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「日本一心」を思い出した


書評行きます!

「一人称単数」 文藝春秋 2020年出版 240P 村上春樹著

(以下、読書メーターに書いたレビュー)

「文學界」の表紙で見た「ヤクルト・スワローズ詩集」がずっと気になっていた。関西出身の著者はヤクルトファンで東京生まれの私は阪神ファン。巨人だけはどうしても、ですよね。バードを聴きながら読書すると時間が飛ぶ。クリームが「至高」の意味だと知ったのは昨年。クラプトン以外のふたりの偉大さに気づいたのも。「ウィズ・ザ・ビートルズ」を抱えた女子高生って何とも絶妙。これが「ラバーソウル」だと上京したての大学生か社会人一年目な気がする。前期の頃の淡い雰囲気と芥川の後期的な語り口をまとい、なおかつこっそり熟成された短編集。

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春樹さんは長編作家のイメージがありますよね。ご自身も「職業としての小説家」の中でそう話しています。しかし短編もかなりイケるのです。特に最初期の「中国行きのスロウ・ボート」とアメリカで発行された短編集の日本語版である「象の消滅 短篇選集 1980-1991」は、春樹さんに関心のある方にぜひお手にとっていただきたいです。長編とはまた違った、もしくは長編に生まれ変わる前の原形が持つ密やかな熱を感じ取れます。ブレーク後に入手したインディーズ版CDを聴いた時の「後追いで秘密共有」風のニヤニヤが中毒になります。と同時に、無名時代から追い続けているファンの人に軽い羨望を抱きます。私はプロレスファン歴が長く、棚橋弘至やオカダ・カズチカ、内藤哲也、高橋ヒロムらの新人時代の試合をリアルタイムで見てきたから、特にそう思います。特に内藤選手はヤングライオンの頃から明らかに他の選手とは違いましたね。動きのキレも佇まいも。

この「一人称単数」に収められた8つの短編には、初期特有の淡くて切ない空気が漂っています。懐かしささえ覚えます。なおかつ円熟のリマスターがしっかり施されているのも素晴らしい。感情が決して先走らず、かといって抑制され過ぎてもいないのです。苦味に関してもいたずらに露悪的にならず、あくまでも苦味として楽しめる程度の絶妙さです。2011年に布袋寅泰と吉川晃司の「COMPLEX」がチャリティーライブ「日本一心」で復活しましたが(行きたかった)、そのDVDで「BE MY BABY」や「1990」を聴いた時の感慨に近いですね。若かった頃の輝きを全ては失わず、なおかつ長年積み重ねたものを併せて結実させた「いま、ここ」のカッコよさ。

面白い小説はいつでもそこにあります。いつでも好きな時に読めて好きな時に閉じることができます。必要以上に出しゃばらず、孤独な魂にそっと寄り添ってくれます。本は忙しない日常を生きる私たちの静かな味方です。ぜひnoteや読書メーターなどで感想を共有して、毎日を楽しく過ごしましょう! 


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