦

・盧溝橋事件 1937 北京郊外における日本軍、国民党軍の衝突

・第二次上海事変 1937 上海租界をめぐる日本、国民党軍の衝突

われわれの知るところの歴史では、1937年を契機に以後は日中の全面的な戦争として展開し、日本は太平洋戦争に突入する。これらの事件がどう変化して作中世界を形成するかを検証していきたい。

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