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書店の話

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「人生は徒労じゃない」と信じる

「人生は徒労じゃない」と信じる

興味深い本が出ました。

著者は「ひとり出版社」夏葉社の創業者・島田潤一郎さんです。

版元は「夜と霧」などで知られるみすず書房。208ページでお値段は税込2530円です。「短篇小説のような読書エッセイ37篇」とのこと。

簡潔で力強いデザイン。手触りが想像できます。

夏葉社の本も指に心地良い紙の質感と重さ、そして無粋な情報を排したシンプルな帯が特徴です。みすず書房のそれらにインスパイアされた部

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書店員が「なかなか検索できない雑誌」の話

書店員が「なかなか検索できない雑誌」の話

先月末に↓が発売になりました。

いまは年に1回の不定期刊行となっています。昨年も3月の同時期に出ました。

発売されるといいペースで売れます。しかしお問い合わせを受けて検索してもなかなかヒットしません。

原因は5ケタの雑誌コードが、同じ版元の季刊である「文字の大きな時刻表」と同じ「03842」だから。

コードを打ち込み、在庫情報に当たることができても、ちゃんと発売日を確かめないといけません。

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「どの本屋へ買いに行けばいいか?」の指針

「どの本屋へ買いに行けばいいか?」の指針

書店で働いています。

にもかかわらず、休みの日も本屋へ赴くことが多いです。

「仕事のために」という勉強感覚もゼロではありません。でも基本は楽しみたいから。「答え」ではなく「問い」をくれる予期せぬ一冊との出会いを期待したいから。

とはいえ、世の中に本屋はたくさん存在します。いったいどこへ買いに行けばいいのか? 

↓を指針にすることをオススメします。

「あしたから出版社」「古くてあたらしい仕

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ハードボイルド書店員日記【182】

ハードボイルド書店員日記【182】

「月末に○○書店がオープンするね」

週刊誌を買いに来た常連の老紳士がレジで呟く。

春休みが終わって落ち着いた平日。尤も数週間後にはゴールデンウィークがやってくる。「お客さんは、自分が休んでいる時に周りが動いていることを当然と考える」メンターが年明けの朝礼で話した言葉を噛み締めた。

「知りませんでした。教えていただいてありがとうございます。すぐ近くですか?」
「高速道路を挟んだ反対側だね。△△

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少なくとも「○○○○の2位」はダメじゃない

少なくとも「○○○○の2位」はダメじゃない

宮島未奈さん、おめでとうございます。

私の職場にも「成瀬ファン」がいます。「本当に天下を取った!」と大騒ぎしていました。読んだ人がみんな笑顔で「笑える」「元気が出た」と話しているのが印象的です。

本を読んで笑う。元気になる。ありがたいことです。かつて私も溺れる者が藁をつかむ心境で伊坂幸太郎さんの「砂漠」を手に取り、笑い、元気をもらい、救われました。ずっとエンタメ小説を下に見がちだったけど、一気

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「毎日、毎日、本を売る人」が某知事の発言に思うこと

「毎日、毎日、本を売る人」が某知事の発言に思うこと

撤回しても考え方が変わらなければ。。。

「県庁というのは別の言葉でいうとシンクタンクです。毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです」

↑から「毎日野菜を売る人や牛の世話をする人は頭脳・知性が高くない or 高くなくていい」という発言者の思想を読み取らない方が困難でしょう。

毎日本を売って

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ハードボイルド書店員日記【181】

ハードボイルド書店員日記【181】

「『あさいち』売れてますか?」

日曜の午前中。嵐の前の静けさを感じつつカバーを折る。3月下旬から4月上旬は書店が最も混む時期のひとつだ。

カウンター脇のPCで何やらチェックしている児童書担当に問い掛けた。彼女は昼過ぎまでのシフトで働くパートである。

「いや動いてないね。何でだろう? 私の置き方が悪いのかな」
「そんなことはないと思いますけど」
考え込んでいる。

「『あさいち』って福音館が復

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ハードボイルド書店員が「職場のBGM」に流したい楽曲

ハードボイルド書店員が「職場のBGM」に流したい楽曲

都内の某書店で働く身です。

開店から閉店まで、ずっと有線が流れています。

以前勤めていた街の本屋では、社長が選んだジャズの名曲をiPodでリピート再生していました。

BGMの素敵な書店といえば、表参道にある青山ブックセンターです。

足を運ぶと、少なくとも30分以上はお店にいます。ゆっくり歩きながら各ジャンルの棚を眺め、目と耳で心地良さを味わう。本好きにとってはある種のパワースポットかもしれ

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「土曜休配」と「書店員の実情」

「土曜休配」と「書店員の実情」

「土曜=入荷のない休配日」がいまのデフォルトです。

私が書店員になった頃は、土曜もほぼ荷物がありました。完全に逆になった印象です。

「ドライバーさんに週休2日を」という趣旨に賛同しつつ、書店員目線でも助かっています。人手不足&過剰入荷の現状では、朝の荷開けは毎日が綱渡り。開店5分前まで大量のダンボールやゴミ袋、紙くずで店内がゴチャゴチャなんてことも珍しくありません。そして不本意ながら、平日に出

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「毎月4日」はホントにしんどいけど

「毎月4日」はホントにしんどいけど

↑は集英社「週刊少年ジャンプ」の公式サイトです。

4日に発売されるジャンプコミックスの一覧を見て言葉を失いました。

「僕のヒーローアカデミア 40」
「Dr.STONE 27」
「呪術廻戦 26」
「SAKAMOTO DAYS 16」
「チェンソーマン 17」
「ダンダダン 14」
「怪獣8号 12」

ちょっとしたドリームチームです。

入ってくる梱包の数を想像しただけで寒気を覚えます。と同

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ハードボイルド書店員日記【180】

ハードボイルド書店員日記【180】

「国に何かしてもらおうとは思わないよ」

書店以外にも苦しい業界はあるからねえ。メンターは同意を求めるように視線を合わせ、口元から金歯を覗かせた。

11坪の町の本屋。かつて指導してくれた人がひとりで支えている。いまでも店長としか呼べない。心の中では永遠にメンターだ。

「SNSの活用とカフェの併設、読書イベントっていうのが経済産業省の掲げる解決策として最初に来ることに疑問を感じませんか?」
「仕

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「繰り返し」と「積み重ね」の賜物

「繰り返し」と「積み重ね」の賜物

マクドナルドの皆さま、おつかれさまでした。

システム障害は大型書店でも年に何度か発生します。規模によるでしょうが基本的には営業を続けるはず。「顧客第一主義」と言えなくもないけど、一日分の売り上げが消えることは大打撃なので。。。

本屋だと、まず在庫検索機と従業員用の端末が使えなくなる。お問い合わせを受けたらありそうな棚を勘で探します。

客注もPCへ打ち込み、プリントアウトするのが主流です。でも

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私の職場は「気骨ある書店」ではないかもしれないけど

私の職場は「気骨ある書店」ではないかもしれないけど

入荷したのを見て「読みたい」と思いました。

「本屋のない人生なんて」というド直球なタイトルが潔い。出版社は光文社で定価は税込2090円、著者は「真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園」で知られる三宅玲子さんです。

「北海道から九州まで、全国の気骨ある書店を訪ね歩いたノンフィクション」とのこと。

登場している11店のラインナップを見て、一気にテンションが上がりました。「本屋Title」は、行くたび

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ハードボイルド書店員日記【179】

ハードボイルド書店員日記【179】

「使えますか?」

平日も賑わう春休みの午後。鼻の奥と眼球がムズムズする。カウンターを出て文庫エリアの前を通り過ぎる際、中学生ぐらいの小柄な男性に声を掛けられた。赤いリュックを背負っている。自治体から配布されたであろう「図書カードNEXT ネットギフト」の大きな紙を差し出された。

「ご利用いただけます」
「この部分だけでも?」
四隅に印刷されたQRコードを指で差す。
「はい。ただレジの機械がなか

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