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「気持ちがモヤモヤする時に読むとすぐ効く二冊」を選書してみた①

おはようございます!!! もっとたくさんありますけど、とりあえずこの二冊。本当は三冊のつもりでしたが長くなりそうだし、映画紹介レビューも二作品ずつで書いているからそれに合わせました。

1、伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」(新潮文庫)

初期の短編集。私がこの本を手にしたのは2014年の春先。いろいろ嫌なことがあって仕事を辞めようと考えていました。というか契約を更改したことを激しく後悔(シャレではない)していました。本来なら満了で堂々と辞められたはずなのに。会社にも言いたいことがいろいろありました。でもいちばん嫌だったのは、そこで義理人情とか仲間意識を擬態した何かに縛られて決定的一歩を踏み出せない自分の気持ちの弱さでした。更改直後に辞めるのも意味がわからないから言えない。続けるしかない。続けたくない。そこで出口が見つからずにモヤモヤしていたわけです(後に紆余曲折を経て、その会社とはきっちりお別れできたのですが)。

そんな矢先の休日。何を思ったのかふらりとかつて通った大学に足を運び、懐かしいカフェでコーヒーを飲みながらこの本を読みました。

救われました。誇張ではなく救われました。

具体的に何がどうとか、どの作品のこの場面とかじゃないのです。ぎこちない展開や安定しない文体も含めて、全体に通底する一切が自分の気持ちの焦点を見たくない現実からほんの少しずらしてくれたのです。もちろん本を読んでいる間だけの魔法でしょう。でもふと気づきました。十二時を過ぎたシンデレラは希望を失ったわけじゃない。ポジティブな経験がくれたものは決してゼロにはなりません。そこから得られた大切な何かがずっと自分の中で力になっているのです。この文章を書いているいまも。

2、芥川龍之介著、げみ絵「蜜柑」(立東舎)

立東舎「乙女の本棚」シリーズの絵本です。芥川の「蜜柑」はたぶん多くの方が小学生のころに一度は読んでいるはず。私もそうでした。当時は「ふうん」「別に」という某女優みたいな感想しか抱きませんでした。私が小説家になりたいと思うきっかけをくれたのがまさに初期の芥川なのですが、「地獄変」や「芋粥」「魔術」「鼻」みたいな明快なインパクトを今作には感じなかったのです。

ところがこの絵本で読むとあら不思議! 印象がガラリと変わりました。げみさんの絵の力が大きいのは確かですが、それだけではない気がします。芥川がどういう読み手を想定して書いたのか知りませんが、多少なりとも世の不条理や組織の理不尽、それでも働いて稼いで生活を守らないといけない社会人の呪いにモヤモヤしてからじゃないと今作の真の魅力には気づけないのではないか。少なくとも私はそうでした。音楽が聞こえてきそうなあの場面転換。あれを見てどう思うか? 彼女はどういう気持ちであの行動を取ったのか? 私の中にも明確な答えはまだありません。

でもこれを書いていて思いました。私がnoteや読書メーターで日々文章を書いて公開していることとあの行為は地の底に蠢く暗闇の中でかすかに繋がっているのではないか、と。そして気づきました。彼女は何よりもまず自分のためにあの行為を取ったのではないか。子どもたちの喜ぶ顔を見ることで己自身を幸せな気持ちにし、これからひとりで生き抜くための力にしたかったのではないか、と。まさに「天は自ら助くる者を助く」です。

この記事をいまこのタイミングで書けたことにも何か意味を感じてしまいました。本ってすごいですね。

「これは誰かに届くのかなあ」「教えてくれよ」「届けよ、誰かに」
(伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」からの引用)



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