2019年12月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第86話
「ああ、理亜ぁっ!」
時として、物事が急に速度をあげて進むことがあります。それは、悪い方向にばかりとは限りません。この時に物事が進んだのは、王柔にとっては全く予想外ではあるものの良い方向にでした。なんと、村の門を出て直ぐのところに、理亜が立っていたのでした。それも、村の入口の方を向いて、王柔を待つようにして・・・・・・。
もちろん、王柔は大喜びで理亜の元へ走りました。そして皆に理亜を紹介する
月の砂漠のかぐや姫 第85話
「それで・・・・・・、どうしてもお願いしたいことが・・・・・・」
「ああ、良いよ、王柔。ありがとう、ここからはアタシが話そう」
いよいよ本題に入ろうとして、さらに緊張した口調になった王柔を、王花が押しとどめました。王花の声からは、その言葉と同じく、王柔へのねぎらいが感じられました。
はじめは、王柔はさらに話を続けたそうな様子を見せました。これが他の誰かからの言葉であれば、王柔は自分で話を続け
月の砂漠のかぐや姫 第84話
今日の王花の酒場は、小野の交易隊の貸し切りになっていました。店の中は隊員たちでぎっしりと満たされていて、料理や酒を運ぶ店員も、男たちの間を通るのに苦労するほどでした。
羽磋が来るように呼ばれたのは、店の奥にある小部屋でした。騒々しい厨房をさらに抜けたところに作られたその小部屋は、その外側にある酒場とは全く異質な部屋でした。
貴重な油を使った幾つかの燭台が明かりとして用いられていますが、部屋全
月の砂漠のかぐや姫 第83話
その日の午後のことです。
羽磋たちは、土光村の一角にある王花の酒場で杯を傾けていました。ようやく、一連の搬入作業が終了したことから、最低限の人数は駱駝や天幕の管理のために村の外に残す必要がありましたが、それ以外の隊員や護衛隊の者はこの酒場に集まって疲れを癒しているのでした。
太陽は頂点を過ぎたものの、まだ辺りを明るく照らしているのですが、彼らは全く気にするそぶりを見せずに酒を煽っていました。
月の砂漠のかぐや姫 第82話
そんな羽磋を見つめる小野のまなざしは、とても暖かなものでした。
ゴビや砂漠を一人で渡るということは、その必要とされる装備や食料までも一人で管理・運搬するということであって、とても大変です。そのため、何らかの目的でゴビや砂漠を移動しようとするものは、複数の人数からなる隊を組むか、あるいは、交易隊などの既に存在する隊に同行させてもらうことが多いのでした。
これまでに何度も、小野は自分の交易隊に留
月の砂漠のかぐや姫 第81話
物語は、再び元の時間に戻ります。
王柔たちが土光村に着いてから約一月後のこと、小野の交易隊も無事に土光村に到着しました。
小野の交易隊は非常に規模が大きかったので、小野は前もって先触れを出していました。先触れとは、本隊に先立って土光村に入り、なじみの倉庫業者、食料や水を取り扱う業者に、自分たちが到着することを告げて、必要な調整を行う役目の者のことでした。
それは、通信手段がないこの時代なら
月の砂漠のかぐや姫 第80話
しかし、王柔は砂岩でできた立像ではなく、息をする生身の若者ですから、体力には限界があります。二日目の夕方にもなると、西の方を眺める王柔の視線は、ぼんやりとしたものになってきました。さらに、まだ報告もしていないのに、ずっとここでこうしてはいられないという意識も、段々と大きくなってきました。
「ごめんよ、理亜、ごめんよ・・・・・・」
それは、王柔がつぶやいた何度目の謝罪の言葉だったのでしょうか
月の砂漠のかぐや姫 第79話
土光村は、月の民の勢力圏の中ではほとんど見られない、大規模な建物が並ぶ村でした。それらは日干し煉瓦を積み上げて作られた土色の建物で、一様に四角い形をしていました。
その建物のほとんどは人が暮らすためのものではなく、交易品を保管するための倉庫でした。そのため、それらの建物の入口は高く大きく作られていて、駱駝や荷車が荷物を積んだまま中に入ることが出来るように考慮されていました。建物の扉はとても分厚