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新カテゴリー創造のリアル

事業戦略のなかで、おそらく最も効果的なものの一つが「新カテゴリー創造」でしょう。同時に最も難しいものでもあります。ブランド構築も同様で、短期間で立ち上がるブランドは新カテゴリーとして登場します。大事なのは、モノやサービスとしての「物質的なカテゴリー作り」以上に「顧客の生活に浸透」してはじめて完了することです。つまり、それを認知させ定着させることが本来的な新カテゴリー創造であり、ここが難しいわけです。多くはそこまで行かずに低空飛行を続けるか、途中で力尽きてしまう。

先日、終売したiPodもまたデジタル音楽配信のデバイスとして(新カテゴリーとして)登場しましたが、発売当時は売れなかったと言います。当時は音楽配信というのもあまり知られていなかったし、「あなたのポケットにお好きな1000曲を」と広告で言われても何のことか理解できない。そもそも「そんなものが必要なのか?」と思われるのが関の山でした。新しければ新しいほど顧客自身の生活から距離感があるから自分ごとに出来ない。「あったらいいけど、なくてもいい」と思われてしまうわけです。iPodも売れるようになるまで2~3年かかったと言います。ここが新カテゴリーを作る上での難所でしょう。

そもそもインサイトは存在するか。これは新カテゴリーの計画段階での基本にして重要な質問でしょう。得てして技術主導での新カテゴリーはここが抜け落ちることが多いもの。そのような例はオープンイノベーションの場所で幾らでも見つけられます。正直、これらの技術主導のものは作り手自身にも「誰向けのものか」「どう役に立つのか」がわかっていないことが多い。「未知なる領域」に関するヒューマンインサイトが抜け落ちているのです。アップルでもそうです。有名なNewtonやPower Macを持ち出すまでもありません。ちなみにLisaの失敗がジョブズをアップルから追放する結果になったという噂もある。出す製品すべてが成功しているようなイメージのアップルですが、その陰には何倍もの失敗作があるのも事実です。

このように新カテゴリー創造は挑戦的であるがゆえに、途中で諦めてしまう会社が多い。しかし、しぶとく、しつこく、手を変え品を変え、顧客にアプローチし続け長いトンネルを抜ける会社があるのも事実です。もしインサイトがちゃんと存在しているのなら、後は「しつこさ」がキーワードでしょう。アップルの名誉のためにも言いますが、この点でアップルはしつこさを持つ会社だと思いますし、彼らの強みでもある。初期の製品を買ってくれた顧客(アーリーアダプター)に使い勝手や要望を聞いて製品改良を加える。ユーザビリティの改善を図る。モデルチェンジやコミュニケーションの変更を試みる。トライアルを獲得するためのキャンペーンを実施する。しかも何度も試みる。1回やそこらではダメで「どれほどやったか」が問われます。この「しぶとさ」こそ、新カテゴリー創造の実態でしょう。そこでの努力は裏切らないと思います。