2019年5月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第37話
「あれは、まだ、俺が十二の頃の話だ‥‥‥」
思い出し思い出ししながら、大伴がゆっくりと語り始めたその話は、彼が前置きしたように、少し長いものになりそうでした。それは、大伴がまだ羽磋と同じ年の頃の話でした。
大伴の話を一字一句聞き漏らさないように、全身を耳にして聞いている羽磋でしたが、父の話を聞いていると、とても不思議な気持ちが、自分の内に湧き上がってくるのでした。
それは「父上が十二の頃、
月の砂漠のかぐや姫 第36話
「竹姫の話だ。まず確認するが、俺が不在の間に、砂漠でお前が見聞きしたことを誰かに話したか」
大伴の声は、低く小さなままでした。周囲に気を配りながら、背中を預ける羽磋にだけ聞こえるように気を配っているのでした。
「え、いえ、誰にも話していません。俺が目を覚ましてから、竹と話をするまで誰とも、いや、母上と話をしました。でも、砂漠での出来事は話をしていません。竹とは砂漠での話をしましたが、全然話が
月の砂漠のかぐや姫 第34話
馬だまりでは、朝の餌を喰いつくした馬たちが、自分たちの近くにぽつぽつと生えている下草を喰いちぎって、口さみしさを解消していました。しかし、大伴がいつも騎乗している馬だけは、飼い葉桶に首を突っ込んで朝食の真っ最中でした。
「すまんな、朝飯はしばらく待ってくれ」
大伴は話しかけながら愛馬を引き出すと、その背に鞍と革袋を置きました。その横で自分の愛馬に鞍を置きながら、羽は大伴に尋ねました。
大
月の砂漠のかぐや姫 第33話
「くそ、くそっ」
羽は、小さな声で罵りながら、小走りで自分の天幕に戻っていきました。
そもそも自分は誰に対して憤っているのか。竹姫に対してなのか、それとも他の誰かに対してなのか。
極度の興奮で混乱している羽には、それすらもわからなくなっていました。
考えてみると、大事なことを忘れてしまった竹姫に対しての怒りがありますが、それ以上に、感情的になってしまって竹姫を傷つけるための言葉を発してし