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「プロの仕事」と「五分の魂」

棚橋選手の動きは決して良くなかったです。でもなりふり構わず、文字通り全力を振り絞って闘う姿が胸を打ちました。カッコよくない。だからカッコいい。ついに彼もその領域に来ましたね。

しかし試合後、感動的なマイクで大会を締めた王者・鷹木選手をEVIL選手が背後から襲撃。動画で見ていても会場が一気に静まり返ったのがわかりました。

新日本プロレスは「こうやって客をモヤモヤさせておけば、鷹木がEVILをぶちのめすのを見るために9月のメットライフドームに来てくれるだろう」と考えたのでしょうか? 

こういうあからさまな「客寄せ」はむしろ逆効果です。EVIL選手はかなりの覚悟を決めてハッピーエンドをぶち壊したはずなのに、安っぽく映ってしまう。「はいはい愛社精神。チケット買って欲しいから悪を演じてるのね」と嘲笑されたら彼も不本意でしょう。

私が注目したのは、彼が襲撃後にIWGP世界ヘビー級王座を投げ捨てたシーン。あまり褒められた行為ではないのですが、そこに「ふたつの本音」を見ました。

ひとつは不可解な流れで新設された同王座に対する怒り。本当は彼も「こんな手段を使ってまで欲しいベルトじゃねえ」「俺が手に入れたいのは昔のIWGPだ」と思っているのかも。

もうひとつは「俺は会社の言いなりになってヒールを演じてるんじゃない」という矜持。己の仕事へのプライドです。もちろんプロである以上、タイトル戦を盛り上げるため、会場にお客さんを集めるためにやっているのは間違いありません。でもね、という話。

浦沢直樹のテニス漫画「Happy!」で、選手の写真集を撮るカメラマンがこういうことを話していました。

「俺はプロだ。カネのために客が喜ぶものを撮る。でもそこに五分の魂は入れさせてもらうぜ」

EVIL選手の投げ捨て行為は、まさにこの「五分の魂」ではないでしょうか? 鷹木選手によると、ベルトは一部破損してしまったそうです。相当な情念が込められていたはず。

応援はしません。でも妥協しない魂に共振し、私の魂も少しだけ揺さぶられました。すこーしだけ。

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