赤ん坊は風呂場で産まれた vol.5
助産所の風呂場の浴槽で産まれた赤ん坊。元気な男の子、ちょうど3000g。
助産師の渡辺さんが浴槽からすくい上げ、身体をやわらかなタオルで包んでくれた。
へとへとになった身体で浴槽にしばらく浸かったまま、脱力してしばらく動けなかった。
産まれた直後に安堵から涙と笑いが同時に溢れてくる。
「あぁーーーーーーーーーーーーーよかったぁ。産まれたぁ・・・」
わたしは、おうおう泣いた。
風呂場で夫と長男も産まれるところをしっかり見ていた。
かすかに夫が「頑張れ!頑張れ!」と応援してくれていた声を思い出す。
取り上げられた赤ちゃんを眺め、長男はどうやら緊張している様子。
赤ちゃんが生まれるとわかっていたものの、顔は真っ赤で、身体は青白くぶわぶわな生き物が出てきて驚いたのだろう。
産まれる直前に夫がカメラマンの神ノ川智早ちゃんに電話をしてくれていたようで、助産所にすぐさま駆けつけてくれた。
到着して赤ん坊の姿を確認すると、智早ちゃんも泣いていた。
わたしの痛みに苦しむ叫び声が電話越しに確認できたとのこと。
「がんばったねぇ。」と優しく声をかけてくれた。
ここに掲載させてもらった写真は、彼女が撮ってくれた、産後すぐのわたしたち家族の姿。
わたしと赤ん坊をつなぐ、へその緒も長男と夫でカットした。
身体から出て行った、胎盤もしっかり見せてもらい、自分の血がとても鮮やかな”赤”で驚いた。胎盤とは、こんなにもずっしりと重くて大きいのか。
長男を産んだときには見ることができなかった、わたしと赤ちゃんを繋ぐ大事なわたしの臓器。
よく頑張ってくれた、この10カ月一緒にわたしたちと共に生きてくれたことに感謝したい。
最初の陣痛から約5時間、スピード安産で、二人目は早く産まれるというけれど、本当だった。
産後、無事出産したことを母に連絡すると「おめでとう、すぐかけつけるよ。」と、横浜から2時間かけて、飛んできてくれた。
すぐさま小さな赤ん坊を抱いて、嬉しそうに笑っていた。
「かわいいねえ」ずっと赤ん坊に向かってそう声をかけていた。
夜、母が買ってきてくれたお弁当を小さなテーブルを囲んで、みんなで食べる。
わたしはまだ身体に負担があるので、布団に寝たまま食事をさせてもらった。
夫、長男、母、わたし、そして、生まれたばかりの赤ちゃん。
産後すぐに家族揃って、赤ちゃんを囲んで食事をとれるとは、何て幸せな時間だろう。
なんでもないこの風景をわたしは一生忘れずに生きていくんだと思う。
おそらくわたしの祖父母の世代は自宅出産が当たり前で、産後こうして家族団欒を過ごしたはずだ。
いつの時代も"当たり前"は更新されていく。時代に沿って生きていくことも必要だけれど、わたしはいつも不便さや、昔の在り方を知っている人間でいたいと思う。
長男は母のいない寂しさと、出産に付き合いすっかり疲れてしまった様子。
今日はお互い、早くおやすみしようか、と夫は長男の手を引いて帰っていった。
母もまたすぐ会いに来るからね、と声をかけてくれ別れた。
赤ちゃんはまだ眠っている。
産まれたばかりのこの子の名前をぼんやり考えながら、わたしも目を閉じた。
⚫︎次回は「赤ん坊は風呂場で生まれた vol.6」をお届けします。
助産所で赤ちゃんを産んだことを、病院での出産と比較してメリットデメリットをまとめます。
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