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読書における「ホールド」の必要性

先日、久しぶりに表参道へ行きました。

目的はもちろん「青山ブックセンター」です。

毎度のことですが店内を何周もしました。BGMが心地良く、棚を眺めているだけで楽しい。いつまでもいたくなります。

ワンフロアで外国文学や思想・哲学、アート、そしてデザイン系のラインナップがここまで充実している書店はなかなかありません。スタイリッシュに先鋭的だなと改めて感服しました。土地柄か店長の考え方か。きっと両方でしょう。

今回の「衝動買い」は↓です。

オンラインショップにはなかったので、版元のリンクを貼らせていただきました。たしかにリアル書店で目にし、そして手に取ってほしい装丁です。サイズや紙の手触りが詩集のそれに近いのです。

ちなみにショーペンハウアーを知ったきっかけは芥川龍之介。晩年に書かれた寓話「河童」で言及されていました。

大学生時代に「読書について」を読みました。有名な↓のくだりに衝撃を受けたことを覚えています。

「読書とは他人にものを考えてもらうことである。1日を多読に費やす勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失ってゆく」

不安に襲われました。「本さえ読んでいれば着実に成長できる」と信じていた時期でしたから。でもいま思えば絶好のタイミングで出会えたといえます。膨大な「知識」を俄かに詰め込んでも、それらを自由自在に活用できる「知恵」へ変換できなければ絵の中の餅にすぎない。その真理を最初に教えてくれた一冊です。

読むだけでおしまいにせず、内容を己の頭で選別し、まとめ、日常へ落とし込み、実践していく。読書メーターやnoteにレビューを書く習慣もこの作業の一環です。つまり「読書について」を読んだだけで終わらなかったからこそ、いまの自分がある。胸を張って断言できます。

一方で「本を読むことを通じて何らかの手掛かりや材料を得ないことには、ひとりで考えられる力が身に着かないのではないか」という気もします。「知識」を磨いて「知恵」へ昇華できるのは自分だけ。でも磨き方を覚え、必要な道具を入手するためには、そのための別の「知識」が欠かせません。

私の中で「知識」のイメージはボルダリングにおけるホールドです。手を伸ばしてそれらをつかみ、少しずつ上を目指す過程の中で「知恵」が育まれる。つかめる場所は多い方が助かる(多すぎても困惑しますが)。何もないつるつるの壁面をひとりで登るのは敷居が高いですから。

敷居が高いという点では「ショーペンハウアーとともに」も同じかもしれません。わずか148ページ。活字がぎっしり詰まっているわけでもない。しかしひとつひとつを咀嚼し、消化していかないと前へ進めません。たとえば「最も高尚で多様で長続きする享楽は精神的享楽」「内面が豊かな者は運命に多くを期待することもない」といったくだり。皆さんなら何を読み取りますか? 私は「幸せは外部に左右されるものではない」とシンプルに解釈しました。

この繰り返しです。決してラクではない。時間もかかる。でもだからこそ得られるものが大きいのもたしかなのです。

スタイリッシュなお店の雰囲気、目を惹く本の装丁、そして指に心地良い紙の材質。それらに加えて、私の書いた駄文が一見高そうな壁に挑もうと思わせるのに十分な足場やつかむためのホールドになってくれることを祈ります。お求めはぜひお近くの書店か、青山ブックセンターで。

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