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ドラマ「螢草―菜々の剣―」レビュー

清原果耶の時代劇初主演作

NHKオンデマンドで「清原果耶」と検索したら引っかかった。
「なつぞら」に出演した後に主演を務めたNHK BS時代劇ドラマである。
いわゆる時代劇への出演は2度目かな。
原作ものであるが、タイトルの「螢草」とはツユクサのこと。
朝咲いて昼にはしおれてしまう、可憐で儚いイメージがぴったりかも。
 
見る前は、ほとんど期待していなかったのだが、これが意外と良かった。
仇に陥れられ切腹させられた武士の娘が父の仇討ちをするという分かりやすい典型的な時代劇展開だが、悪役まで含めて登場人物の心情を掘り下げており、見せ方も現代的である。
劇中に儒学小屋がでてくるが、まさに五徳(仁義礼智信)の世界。
武士の世界を描いているので、仁義は当然のこととして、礼や智を示すシーンも随所に見られる。
最後に、清原果耶演じる武士の娘菜々が父の仇である轟平九郎(北村由起也)に「信」を問うセリフがあり、これが結末につながる重要なシーンになっている。 

キャスティングが良すぎる

このドラマの何がいいってキャスティング。
時代劇なので割と型にはまった役柄が多いが、この役ならこの人かなとイメージする役者をことごくキャスティングしている。
その意味では、オールスターキャストである。
このキャスティングを実現したNHKは単純にすごいと思う
 
主人公の菜々役の清原果耶は言うまでもない。
他の人がこの役を演じているイメージがわかない。
・菜々の女中奉公先の清廉で一本気かつ優しい勘定方の武士 風早市之進:町田啓介
・女中の菜々にも優しく、菜々を妹のようにかわいがる風早市之進の妻 佐知(病で亡くなる):谷村美月
・風早家の下僕 甚兵衛:刈谷俊介
・日和見で武士の誇りとは無縁な風早市之進の叔父の武士 田所与六:中村育二
・身分とか体裁ばかり気にする田所与六の妻 滝:阿知波悟美
・風早市之進を見そめて、先妻を亡くした風早市之進の後添えになろうとする武士の娘 雪江:南沢奈央
 悪い娘ではないが、やや思慮が足りず、無実の罪で捉えられた風早市之進を救おうとするものの、
菜々への嫉妬心を轟平九郎に見透かされ、結局轟平九郎に騙され、風早市之進は幽閉の身になる。
 
・仇に陥れられ城内で刃傷沙汰を起こし切腹を命じられた菜々の父 安坂長七郎:川口覚
・菜々に武士の娘の誇りを持てという菜々の母 五月(こちらも病死):奥貫薫
・母を亡くした菜々を預かった農民の叔父 秀平:阿南健治
・菜々に何かときつく当たる叔母 勝:黒田こらん
・菜々のことをずっと思い続けているいとこ 宗太郎:松大航也
 
・女中の菜々に団子をせびるが腕は確かな剣術指南役 壇ノ浦五兵衛(団子兵衛):松尾諭
・元芸者で男勝りの質屋 舟(お骨さん):濱田マリ
・儒学小屋で武士の師弟に儒学を教えている儒学者 椎上節斎(死神先生):石橋蓮司
・やくざの親分。娘を幼い時になくし人情にもろく、風早市之進の子供たちを守ろうとする菜々の援助者になる。 湧田の権蔵(らくだの親分):宇梶剛士
 
・菜々の父だけではなく風早市之進をも陥れようとする仇役の武士。剣の達人 轟平九郎:北村由起哉
 上級武士が女中に生ませた子であり、義父となったの日向屋の命を受け、裏の仕事でのし上がった。
・轟平九郎を重用し、その悪政に目をつぶるところか加担さえしている大殿 鏑木勝重:中原丈雄
・大殿いいなりの若殿。最後には大殿に隠居を申し渡し、藩政の改革に乗り出す。 鏑木勝豊:中山磨聖
・菜々の父の切腹に責任を感じながら、酒に逃げて昼行灯状態の家老 柚木弥左衛門:イッセー尾形
・轟平九郎の義父であり、藩を裏で牛耳る悪徳材木問屋 日向屋孫右衛門:本田博太郎
 
ここまでイメージどおりのキャスティングだと、もはや清々しい気分になる。
北村由起哉演じる仇役の轟平九郎は、本当に憎々しい仇役ぶりが時代劇的でとても魅力的だ。
剣の達人であるという設定もあり、立ち回りシーンもあるが、これも素晴らしい。
やはり、時代劇の仇役は憎々しいほど盛り上がる。
個人的には、藩を裏で牛耳る悪徳木材問屋を演じる本田博太郎が、お得意の仰々しい演技で登場した時は、思わず「キター!!!!!」と口に出てしまった。 

所作の美しさ

主役の菜々は仇討ちのため剣術指南役の団子兵衛から剣術指南を受ける。
ある程度剣術の指南を受け、ひとりで剣術の型を行うシーンがあるが、なかなか様になっている。
相当稽古をしたことが伺えるシーンだ。
菜々は、武士の娘であることを隠し、武士の家へ女中奉公に入る設定だが、何気ない所作で武家の出であることが分かるという設定になっている。
立ち座り、食事、何気ない所作がとても美しく、こちらも相当な稽古の賜であることを伺わせる。
CMのオフショットを見ると、普段の清原果耶の所作は普通の若者のそれであり、このドラマでみられる美しい所作は訓練された演技ということになるが、それをきちんと演じられるのはさすがだ。
印象に残ったのは、真剣を鞘に収める所作が極めて自然で美しいところ。
女性が刀を抜刀したり、鞘に収めるシーンはほとんど見たことはないが、女性ということを抜きにしても、この所作は美しいと感じた。
 
仇討ちの場面では当然白装束の袴姿。
これが凜々しいの一言に尽きる。
仇討ちのシーンの立ち回りは、剣術の指南を受けたものの、やはり腕の違いを見せつけられ、自分の刀を払われて、絶体絶命になるという典型的なシーンだが、この感じがよく出ている。
母の形見の守り刀で轟平九郎の太刀を受けるというお約束の展開もまた時代劇っぽくて好きだ。
 
御前で行われた仇討ちだが、菜々の真の狙いは、亡くなった父が残した材木問屋日向屋の不正の証拠をもって、若殿に直訴することにあった。
仇討ちにしろ、直訴にしろ、自分の命を賭しての行為だが、家老の助けもあり、若殿は直訴を受け、自ら吟味することを菜々に約束するとともに、抵抗する大殿に自分がこの藩の主であることを明言する。
菜々が差し出した不正の証拠により、轟平九郎は切腹、材木問屋日向屋は財産を召し上げられた上で、藩を追放される。
菜々の主人である風早市之進は、無罪放免となり、若殿の側近として江戸屋敷へ行く話もあったが、これまでどおり勘定方として勤めることとなる。
菜々は、風早家から離れ、別のところで女中奉公をしようとするが、風早市之進が菜々の前に現れ、子らが菜々になついていることもあり、菜々を自分の妻として迎え入れたいと申し出る、というところでこのドラマは終わる。
 
これまた清々しいほどの勧善懲悪の時代劇展開ではあるが、菜々に「信」を問われた轟平九郎が義父である材木問屋日向屋の悪事について何も言わないまま、介錯を申し出た五兵衛の申し出を断り、切腹をするところは、悪役の心情を掘り下げており、現代的で物語に奥行きが出る。

物語の結末はちょっと納得がいかない

個人的にちょっと納得がいかないのは、主人と女中の関係であった風早市之進と菜々が、正式に夫婦になってしまうところである。
この時代劇の結末としては、「正統」なものだと思うが、何となくすっきりしない。
・妻に先立たれ、子らも小さいので、この時代なら当然後妻をめとる必要がある。
・後妻の筆頭候補だった、雪江は自分の思慮のなさから結果的に風早市之進を蟄居に追い込んでしまい、後妻候補から脱落。
・菜々は、武家の娘ということが分かり、後妻になるのに身分的な支障もなくなった。
・一番は、子らが菜々になついていること。
こうして考えると、後妻は菜々しかあり得ないように思うが、自分の妻のいいつけを守って子らを守り、父の仇とはいえ、自分のために命を賭して直訴に及んだ菜々を後妻にすれば、菜々に頭が上がらなくなるのは間違いない。

子らもなついているとはいえ、菜々が実母に代わって父の後妻になるとなれば、その関係も変わってくるのではないのか。
この段階では風早市之進の後妻としても申し分ないように見える菜々だが、後妻になって自分の子ができた途端に、前妻の子らを疎んじるようになったらどうしよう、などと余計なことを考えてしまう。
以前のまま菜々を女中として迎え入れるのは体裁が悪いし、どのみち後妻を迎えなければならないなら、形式的には妻として向かい入れるが、実際は女中待遇ということはないのか、市之進よ。
風早市之進(町田啓介)の端正な顔から菜々に発せられた「妻」という一言に、なんとも言えない違和感を覚えてしまったのは自分だけだろうか。
真面目な菜々は、風早市之進の後妻になるものの、自らの子は設けず、主人とその子らに尽くすという将来が見えて、ちょっと切なくなった。
 
NHKの時代劇は、時代劇的な良さを残しつつ、現代的にアレンジしてあって、見ていてとても面白い。
この時代劇もそれに漏れず、なかなかの佳作と言えると思う。
でも、見所は、清原果耶の和服姿と立ち回りかな。
これを見れば、映画「碁盤斬り」のお絹役は清原果耶しかないよね。


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