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【ライターの仕事】キャリアがキャリアを生むということ

これまでに何百、何千という人を取材してきた。
そのたびに思う。繰り返し、しつこく思う。
取材ライターというのは、幸せな仕事だと。
人生で決して交わることのなかった人に会い、素晴らしい話を聞かせてもらえるのだから。
いつも取材のあとは、その幸福を噛み締める。
11日もそんな取材だった。

取材先は京都の製薬会社で、研究開発者でもあり、社長でもある女性の方にインタビュー。
実はこの取材が楽しみで仕方がなかった。ずっと憧れていた雑誌の初案件だったし、この製薬会社の技術にも注目していたからだ。

みなさんは知っているだろうか。
肌に溶ける成分の小さな「針」が何万本と入ったパックシート。「マイクロニードル」という。
ヒアルロン酸などの成分で作られた微細な針に薬剤や美容成分を内包したものがシートに並んでいる。このシートを肌に貼り付けるだけで針が刺さり、角質層の奥まで美容成分を浸透させるのだ。針は溶けてしまうから、安全かつ痛みもなく、確実に成分を送り届けるという画期的な技術。いわば「貼る注射」だ。

今はいろんなメーカーがこの技術を使った製品を販売しているが、世界で初めてこの技術を開発して製品化したのが今回取材した会社だ。
今は化粧品の分野でさまざまに応用されている技術だが、今後は医療の分野でも広く活用されることは間違いない。可能性は無限で、世の中の多くの人たちに役立つだろう。

たとえば、昨年販売された「アネスパッチ」は、歯の治療をする際の麻酔を「注射」でなく「パッチ」で行うというもの。歯ぐきに貼り付けるだけで麻酔薬が浸透する。大人だって怖い歯医者の治療。ましてや子どもなんて、口の中に注射されることは恐怖でしかない。それが「パッチ」で何の痛みもなく麻酔できるようになったのだ。
マイクロニードル、すごい!
数年後にはワクチンも注射ではなくパッチで、それも自分でできる日が来るという。他にも化粧品・医薬品での応用は限りがない。

こんなすごいものを開発した方を取材できるなんて、もうワクワクでしかなかった。私は不思議と取材の時に「緊張する」ということがない。ただ楽しくて高揚している。今回も聞きたかったことをいろいろ聞き、予定の1時間ちょうどで終わらせた。「経営者」というよりは、情熱のある「研究者」という感じの社長さんで、お話上手で、あっと言う間の1時間。楽しかった。

帰りに、撮影で使っていた新商品のサンプルをいただいた。うれしい!社長さんは60歳を超えているとのことだが、お肌ピカピカだったもんな。私もこれでハリ・ツヤを戻すんだ!

いただいたサンプル。
右2つは秋からドラッグストアでも
販売されるとのこと。
新技術が使われた針を塗るタイプで
早速つかってみたが、いい感じ!


掲載誌の発売は来年の1月22日。まだ発行前なので取材の中身については書けないが、良い取材ができたことは間違いない。

まだ今月と来月にこの雑誌の取材が2件入っている。取材対象はどちらも関西の大手企業の社長さんだ。全国誌だけど、1月号は関西特集とのことで、私に依頼が舞い込んだ。

ここ数年、商業ライターとして何を書いていくのか、何がやりたいのか、悩んでいた時期もあったけれど、最近はやりたいことが明確になってきた。
世の中に「WEBライター」や「ライター」と呼ばれる人が増えているようだが、やはり企業の社長インタビューなどは誰にでもできる仕事ではないと思っている。私はあまり手を広げず、一番好きな「企業取材」をメインにやっていこうと思う(もちろん酒造メーカーも含む)。
案件は少なくてもいいし、報酬もそんなに高くなくてもいい。だけど、自分がやっていて心から楽しいと思えること、決して「誰にでも」はできないことをやっていきたい。

人生で、取材で話を聞いた人は、3000人以上はいると思う。その中に「社長」と呼ばれる人も200人くらいはいるだろう。そういう人の話を聞くのは本当に楽しいし、勉強になるのだ。これからは、むやみに何でも受けるのではなく、企業取材に特化して案件をとっていくつもりだ。もう「何でも屋」を必死にやる年齢でもないし。

ありがたいことに、四半世紀以上もこの仕事をやっているというだけで、特に営業などはしなくても、向こうから話はやってくるようになった。でもそれは、若い頃から安くてしんどい仕事も全力でやってきた実績があるからで、何も無駄なことはなかったし、むしろ今の私を支えてくれているのは「過去の自分」だと確信している。今回の仕事もちゃんと「次につながる実績」になるように、良いものを書いていきたい。

今回、初めて依頼をもらったクライアントで、担当の方とお会いするのも取材での現場が初めてだったのだが、とても感じのよい素敵な方で安心した。(電話とメールでは連絡をとっていた)
カメラマンさんもベテランの腕の良さそうな方だった。カメラマンさんっぽい雰囲気(これ、説明するの難しい)はあるが、優しそうな方で話しやすかった。

会ったこともない、面談やテストがあったわけでもない。過去の実績だけで、今回の仕事はまわってきた。
私の場合、新規案件は自分のホームページか「ライター名鑑」からの依頼がほとんどだ。もしくは人からの紹介。自分から営業をする、ということはもうなくなった。(ちなみに今回はライター名鑑からだった)

「キャリアがキャリアを生む」
これは私が若い頃からずっとお守りのようにつぶやいてきた言葉だが、改めてそれを実感。「あの記事が書ける人だったらこの記事もいけるでしょ」と判断してくれたんだなと思う。

初めての仕事は、期待に応えるのではいけない。
「期待を超えるもの」を書く。
ベテランというのは、そうして初めて評価されるのだ。
「OKです」ではなく、「さすがですね」と言われることを目指す。
すごく偉そうだけど、本当にそうでなければ、「次」なんてない。それがフリーランスというもので、その厳しさをずっと味わいながら生きている。
だから、ずっと仕事に飽きないし、いつまでも面白いんだろうな。

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