絵を描くことが好きだということは
端的にいうと、最近絵を描くのが楽しいということだ。
美術が好き。絵を描くことが好き。純粋にそう思っていた日々を最近思い出すことが出来た。
私には妹がいる。小学校1年生の時に、妹と私は絵画教室に通い始めた。何か習い事をしてみないかと、両親に言われて、絵を描きたいと言った結果だった。その絵画教室は、絵を上手く描くことを目的とはしておらず、毎週なにか作品を作ってみましょうという自由なものだった。中学3年生まで絵画教室には通った。
思えば、そのころは、絵を描くことが純粋に楽しかったときだ。中学生になったときは迷わず、美術部に入部した。そこも自由な雰囲気で、毎日イラストを描いたり、植物の模写をしたり、時に油絵を描いたり、と、楽しく活動した。ただ、妹の方が絵が上手いと気づいたのもそのころだったと思う。
大きく環境が変わったのは高校生のとき。美術部はあったが、入部はしなかった。それでも選択授業は美術を選択した。毎日のように絵を描くことはなくなった。それから何年も趣味として、自分の好きなこととして、絵を描くことはなかった。
その頃、中学生になった妹は美術部に入部した。妹は明らかに絵が上手だった。絵に対する情熱も、私以上に持っていた。それをはっきりと突き付けられたのが妹の高校受験のときだ。美術系の勉強ができる高校に進学するという。両親は反対した。美術系の大学はお金がかかるし、絵で食べていくことの厳しさを両親は言っていたのだと思う。妹は反対を押し切って、進学した。
私は普通科の高校に進学していた。そのことについて、後悔はしていない。だけど、そこまでして、将来の不安を押しのけて、好きなことに熱中できることをうらやましく思った。私は、将来のことを考えて、教育学部に進学した。私自身の選択について、間違っていたとは思わない。大学では、かけがえのない友人や貴重な経験を得ることができたのだから。
一方で妹は、高校を卒業したら就職するのだろうと周りからは思われていたし、本人も半分くらいは、そう思っていたはず。けれど、妹は努力した。大学進学率はそれほど高くない学科にいた妹だが、校内のデッサンの大会で、上級生や他学科を押し退けて上位に食い込んだ。そして、少しでも可能性のある推薦枠のために、日々のテストやポートフォリオ作成にいそしんでいた。結果、目標としていた美術系の大学に入学することができたのだ。純粋にすごいと思った。
私は高校生になって、環境が変わったから絵を描かなくなった。でもきっと、気持ちの部分が大きかったと思う。実は、最初に絵を習いたいと言い始めたのは私だった。絵を描くことが好きだと思いたかった。(実際絵を見ることはずっと好きで美術館にもよく行っていた。)
ただ、本当に絵を描くことが好きな人というのは、暇があれば絵を描いている。そんな妹の姿を日常で見てきたからこそ、私はそこまでして絵を描けないと思ってしまった。
ただ、単に自分に情熱がなかったのだと言われればそれまでだが、何かもやもやとした気持ちもあって、ずっと絵を描くということを避けてきていた。
就職して、ある程度落ち着いてきたころ、唐突に思い立って、本当に久しぶりにその時ハマっていたキャラクターの模写をした。5時間くらいかけたと思う。なんだか楽しかった。それから、期間は空きながらも毎回4時間くらいかけて模写をしている。誰に見せるわけでもなく、ただ自己満足で模写を続けている。実際のところ、最初に比べると顔・形のバランスをうまく取れるようになってきて成長を感じられて嬉しい。
おそらく昔は楽しいというより、妹が身近にいて、うまく描きたいという思いが根底にあったのだと思う。もちろん今でもうまく描けるようになれればうれしいが、純粋に絵を描くことが楽しいという気持ちの方が圧倒的に大きい。妹のようにはなれないのだという拗れた思いが吹っ切れて、自分のペースで描けるようになった。
だから最近は、絵を描くことが楽しい。