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酒谷の坂元棚田

その棚田は宮崎県日南市西部の山間部にある。坂元地区にあるため「坂元棚田」と呼ばれる。ちかくには日南ダムや道の駅・酒谷があり、一帯を酒谷地域という。日南市と都城市を結ぶ国道222号線が地域を通っており、日南市中心部から車で40分ほどの距離だ。

酒谷地域は江戸時代から昭和31年まで酒谷村と呼ばれていたが、昭和31年4月に日南市に編入合併された。酒谷という地名は、坂と谷の多いところということから、坂が酒に転訛したといわれており、室町時代から続く地名である。この地域の西端を源にもつ酒谷川が東に流れ、飫肥地区を通ってやがて広渡川に合流する。途中の名尾地区に、昭和59年に完成した、下流河川のコントロールを主目的としつつ上水道、工業用水などにも利用する多目的治水ダムの日南ダムがある。

ダム湖の北側には、大きな茅葺き屋根をもつ建物がたつ道の駅・酒谷がある。休日になると多くの人手で賑わう道の駅は、新鮮な農産物の直売所にもなっている。その西側にある大きな橋のたもとから、沢沿いを北に延びる小道がある。そこから3kmほど山道を入り小さな集落を抜けた先に目指す坂元棚田がある。

ここを訪れたなら、まずは展望台へ行って欲しい。棚田が広がる斜面の南側に小さな尾根がある。その尾根の上に設けられた木製の大きな展望台を登ると、坂元棚田の全体像を目にすることが出来る。深緑色の飫肥杉林が斜面を縁取るように囲んでいて、その斜面には上から下まで規則正しく段々に水田が連なっている。時期によっては、その段々に連なる水田の一つ一つから白い糸のように光る筋がみえるだろう。これは灌漑用の水で、まるで滝のように一段一段流れ落ちていく様が見えるのだ。

棚田以外なにもないこの斜面を坂元棚田と呼ぶ。斜面はこの北東に標高988.8mの山頂を持つ小松山のそれで、標高255m~315mの範囲にある。水田は27段にわたっており、高さ2mを超える石積みで造られている。この段々に連なる水田はまさしく棚田なのだが、規則正しく幾何学的であることに強烈な違和感を感ぜずにはいられないのだ。

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