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【BONUS TRACKインタビューvol.13】人と本でゆるやかにつながっていくお店。「本屋 B&B」三木さん&寺島さん

2020年4月にオープンした「BONUS TRACK」は、“あたらしい商店街” をテーマに、飲食店や本屋さん、ヴィンテージショップにレコード屋さんなど、さまざまなお店がつらなる複合型施設です。

ここでは、そんなBONUS TRACKに出店しているそれぞれのお店をインタビュー形式でご紹介。個性あふれるお店がずらりと並ぶBONUS TRACKの魅力を、ぜひお楽しみください。

二度の移転を経て、B&BがBONUS TRACKに

ーーBONUS TRACKの各テナントを紹介するインタビュー、第十三回目となりました。今日お話を聞いていくのは、2012年から下北沢の本屋を代表するお店としてあり続ける「本屋B&B」から、寺島さんと三木さんです。よろしくお願いします!

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三木さん(写真左)・寺島さん(写真右):よろしくお願いします!

ーーまずは、「本屋 B&B 」についてのお話を聞かせてください。

寺島さん:「B&B」は、2012年に下北沢でオープンしました。名前は“BOOK & BEER”を省略したもので、店内でビールなどの飲み物が飲める本屋として8年間営業を続けてきました。また、それだけでなく、それぞれの本の著者の方々をお呼びして毎日トークイベントを行ったり、早朝には英会話教室を行ったり、店内の本棚も販売したりと、いろいろな取り組みを行っています。

ーーもともとは、違う場所にあったお店なんですよね……?

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寺島さん:最初のお店は、デザイン事務所などが入った雑居ビルのなかでした。テナント同士でのやりとりが日常的にあって、たとえばB&Bでイベントを行う際には、“控え室”として、隣のビルのカフェを使ったりもしていましたね。

ーー「最初に」ということは、またその後にも移転をされたのでしょうか?

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寺島さん:そこから2017年の年末頃に、ファミリーレストランやライブハウスが入っているビルのテナントに引越して。地下だったこともあって、秘密基地みたいな雰囲気が面白かったのですが、入居期間が2年間だけだったので、場所を育てるのは難しかったです。今後は引っ越しの予定もないですし(笑)、BONUS TRACKでは、他のお店と近い距離で接することができそうだということもあって、時間をかけて場所づくりに取り組むことができそうです。

三木さん:イベントに関して言えば、B&Bはもともと、本にまつわるなにかしらのイベントを毎日開催していてました。今は新型コロナウイルスの感染拡大からオンライン配信に切り替えて、なかなか毎日開催は難しかったのですが、それでも最近はようやくほぼ毎日トークイベントを行えるくらいになってきました。寺島さんが話したように「テナント同士のつながり」もある上で、オンラインという新しい形で「お客さんとお店のつながり」も持てるようになってきたと思います。

それぞれの場所に、“それぞれのB&B” があった

ーーお店には、どんなお客さんが来られるんでしょうか?

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寺島さん:やっぱり「お店の場所によって来る人が変わる」というのはありますね。もちろんずっときてくださっている常連の方もいらっしゃいますが、雑居ビルの二階にあったB&Bと、ファミリーレストランが入っていたビルのB&Bと、BONUS TRACKの中のB&Bでは、それぞれ違う方が来てくださっていて、買ってくださるものも変わっています。

ーーたとえば、どんな違いが……?

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寺島さん:最初のお店の頃は、雑誌やリトルプレス(個人や団体が自らの手で制作した少部数発行の本)を買われる方が多くいました。

今のお店は、通路の幅も広くなり家族連れの方がベビーカーで入って来やすくなったりして、絵本を求めてお店に来てくださる方もいらっしゃいます。今現在のB&Bでは絵本の取り扱いがあまり多くないので、時にはお子さんが「このお店、全然本がないね……」と言って、残念そうに帰ってしまうご家族なんかも……。でも、そんな時に親御さんが「ほら、よく見たら絵本も置いてあるよ」と言ってくださっていたりして。

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寺島さん:B&Bでは、本のジャンルごとで棚を作っています。絵本も、実はジャンルごとに分かれた棚に置いてあって。どんなお客さんが来ても、きっと興味を持ってもらえるような本を用意しているつもりです。お店の場所ごとにそれぞれ「お客さん」のあり方が変わっていくのは、下北沢の地で長年営業を続けてきたからこそ知ることができたひとつの “発見” かもしれません。

また、他店だとサイズで本をまとめることが多いのですが、B&Bではそれをしていません。単行本も、文庫本も、新書も、ジャンルが同じであれば、すべて一緒に並べているんです。

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ーーたしかに、よく見ると本のサイズがバラバラ……! 目当ての本があるときには、「文庫」や「単行本」といった「サイズ」でまとまっている方が見つけやすいですが、ジャンルごとに分けられていることで普段だと見つけにくい本と出会うことができますよね。お店に置く本の選び方は、どのようにしているのでしょうか?

寺島さん:B&Bは、棚の担当スタッフがきっちりと決まっているというよりは、みんなで選んでいます。また、一般的な書店との違いとして、ここは“配本(はいほん)” を取っていないんです。

ーー配本………?

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寺島さん:本を出版する「出版社」があって、わたしたちのような「書店」があって。その間に、“取次(とりつぎ)” と呼ばれる卸があるんです。一般的には「取次」が、書店ごとにどの本を何冊配るか(=配本)を決めていています。

配本される数は各店舗の過去の実績などによって決まるので、大型店にはたくさんの本が配られて、小さい書店には振り分けられないこともあります。また、そもそも発注をしていなくても、「配本制度」によって本が自動的に送られてくる、なんてこともあるんです。

ーーなるほど……。その「配本制度」を、B&Bでは取り入れていない、と。

寺島さん:配本制度には良し悪しがあるので一概にそれがいいとは言えないですが、B&Bに置いてある本は、スタッフが置きたい本をひとつひとつ注文しているんです。新刊の入荷もそのぶん遅れるので、新刊書店としては、棚の風景がいっぷう変わった感じがあるかもしれません。

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下北沢には新刊書店だけでも三省堂さん、ヴィレッジヴァンガードさんとそれぞれ特色の違う新刊書店があるので、B&Bには置いていない本のお問い合わせがあったときは、そちらに在庫を問い合わせて取り置きしていただくこともあります(笑)。

三木さん:最近だと「鬼滅の刃はありますか?」と聞かれることもままありますね。

寺島さん:下北沢のなかで、お店の場所を移転し、そのあり方が時々で変わりつつも、入れたい本を自分たちで選ぶというスタンスはずっと変わらずに続けてきたことでもあります。


“つながり” に支えられた、B&Bらしさの正体

ーーでは次に、「B&Bらしさ」の部分を聞いていきたいのですが、特に「ここ!」といった部分は何かありますか?

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三木さん:あえて挙げるとしたら、なにか面白そうなことをやってるんじゃないか、と思ってもらえるように取り組んでいることですかね。イベントもそうですが、作家さんの書籍化されていない原稿データをお預かりしてデジタルリトルプレスという名前でお手製の電子書籍を販売したり、オンライン上で参加者の本棚を見せ合うコミュニティを作ったり(※現在は募集を停止)、お店を予約制で営業をしたり。やってみたら面白いんじゃないか、というアイデアを模索しながら作り上げていくお店かなと思います。

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寺島さん:そういう意味で「人と人のつながり」は大きいかもしれないですね。作家の方にそうしたやりとりができたのは、イベントなどで直接お話しする機会があったというのもあると思います。

コロナ休業中にすこしでも新しいことが出来たことは、B&Bを応援してくださっている、作家も含めた読み手の方々のお陰です。本棚の前に立つかたに信頼していただけるような棚づくりをしていかなければと、あらためて思わされた出来事でした。
この春は、お客さんからメールで通販のお問い合わせをいただいたりすると、ほんとうに嬉しく、励まされましたね。最近も、「どうしているかな」と気になっていた常連さんが久しぶりにいらしゃってホッとしたり。

きっかけは “つながり” だったのかもしれない

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三木さん:僕がB&Bに入社したのも、つながりが大きかったですね。僕は2018年にB&Bに入ったのですが、その前は教育関係の出版社にいました。もともと学生時代、B&Bオーナーの内沼さんの事務所「numabooks」でインターンをしていて、そこで自分としては何かをしたっていうわけでもないんですが、就活の相談に乗ってもらったりしてました。

新卒で入った会社では参考書などの学習教材を作っていて、それも面白かったですし、楽しかったんですけど、仕事をしているうちに、「これは今じゃなきゃできない仕事なのかな」と思うようになったんです。何か自分の専門だと言えるものが欲しいなと思って、働きながら、夜間の大学で勉強しようと思ったんです。

ーーすごい……! それから、B&Bに入社するまでにはどんなできごとがあったんですか?

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三木さん:二度目の大学生生活で、夏休みの間は時間があるなと思って。ちょうどその頃内沼さんが横浜のみなとみらいにあるBUKATSUDOという場所で「これからの本屋講座」を開いていたんです。
学割もあったので(笑)、そこに応募して、講座自体は学校が再開してしまったので2回ほど受講して抜けてしまったんですが、内沼さんに自分の仕事や学校のことを相談したりして。そうしたら講座が終わった頃に、内沼さんから「B&Bでイベント担当のスタッフをやらない?」とお話をもらえたんです。正直その時点ではB&Bのことはよく知らなかったのですが、面白そうだなと思って入社を決めました。

ーーなるほど。ご縁やつながりがあっての入社だったんですね。寺島さんはどうですか?

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寺島さん:わたしは、8年前にB&Bがオープンしてからずっとスタッフとして働いています。その前も書店で働いていて。そこを辞めたタイミングで、もともとお仕事させていただいていた小説家の古川日出男さん、音楽家の小島ケイタニーラブさん、翻訳家の柴田元幸さんによる「朗読劇 銀河鉄道の夜」の東北ツアーを裏方としてご一緒させてもらったんです。

その時はまだその後どうするかを決めてなくて、そこで同行していた方が、ちょうど本屋B&Bを立ち上げるところだった博報堂ケトルの嶋さんと内沼さんとお仕事されていたところで、「やってみたら」と勧められました。これもご縁かなと思って、受けてみました。

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寺島さん:本当は他の書店も受けていたのですが、その店にはいわゆる「スカートとパンプス」のという服装の規定があって。いま#KuTooという運動が展開されていますが、女性はパンプス、という規定に抵抗があって足踏みしていました。B&Bは私服で良いとのことだったのも、実は大きいです(笑)。

いつでもいつまでも、“ワクワクできる本屋さん” として

ーーでは最後に、これからB&BがBONUS TRACKでやってみたいことについて教えてください。

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三木さん:BONUS TRACKでのオープン当初は、なかなかお店に来られない日々が続きましたが、今では少しずつイベント開催できるようになってきました。いまはオンラインという形ですが、ゆくゆくはBONUS TRACKに遊びにきていただいた方にも楽しんでもらえるような場所になりたいですね。

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寺島さん: fuzkue、日記屋 月日、青山ブックセンターの本棚が入っている発酵デパートメントもあって、BONUS TRACKには本がたくさんあります。本たちの気配が、”活気があるけれど、落ち着きもある”このエリアの空気をつくっているようにも感じています。本は世界の多様さを見せてくれますから、B&Bはお客さんが安心してさまざまな世界に出会うことのできる、ワクワクできる場所であり続けたいです。




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取材・撮影/平井 萌 文/三浦 希


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