見出し画像

試し読み:『UX実践者のためのプロダクトマネジメント入門』冒頭部分

2024年5月28日に刊行される『UX実践者のためのプロダクトマネジメント入門』より、「本書の使い方」と「はじめに」をご紹介します。

本書は、UXとプロダクトの相乗効果についてや、プロダクトマネージャーへの転身で起こり得ることについてなどを、現場の声も含みながらわかりやすく示してくれる一冊です。UX担当者がプロダクトへのキャリアチェンジを検討する際に、ぜひご一読いただきたい内容です。

また本書の監訳者、及川卓也氏による「まえがき」の試し読みもこちらで公開しています。併せてぜひお読みください。


本書の使い方

主に次のような人に、この本を読んでいただきたい。

・プロダクトマネジメント(またはそのほかのプロダクトのリーダーシップポジション)へのキャリアチェンジを考えているUX担当者およびマネージャー

・現在プロダクトチーム内で働いていて、その環境下で自分の能力を最大限活かす方法を学びたいUX担当者

・共に働くUX担当者のことをもっとよく理解し、彼らが貢献すべき分野は何か、どうすれば彼らの才能をフルに引き出すことができるかを知りたいプロダクトマネージャーまたはプロダクトリーダー

もしあなたがUXのプロフェッショナルで、プロダクトマネジメントに興味があるのなら、本書を読むことで、あなたが持つUXのスキルがプロダクトの役割にどう適用するかを知ることができるだろう。そうして得た数々の洞察は、プロダクトのキャリアへ舵を切るべきかどうかの見極めに役立つはずだ。また、プロダクトマネージャーの世界観や優先事項への理解が深まり、彼らとより良い協働関係を築くには何が必要か、健全かつ能率的なプロダクト開発チームを構築するにはどうすればよいのかを学習することができる。

プロダクトマネジメントの仕事とUXの仕事を比較しプラス面とマイナス面を純粋に評価することは、プロダクトの役割が本当にあなたの望むキャリアアップや成長をもたらすのかを熟考する機会にもなる。

もしあなたがまだ、将来のキャリアを決めかねているのなら、本書を読み終わるころにはきっと、自分が本当に進みたい方向性が見えてくるだろう。もしもプロダクトマネージャーかリーダーになるぞと決意を固めたのなら、この本にはキャリアの移行を準備し実行に移すためのレシピがたくさん詰まっている。

すでにプロダクトマネージャーかテクニカルプロフェッショナルとして働いている? それならば、UXのデザイナーやマネージャーの視点や思考を理解し、彼らとの関係性を向上させ強力なプロダクトチームを作るためのノウハウを、本書を通して身につけていただけたら幸いだ。

本書の内容

本書は、プロダクトマネジメントとは何か、そしてプロダクトマネージャーとは何をする人かについて解説した本である。プロダクトマネジメントという仕事が本当に自分のやりたいことなのかを見極めたい人に役立つ内容となっている。あなたが苦労して習得したUXスキルのうち、どのスキルがプロダクトへの移行にプラスになるのか、またこの2分野間のギャップとは何かを明らかにしていく。

プロダクトマネージャーは、どのようにエンジニアと協力し、またビジネスの成果に責任を持つのか。どのようにデータや指標を扱い、実験を行い、収益を最適化し、金銭を扱うのか。その答えもすべて、本書の中に見つけることができる。

また、プロダクトとUXの実践者と彼らのチームが効果的に連携し合うために必要なこと、競合する優先事項のあいだで難しい選択を行う方法、そして上司を含めたステークホルダーに対する「ノー」の伝え方を解説。最後に、プロダクトマネジメントのリーダーシップがどう機能するのか、そして、どうすればボスになれるのかを学ぶ。


はじめに

「どうしてプロダクトマネージャーが私にあれこれ指図するわけ?」

ほとんどのユーザーエクスペリエンスの専門家は、初めてプロダクトマネージャーと仕事をしたときのことを覚えている。ある会議で、新しい仕事で、大きな会社で、別の業界で、スタートアップで、あるいは組織再編時に―。
それがどこで、どんな形だったにしろ、何かが新しくて何かが“違って”いたはずだ。会議で「プロダクト」がどうだとかUXがああだとか話しているけれど、この人はいったい誰だ?

「しーっ。あれはプロダクトマネージャーだよ」

同じチームのエンジニアのひとりが「あとで詳しく説明するから」といいながら、私に早口で教えてくれた。UXチームはプロダクトに関して、この人物に“報告”するのだと。

なるほど……。ん? ちょっと待って、それってどういう意味? 誰が何をするって? つまりこのプロジェクトマネ……じゃなくて、プロダクトマネージャーがワイヤーフレームを作って、それをデザイナーに渡して「じゃ、あと色付けをよろしく。いい感じに頼むよ」って?

そしたら、プロダクトのユーザーエクスペリエンスに関する最終決定権は、誰にあるの?

そもそも、プロダクトマネージャーとはいったいどんな職業なのだろうか。最近では、その役職を誰が、どこで、どう実行するのかによって、その答えは異なる。

では、UX担当者がプロダクトについて知っておくべきこととは、何だろう?

NOTE:プロダクトという言葉の意味について
プロダクトマネージャーは、“プロダクトマネジメント”のことを“プロダクト”とだけ呼ぶことが多々ある。“マネジメント”部分の定義が曖昧なため、そちらに捉われすぎないようにあえて省略しているのだ。“プロダクト”という言葉は、“プロダクト思考”全般(プロダクトデザイン、プロダクト開発、プロダクトマーケティングなど、プロダクトに関する全領域・論題)を表す言葉としても使われている。

本題に入る前に、まずは考えてみよう。プロダクトとUXはどう関係しているのか、両者が連携してうまく機能するためには何が必要なのか、そして、プロダクトとUXの「正しい」関係とはどのようなものか?

答えは、「状況次第」である。

それは一旦置いておいて、ここからは、具体的な例を(場合によっては私の私的体験として、よくあるパターンなら一般的な話として)挙げてみるので、プロダクトがUXの世界観に(あるいはその逆でUXがプロダクトの世界観に)どうフィットするか、自身のメンタルモデルを組み立ててみてほしい。

まずは、時を何年か前まで巻き戻してみよう……

10年前に参加したワークショップで……

十数年前、私はYahooでインタラクションデザイン部の上級インタラクションデザイナーと、かの有名なデザインパターンライブラリのキュレーターとを兼任していた(当時の名刺の肩書きは“パターン探偵”だった)。上司のエリン・マローンはプラットフォームデザインチームのUED(ユーザーエクスペリエンスデザイン)のシニアディレクターだった。のちに私は、彼女と共同でソーシャルエクスペリエンスデザインに関する本を執筆している。

その年、私たちはIAサミット(情報アーキテクチャの国際会議)に出席しプレゼンテーションを行ったのだが、そこでUXデザイナーのためのプロダクトマネジメントに関するワークショップ(講師はジェフ・ラッシュとクリス・ボーム)が開催されることを知り、二人ともすぐさまサインアップした。おそらく、お互いに同じような理由からだったと思う。

Yahooでは、UEDは「product org(プロダクト組織)」と呼ばれる部署に報告を上げることになっていた。技術的な作業はすべて、プロダクト部とエンジニアリング班との協働で行っていたのだ。この二大巨頭は、社内のあらゆるレベルで、あらゆる場面で、常に覇権を争い対立していた。

我々のプラットフォームデザインチームは技術部内に作られていたのだが、それでもUEDはプロダクトマネジメントと一緒に作業し、先方からの要求に応じなければならなかった(事実、エリンが最初に私を採用しようとしたとき、私が「経験豊富すぎる」ため、自分の作成したワイヤーフレームに基づいたモックを作るだけでは満足しないに違いないと案じたプロダクトマネージャーに採用を拒否されている)。

しかし特筆すべきは、Yahooが会社全体を通して、UXデザイン(およびリサーチ)をプロダクト部門の一部として扱っていたことだ。私にとっては、まったく初めてのことだった。私は、1990年代のアート志向の強い自律型陣営の中で、フリーランス、エージェンシー、コンサルティング関連のクライアントに向けたウェブサイト制作を一から学び経験を積んでいった。そうしたサイト自体はプロダクトではない。プロダクトの販売、宣伝、普及の促進をするためのものだ。Yahooでの仕事の大きな魅力は、サイトに訪れる人たちのために機能的な体験を作ることができ、実店舗型ビジネスのマイクロサイトの構築や、ホームページやサイトナビゲーションの改訂といった仕事から脱出できるところにあった。

だから、UXの担当である自分たちがプロダクトを作っているという事実も、UXの仕事をプロダクト部門の人間が監督するということも、私にとっては非常に衝撃的だった。そんな折に参加したジェフとクリスのワークショップは、プロダクト畑の人たちの習性や思考について理解を深める絶好の機会となったのだ。

勝てない相手なら……仲間になればいい!

私が感化されたもう1つの瞬間は、Yahoo検索プロダクトのUXデザインのVP(バイスプレジデント)だったラリー・コーネットが、同じチームのプロダクトマネジメントのVPに就任したときだった。

「それってアリなの?」目から鱗の出来事だった。

私が彼ら同様に、未だ多くのUXデザイナーが「ダークサイド」と呼ぶプロダクトマネジメントの道に進むのは、それから数年先のことだ。果たして、私も上からあれこれ指図する大ボスになっただろうか? 違うチームに移動しない限り、キャリアアップもプロダクト戦略に影響力を持つことも望めないのだろうか? プロダクトとUXは「最強の友」として協力し合うことができるのか? 本書では、そういった疑問にも答えていく。


Amazonページはこちら。Kindle版(リフロー形式)もあります。

原書はこちらです。


いいなと思ったら応援しよう!