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「実現」が「目的」ではない

竹中さん、違いますよ。多くの国民が期待しているベーシック・インカム(以下BI)はこういうものではありません。「毎月誰でも一律に7万円を支給します。その代わり生活保護も年金もやめます」では、結局お金のために働き続けないと生きられないじゃないですか。だって社会保障なしの月7万円で安心して生きていけますか? 大丈夫な人もいるでしょうけど私は無理です。消費税がゼロになっても難しい。地方に移住すれば大丈夫みたいなことを言っている人もいますが、家賃の極端に安いエリアなら車が必要。コンビニに行くのにも車で一時間なんてことが普通にあるわけで、やっぱり7万円では厳しい気がします。

こういうことを書くと「贅沢を言うんじゃない。7万でももらえれば御の字じゃないか」という人がいるかもしれません。そういう人には「いや、このやり方だと7万の代わりに本来もらえる分を奪われて、却って苦しくなる可能性が高いんですけど?」と反論します。詳しくは後ほど。

そもそもBIの意義は、上の記事の中にもありますが「労働」と「所得」の切り離しにあります。生きていくためにはお金が不可欠で、お金を稼ぐためには働くしかない、だから我々は楽しくなくてもブラックでも低賃金でも働かないといけない。このサイクルを打破すべく、生存するために(=憲法25条が規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を行使するために)必要なお金は国で出しましょうというのがBIです。これが実現すれば、我々は生活のための労働から解き放たれます。もちろんもっと稼ぎたい人はこれまで通りフルタイムでガンガン働けます。もう少し欲しいという人は週3~4ぐらいのシフトを希望すればいい。BIだけで十分という人は毎日気ままに暮らせるし、生活手段とは異なる純粋な生き甲斐としての仕事に就くこともできます。

わかりやすく言うと、各々が各々の好みに沿った働き方を自分ファーストで選べるようになります。これこそが真の「働き方改革」であり、BIはそのために必要な手段なのです。

でも竹中さんの提唱するBIはそういう趣旨ではなさそうです。むしろ庶民の生活をより圧迫してくる。たとえば真面目に働いて年金を払い続けてきた人はどうなるか? 厚生年金の平均受給額が約14万ですから、7万だとその半分ということになります。年金が廃止されても返してはくれないでしょうし、だいぶ老後のプランが狂いますよね。あと年金と生活保護に加えて健康保険まで廃止になる事態もあり得るわけで、そうなったら医療費はどうなるか? 考えるとぞっとします。結局定年後もバイトとか派遣で働かざるを得なくなる。上の記事では竹中さんが人材派遣のリーディングカンパニーであるパソナグループの取締役会長であることを指摘していますが、まさかそういう意図でこの提言を? 

格差是正と弱者の救済、そして賃金奴隷からの解放がBI本来の目的のはず。それを自分に都合のいい弱肉強食の新自由主義を加速するプランにすり替えるのは完全な筋違いです。財源を確保する手段をもっと庶民のリアルに沿った形で考えて欲しい。たとえば大企業の内部留保(某書籍によるとユ○クロには1兆円あるとか)への課税やタックスヘイブンの取り締まり強化など。生活保護の不正受給を批判する人の多くは、それよりもはるかに膨大な額の税金をちょろまかしている富裕層にまで目が行き届いていません。だから社会保障のために目先の消費税を上げるのは仕方ない、他に財源がないと考えてしまう。そうじゃないのです。

大体「BIを支給する代わりに生活保護も年金もやめよう」という理屈は給料を上げる代わりにボーナスや住宅手当や育児手当を廃止するようなもので、トータルで見たら庶民の幸福感を後退させてしまいます。それでは全く意味がない。「参議院をなくしてそのお金をBIに回そう」の方がよほど現実的です。目的と手段を履き違えないでいただきたい。BIを実現させることが目的ではありません。みんながお金のための労働に縛られず、好きなことをして幸せに暮らせる社会を作ることが目的で、BIはあくまでもその手段なのです。



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