デジタル時代にアナログ音楽を考える。

ー奥田さんと私はラッキーだったと思います。アナログの世界を経験出来たからです。でも今の子どもたちはかわいそうにと思います。スマホがない時代なんて経験できませんから

ー携帯もデビュー当時はなかった。携帯で音楽を聴こうとも思わなかった。

NHK「switch interview リオ・コーエン×奥田民生」を見た。

私が幼いころ、カメラ付き携帯が出始めていた。カセットからCDへという時期だったと思う。短冊形のCDもたくさん流通し、家や車でCDが当たり前にかかっていたし、ラジオをカセットに録音したりもした。いつの間にか誰もが携帯を持つ時代になり、スマホが現れ、気づいたら私もスマホがない生活は考えられなくなっていた。そんな中で冒頭の言葉は印象的だった。アナログからデジタルへの変革期を生きる”ど真ん中”の世代として考える音楽の聴き方について書こうと思う。

リオ・コーエンはYouTubeの音楽部門の総責任者。これまで音楽畑でロードマネージャーとして生きてきた業界のプロである。そして奥田民生は言わずと知れた日本のロックシンガー。ソロだけでなく、彼のアーティストとしての原点であるユニコーンのヴォーカルの中核にいる人物である。(ユニコーンの楽曲編成上あえて”中核”と書く)


私は音楽が大好きである。CDを必ず買うCDユーザー。自宅ではCDプレーヤー(いわゆるラジカセ)を使って聴く。移動中はウォークマンを使うのだがこれにもCDで音源を落とす。

私がCDが好きな理由は作り手にも聞き手にも「手間」があるからである。

作り手、アーティストは楽曲づくりに始まり、ジャケット撮影、デザイン、パッケージ方法やカラーリングの決定、リリックカードのデザイン、パッケージング、発送、小売店に届いてからは売り場展開も重要だ。このほかたくさんの工程を経て私たちに届く。

聞き手はこれを注文や予約、店頭などで購入し、パッケージを開け、プレイヤーにセットして聴く。ストリーミングなどで携帯で聴くのとは手間の数は段違いである。

この手間が煩わしい。しかしパッケージを開けてプレーヤーにセットし1曲目が流れるまでのあの時間のドキドキ感がたまらない。そしてジャケットやリリックカード、帯、CDにかけられたフィルムの上に張られたステッカー…これらの細かいこだわりを感じられる、モノとして残ることが私がCD購入をやめられない理由である。

サブスクリプションサービス(サブスク)に絶対反対ではない。自身もSpotifyを利用している。手軽に聴けるし、テレビやラジオで気になったアーティストの楽曲をすぐに調べることもできる。

しかしサブスクだけの世界になるのは違う気がする。

CDだから感じられる作り手とのつながり感や温かみはデジタルでは感じられない。CDショップなどで起こる「偶然の出会い」はなくなる。サブスクで出てくる「おすすめ」はジャンルや世代が偏りがちだ。違法アップロードも絶えない。データが消えたら?音源の管理元(レコード会社やサブスク配信元)が配信を停止したら?たらればの話は尽きないが情報社会、モラルやマナーが変に厳しいこの時代では起こりうるものである。

YouTubeで検索すれば明らかに違法アップロードされた音源があふれており、大量の高評価を得ている。MusicFMをはじめとした違法アプリは若者の中で重宝されていて先日これに関するツイートをきっかけにアーティストも意見を述べるまでの議論になった。

私の周囲でも「音楽が好き!」という人がMusicFMを薦めてきたり、それを利用していない私に対して「ありえない」「どうやって音楽聴いてるの?」「CD買うとかもう時代遅れだよ」と言ってくる。音楽業界のインターンシップで「MusicFM」だけを使っているという人がいて開いた口が塞がらなかった。

デジタルがなければ違法なものがなくなるわけではない。サブスクがもっと浸透すればなくなるかもしれない。サブスクは便利だからもっと発展してほしい。でもアナログな聴き方もなくなってはいけない。

番組内ではリオ氏はアナログはもう古いと言い、奥田氏はCDはもういらないからどう(処分)すればいいのか。アルバムっていらない。と言っていた。

第一線で活躍し続ける二人からこの言葉が出るのは衝撃であり、ショックだった。

しかし、彼らが語った言葉に私の中のサブスクの概念が少し変わったし、安心した。

リオ氏:いま心配なのはアプリのアルゴリズムが似たような曲としか連動しないことです。例えばレコード屋に行ってヴァン・ヘイレンのところに行きますね。でも他にレコードが並んでいるのを見て違うアーティストも買ったはずなんですよ。ですから私たちのアプリが改善して驚きと発見の感覚を磨きたいと思っています。ファンを狙い撃ちしたものだけではなくもっと広い音楽の世界を知ってほしいのです。

これは私に美しいものをたくさんくれた音楽業界への恩返しとしてやるべきことなんです。健全な音楽配信を確立するために私は愛する音楽業界から離れたのです。でもアーティストとエンジニアを橋渡しできるようになったら、そして彼らがファンとつながれるようになったら私は愛する元の仕事に戻れると思っています。


奥田氏:ライブにしても作品にしても世に出さなければいけない。それをたくさんの人に聴いてもらうためには世の中にある全部の形で常に出し続けていきたい。「俺はこっちがいい」とか言っている立場じゃない。だから聴けるもので全部聴けるようにとはいつも思っています。


音楽の世界で生き続け、音楽を愛しているからこその言葉である。

奥田氏はYouTubeチャンネルでアナログレコーディングの様子を撮影・配信し、完成次第、音楽配信サイトで販売、最終的にアルバムにしてCDやレコードで発売した(カンタンカンタビレ

アナログな方法をデジタルコンテンツで発信したこの時代だからこそできる方法だ。彼は以前どこかのインタビューで「音楽の聴き方が変わり続けているならそれに合わせてやっていかなければならない。今まで通りのやり方だけにこだわっていたらおいて行かれる」というようなことを言っていたのを思い出した。


日本はサブスクが浸透していない後進国である。そもそもデジタル関連が遅いともいわれている。しかしデジタル化の波はもう来ていて音楽の聴き方は変わり続けている。新しいものが現れるとこぞってそちらに流れるものと従来の方法に固執するものが現れる。この放送を見るまで私は後者だった。しかしこれからは両者のいいところをうまく使ってまた新たな音楽の楽しみ方を続けたいと思う。また、レコード会社には配信だけと偏ることなくCDやレコードなどアナログな方法でのリリースも継続することを願う。日本の音楽業界を長年にわたり支え、大きく発展させてきたアナログなものたちはそう簡単に廃れさせてはいけない。

愛用のCDプレーヤーで奥田民生を聴きながらそう思うのだ。

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