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作り手がワクワクしないアイデアに顧客がワクワクすることはない。

8月24日の日経新聞に出ていた中村修二教授のインタビュー記事を興味深く読みました。中村教授は青色発光ダイオード(LED)の研究で有名です。「日本でイノベーションが生まれない環境の背景にあるのは、特に大学の研究室発のスタートアップが日本で出てこないことだ。米国の工学部の教授は基本的に起業を経験した人がほとんどで、1人の教授が5社ほど創業する。企業の技術顧問のようなこともする。私の3社は少ないほうだ。米国のスタートアップで働く人たちのインセンティブは大企業とは全く違い、成功しようと休暇中であっても必死に働く。同じテーマで競争すれば大企業に勝つに決まっている(日経新聞8月24日)」。

大企業に勝つに決まっている。この言葉は非常にパワフルです。アメリカの教授たちは起業を通じて、自分たちの研究がどう実社会で価値を持つのかを体感しているのですね。なにより「教授が外に出て実際に事業を起こす熱意」のようなものを感じます。それが学生たちに伝わり、また次のイノベーションが生まれるという循環があるのでしょう。日本企業もただ新しい技術や手法を取り入れるだけでなく、それがどんな新しい価値を生むのか、本当に顧客や社会を熱狂させるものなのかを信じ切る必要があるかもしれません。

自分たちが心からワクワクできるかどうか。これはイノベーションを起こすこと自体が目的になりがちな企業にとって「深遠な質問」かもしれません。自分たちが熱狂していないのに、顧客や社会が熱狂することはありません。イノベーションとは、技術の導入やプロセスの改善だけでなく、その先にある「誰のために、何を変えるのか」を明確にし、そこに全力で向かっていくことに他ならない。ここに情熱の二文字がありそうです。そういう仕事に没頭できるかどうか。それを喜びとできるかどうか。ここが業務としてイノベーションプロジェクトに取り組む人間と中村教授のようなひととの決定的な差であり、これ自体が成功失敗の原因になりそうです。そして、こんな情熱があれば、おのずと「失敗を恐れないプロジェクト」になりそうです。中村教授が成功した青色LEDの開発も、誰も見向きもしなかった材料を使い、独自のアプローチで成し遂げたものです。誰かが「無理だ」と言うことでも、「これは絶対に価値がある」と信じて挑戦する姿勢が、最終的には真のイノベーションを生み、市場や人々の意識、これまでの常識を変えるのです。

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