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くにん
2021年3月27日 22:36
「おおおっっ!」 ヤルダンの赤土の上で冒頓は叫びました。さらに、気合を入れるように自分の頬を両手でバチンと叩くと、冒頓はぶるぶると頭を振りました。その目は、自分の記憶の中を見つめるぼんやりとしたものではなくなり、敵の姿を求めてギラギラと輝くものに戻っていました。 青く輝く飛沫によるものか、彼も他の男たちと同様に、心の奥に閉じ込めていた辛い記憶を呼び起こされていました。しかし、その記憶に捕らわれ
2021年3月24日 20:24
ザザワッ・・・・・・。 早朝の冷たい風が、冒頓の肌を冷やし、足元の青々とした草を揺らしました。 冒頓は遠くの方で行われている戦いの様子を見極めようと、じっと目を凝らしていました。 え、朝? それに、足元の草? 冒頓たちはいま、夕刻が迫ったヤルダンの赤土の上にいるのではなかったでしょうか。 もちろん、実際に冒頓の体が、急にどこかに行ってしまったわけではありません。肌をなでる早朝の風も足元
2021年3月20日 21:45
「ごめん、緑才(リョクサイ)。ごめんよ・・・・・・。でも、君を連れて行くわけにはいかないんだ。愛している。だけど、僕のことは忘れてくれ・・・・・・。許して、許してくれっ・・・・・・」「何言ってんだ、弁富。俺だ、冒頓だっ。しっかりしろよっ」 冒頓はしっかりと弁富の肩を抱き、その耳元で大きな声を出して呼びかけたのですが、弁富は自分の肩を冒頓が抱いたことにも全く気が付かないようでした。彼は下を向いた
2021年3月17日 22:54
「ああっ。いやだ」「くそ、どうしてなんだっ」 精悍な外見には似つかわしくない悲鳴にも似た叫び声が、次々と他の騎馬隊の男たちからも上がりました。年嵩のいった男と同様に、彼らの中に存在していた「嫌なこと」や「恐れていたこと」が、現実の姿や耳に届く声となって迫って来ているのでした。 激しい大地の揺れで下馬をしていた騎馬隊の男たちでしたが、自分たちの傍らで不安げに首を上げ下げしたり蹄で地面を掻いたり
2021年3月14日 16:13
「なんだよ、これっ。温泉でも湧いたのか」 地面から激しく噴き出して空高く舞い上がり騎馬隊の上に降りかかってきたものに対して、苑が最初に思い浮かべたのは、やはり間欠泉が噴出したのではないかというでした。 ゴビの砂漠は、ところどころに大きな砂丘が点在する礫砂漠でしたが、天山山脈や祁連山脈などの雲にまで届く霊峰も数多く存在していました。それらの多くは火山でしたから、ゴビの荒地においても、赤土の裂け目
2021年3月11日 21:02
ドドドウッ。ドドドッドドッドッ。 ドドド、ドドド、ドド、ダダ・・・・・・。 冒頓が「ここだ」と見定めた場所は、すぐにやってきました。冒頓は馬の駆ける速度を少しだけ緩めると、背中に収めていた弓を取り出して左手に持ちました。 騎馬隊の右手から前方にかけて大きな砂岩の塊があります。隊の左側には細く長い亀裂が大地に口を開けているので、彼らは直進せざるを得ません。でも、亀裂の向こう側に広がるゴビに目
2021年3月6日 19:57
「母を待つ少女の奇岩の周りにもサバクオオカミの奇岩がいて親分を守っているんだろうが、まぁ心配ねぇ。今までのあいつらとの戦い方からすると、しっかりと隊形を組んで突撃すりゃあ、周囲の守りを突き破って母を待つ少女の奇岩をぶっ壊すことは、十分にできるはずだ。そして、おそらくは、母を待つ少女の奇岩さえ壊してしまえば、この訳のわからねぇ現象は治まるはずだ・・・・・・」 これまでの奇岩との戦いの中で、奇岩の側
2021年3月3日 23:50
ザシィンッ! ドンッ、ゴロンゴロン・・・・・・。 騎馬隊の先頭に立って突入してきた冒頓に対して、サバクオオカミの奇岩の群れの中央を走ってきた一頭が飛び掛かりました。その奇岩は冒頓の正面から近づいてきていて、群れの中で彼に最も距離が近いものでした。つまり、冒頓の方からも「まず、こいつが飛び掛かってくるだろうな」と予想されていた一頭だったのです。そのような直線的な攻撃が冒頓に通じるはずがありませ