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64歳 赤チンから白チン、そして

子供の頃は、キズの消毒と言えばオキシドールだった。
 
転んで手足をすりむいたり切ったりした時には、まず透明のオキシドールという液体を綿に含ませてそれを傷口に当てる。すごくしみて痛いが殺菌のためにみんな我慢した。傷口はジュワジュワと白く泡立ち、その泡がいっぱい立つほどバイキンがなくなるような気がした。綿でふいた後、赤チンを塗ってフーフーと息を吹きかけて乾かす。赤チンは乾くとコガネムシのような光った緑色になる。赤チンというのはマーキュロクロム液のことだが、赤い液体なのでみんな赤チンと呼んでいた。
 
昔は外でよく遊んだので、子供たちは足や腕のどこかしらに赤チンが塗ってあった。それだけケガをしていたということなのだが、赤チンさえ塗っておけば大丈夫みたいなところがあった。運動会で転んだときは、保健室に行ってオキシドールで消毒し、赤チンを塗ってもらった。まるで治ったかのような錯覚に陥って次の競技に参加した。赤チンは元気の象徴みたいなところがあった。
 
私はかなり危ない遊びをしたので赤チンには相当お世話になったが、時には赤チンでも無理そうな深い傷もあった。でも、それを母に見せたらいろいろ説明しなければならず、もちろん相当怒られるので、母が帰宅するまでに傷口にたっぷりと赤チンを塗ってガーゼを貼り痛いのを我慢してごまかした。傷口は決して見せず、たいしたキズではないそぶりをした。その傷跡は今でもしっかりと残っていて、かなりの深さだったことがわかる。
 
一家に必ず常備していた赤チンは、製造過程で少量の水銀が発生し、その廃液の処理に多額のお金がかかることで製造終了となったそうだ。
もう一つ、茶色いヨーチン(ヨードチンキ)というのもあったが、どう使い分けていたのかはわからない。
 
でも、やっぱり赤い方が刺激的で治る気がしたのだと思う。
 
その後、出てきたのが白チン、その名をマキロンという透明の消毒液だ。
 
そして、最近は消毒液も使わなくなったそうだ。傷ができた瞬間から皮膚は自分で治そうと働くのに、消毒液は治そうとする力を弱くしてしまうのだという。
 
まあ、最近は公園の遊具も安全なものに変わったし、子供たちも危険な遊びはしなくなった。そもそも外で子供をあまり見かけない。家の中で遊ぶ面白いゲームが登場したからだろう。
 
最近は珍しくなった坊主頭、よーく見ても小さな傷ひとつない。
 
遊び方が違うのね。

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