#物語
月の砂漠のかぐや姫 第309話
自分がそういう弱い面を持っていることを、羽磋は身をもって知っていました。この旅に出る直前に、自分が全てを悪い方に受け取って極度に興奮し、、言ってはいけないとても酷いことを、輝夜姫に対して言ってしまったことがありました。それはやはり、自分には輝夜姫に裏切られたと思えた場面で、心を強く持って彼女を信じ続けるのではなく、感情に流されて拗ねるという楽な方を、羽磋が選んでしまったのが原因でした。
もちろ
月の砂漠のかぐや姫 第308話
もう羽磋は、自分の指一本でさえ、自由に動かすことができなくなっていました。
なんとか話を続けようと開いていた口から、意味のある言葉を出すこともできません。それどころか、呼吸をすることさえも困難になっています。
どうしてこうなってしまったのか、もちろん羽磋にはわかっています。でも、それらを引き起こした原因である恐ろしい眼球を、目を閉じて見ないようにすることもできないのです。
羽磋は、目前に浮
月の砂漠のかぐや姫 第307話
「そうですっ、そうなんです!」
母親が投げつけて来た言葉からは、羽磋の言うことがとても信じられないという疑いの念が滲み出ていましたが、羽磋はそれを聞いても眉をしかめたりはしませんでした。それどころか、彼は即座に明るい声を返しました。
羽磋が一番恐れていたことは、母を待つ少女の母親が自分の話に腹を立てて、この場から立ち去ってしまうことでした。でも、母親はそのような事をせずに、彼に問いをぶつけてき
月の砂漠のかぐや姫 第306話
もちろん、そんなことがあって良いはずがありません。それを止めるために、一刻も早く、地上に戻らなければいけません。
では、一体どうすればいいのでしょうか。
この地下世界はとてつもなく大きくて、どこかに出口があるようには見えません。先ほど見上げたように、地下世界の天井は王柔たちの頭からとても離れたところに有ります。地下世界の地面から何本もの太い石柱が伸びていて天井を支えているのですが、それはとて
月の砂漠のかぐや姫 第305話
でも、地下世界に天井があるということは、その上には地面の層があるということを意味しますし、さらにその一番上には地表があるということでもあります。
頭上を仰ぎ見ている王柔には、地下に閉じ込められている自分たちのちょうど真上に当たる地上で、いま正に繰り広げられているであろう光景が、容易に思い浮かべられました。
弓矢を背負い短剣を腰紐に差した冒頓の騎馬隊が、太陽の強い日差しに晒されて脆くなったゴ
月の砂漠のかぐや姫 第304話
「ははぁ、なるほど・・・・・・」
ヤルダンは砂岩でできた台地が複雑に入り組んだ地域です。そこには、人の世界ではないどこかへ通じていそうな妖しい岩陰や奇妙な形をした砂岩の塊がたくさんあり、人知を超えた精霊の力が強く働く場所として、人々から「魔鬼城」と呼ばれています。月の民が交易で使用している道は、このヤルダンの台地の隙間を縫うようにして、東へ、又は、西へと伸びているため、ヤルダンの管理をしている王
月の砂漠のかぐや姫 第303話
「もう一つ付け加えさせていただきますと・・・・・・。王柔殿、理亜はあまりに良い子過ぎませんか?」
「はい? いや、理亜は良い子ですが?」
王柔は、どうして羽磋がこんな時に冗談を言うのだろうと、耳を疑いました。「いまはこの上もなく大事で真剣な話をしているところなのに、どうして」と思ったのです。
ところが、羽磋は冗談を言っているつもりなど、全くありませんでした。
「もちろん、それはわかっています。
月の砂漠のかぐや姫 第302話
王柔の様子を見た羽磋は、少しだけ可笑しくなりました。
「あまりにも突拍子も無さ過ぎて・・・・・・」と首を捻っている王柔が立っているのはどこでしょう。いままでにこんな場所があるなんて考えたことは一度もなかった、ヤルダンの地下に広がる大空間です。王柔の向かい側で、地面から少し離れた空中に浮かんでいるのは何でしょう。昔話でも旅物語でも聞いたことのない、大人を数人重ねたほどの大きさで、荒れ狂う嵐を内包
月の砂漠のかぐや姫 第301話
「理亜の身体の中に、理亜とあの昔話の少女の二人分の心が入っているのですか? 幾らなんでも、無理じゃないですか? それじゃ、上手く身体を動かせないですよ」
流石にこれは言わずにはいられないという様子で、羽磋と理亜を交互に見ながら、王柔が疑問を差し挟みました。
一つの身体には一つの心が入っているのが当たり前です。一つの身体に二つの心が入っていたら、どうなるでしょう。例えば、一方の心が前に進もうと思
月の砂漠のかぐや姫 第300話
せっかくのこの機会は逃せません。羽磋は胸に手を当てて高まりつつあった動悸を鎮めると、大きく息を吸ってから、声を発しました。できるだけ首を振って、濃青色の球体と王柔たちとの両方に顔を向けるように気をつけながら、羽磋はゆっくりと、そして、はっきりと言葉を続けました。濃青色の球体と王柔たちは、呼吸をすることを忘れるほどに集中して彼の言葉に聞き入ったので、地下世界の地面を流れる川の水音や球体下部から落ち
もっとみる月の砂漠のかぐや姫 第299話
その少女が地下世界に入り込んできた時から、ぼんやりとした意識の中ではありましたが、母親は彼女から自分の娘に近いものを感じとっていました。その感覚があったからこそ、実際に彼女を見た時に、その容姿が自分の娘と全く異なることに大きな落胆を感じたのでした。また、そこで生じた激しい感情の動きが、久しく眠っていた母親の意識を呼び起こしました。ただ、働き出した母親の頭が導き出した結論は、少女が何らかの目的で自
もっとみる月の砂漠のかぐや姫 第298話
「いた・・・・・・」
羽磋の口から、小さな声が漏れ出ました。
ずっと彼は必死になって、濃青色の球体の姿を探していました。ですから、ようやくそれを見つけることができて、もっと大きく喜びを表しても良さそうなところです。でも、身をギュッと固くしてしまった彼の口からは、それ以上の言葉は出てきませんでした。
羽磋が身構えてしまったのは、再び地下世界の空間に現れた濃青色の球体の姿が、これまでのものと全く
月の砂漠のかぐや姫 第297話
あまりにも理亜の行動が理解できないので、王柔は「そもそも、球体の中で自分の見たことは、夢だったのではないか」とすら思い始めているようです。でも、羽磋は王柔に対してしっかりと頷いて、自分も理亜が自分たちでなく母親を守るよう行動したのを見たと伝えました。
羽磋にとっても王柔のいまの言葉は、自分が球体の内部で見聞きしたことが彼一人の体験やそれこそ夢などではなくて現実であったことを、確信させてくれるも