
64歳 電化製品のヒーローは
私が小学校に入るまでは、家で電気を使うものは照明器具、テレビ、アイロンぐらいだった。
知らないうちに電化製品は進歩して、炊飯器、洗濯機、冷蔵庫が仲間入りした。どれも家事の負担が減る家電ばかりだ。
30歳を超す私の子どもたちは、大正、昭和などの時代の変化がわかっていないようで、「昭和30年代はまだ戦後の焼け野原が続いていたのか」とか、「電子レンジも昔からあったと思っていた」とか、おかしなことをいう。
洗濯機が来るまでは、木でできた大きなタライに水を張って洗濯板でゴシゴシ洗った後、手で絞って竹の竿に干すのが洗濯だった。竿は2段になっていて、上にうまく上げられず洗濯物が地面に落ちて、洗い直すこともあった。
肉や魚などの生ものは保存できないので母は毎日買い物に行っていた。裕福な家には保冷庫があり、それは大きな氷の塊を入れた木の箱だったそうだ。
私が小学生の頃には洗濯機も冷蔵庫も家にあったが、冷凍庫のついた冷蔵庫はまだ存在しなかった。業務用の冷蔵庫を作っている友人の家で冷凍庫から出したアイスクリームをごちそうになった時は感激したものだ。
電子レンジの登場は私が大人になってからだ。
この20年の家電製品の進歩は、昭和ひとケタ生まれの私の親世代には信じられないくらいの速さだっただろう。しかし、全自動洗濯機は時間がかかり途中で洗濯物を追加できず使いにくい、と言って二層式洗濯機を使っている人もいる。先日、大型電気店で買い物のついでに洗濯機売り場をのぞいたら、二層式洗濯機がいくつも置いてあった。今でも売れている証拠だ。
今は私の世代がその渦中にいて、電子通信機器とそれを使ったSNSやアプリに頭を悩ます。私は老眼がひどくなってからスマホは主に電話として使い、それ以外はアイパッドを使うようになった。場所も取らず、いちいちパソコンを起動させる手間もないのでとても便利だ。
昔はたくさんの電話番号を覚えていたが、今は家族の電話番号すら出てこない。パスワードもたくさんあって、メモしたがそれは古いパスワードだったり、あれ?これじゃないの?これかな?とかなんとか・・・。
アイパッドも使いこなしているというにはほど遠いが、分からないことがあったら娘や息子が来た時にゆっくり教えてもらう。電話だけではわかりにくいし、私と違って彼らはいつも忙しそうなのだ。
今までの50年間の家電の進歩はすさまじかったが、これから先はもうそれほど驚くようなものは出てこないだろうと勝手に思っている。
私が小学4年生の時、「未来の世界」という題で絵を描かされた。そこには相手の顔を見ながら話せるテレビ電話や、映画を家で見るとか、外国の人に手紙がすぐ届くとか、勝手に部屋が掃除されるとか、到底実現できないと思っていたことが、今はすべてできる。
それらがなかった時代を知っているのはギリギリ私の世代だろう。電気のない昔はどうやっていたのかをパソコンで調べて先人の知恵に感心できるのも、パソコンという電化製品のヒーローなしには語れない。
そのヒーローの登場と私の人生が重なったことに大いに感謝したい。