パラオ旅行記【1日目〜韓国編】

 和也を乗せた飛行機は16:00着なので入国審査を出たすぐのところで落ち合うはず、だった。
 来ない。16時になっても来ない。
 16:24「今着いた」和也から漸くLINE。大幅な遅延。飛行機降りた瞬間に空港のWi-Fiに繋いだのだろうが、空港はここからが長い。まず降りてから入国審査場まで遠い、どれだけ歩かせるねんと思うぐらい長い。トイレに行かなかったり、動く歩道に乗らずに歩いたことを後悔することが往々にしてある。
ということは和也と合流出来るのは恐らく17時を過ぎる。
 ここで、あれ?時差ないの?と勘付く人は鋭い。海外旅行に慣れていそうだ。ただ今回トランジットで訪れた韓国もパラオも実はどちらも日本と時差はない。パラオは日本の真下にあるため経度が同じだ。この先も日本時間と同じ感覚で読んでもらって構わない。
 
 和也との合流までWorld Series Of Pokerというポーカーのゲームをやることにした。
なぜか。そう、韓国でのトランジット時間6時間を何に使うかというとカジノだからだ。カジノはこれまでもマカオ、シンガポールと2回行ったがいずれも1万ほど負けている。カジノに行くと結局分かりやすいゲームをやりがちで日本人ならルーレットとシックボー(サイコロを3つ転がして出目に賭けるゲーム)の卓にいる光景をよく目にする。これはルールが分かり易いからという理由もあるが、単純に英語でディーラーと話す必要がほとんどないからだと思う。やはり英語苦手な日本人がディーラーにスラスラゲームについて話されてもあたふたするだろう。そんなことを考えるぐらいだし、人と同じは嫌だ、という未だに幼稚なプライドがある私は今回のカジノこそあまり人がやらないポーカーという新たなゲームに挑戦したいと思っていた。
ルールと流れは覚えた。あとはやるだけだ。

「とりあえず入国審査出てエスカレーターで下降りた7番の荷物受け取り場前のベンチにいる」とゲームとインスタとLINEを行ったり来たりして、場所を報告しておいた。

 「あと四人」入国審査まであと何人かを示すLINEを受け取り、もうそろそろなのでゲームも閉じた。インスタを何度か下にスワイプして更新させる。何も更新されてない。
 
 和也登場、そして合流。
 和也が視界に入ってから急いでインスタのストーリーを開いて動画を撮った。別に載せるか載せないかは考えてないし、結局載せなかったが。友達との合流をインスタストーリーにあげてる人を見て、しょーもな、と思うけど自分もやろうとしてると思うとやや不快だ。

「まーじ疲れた」
「てか遅くね?まあまあ待ったんだけど」「飛行機遅延したし入国審査並びすぎだわ」
「パラオへの搭乗時間考えたらカジノ2時間だな滞在出来るの」
「っしゃカジノ行こうぜ!」人生初カジノに心躍らせる和也。

「いくらウォンに替える?」
一瞬心が揺らいだ。私は学生ではない。もう社会人だし、以前カジノに行った時より遥かにお金はある。3万ぐらい替えようか。いややめた。
「1万だなー」
飛行機で読んだ80’sにこんなことが書いてあった。
"夢を持つことはたしかに素晴らしいが、それは人生を蝕んでもいく。"
彼は間違いなくビジネスという文脈でこの言葉を書いただろうけれども、ギャンブルも同じだ。沢山のSNSやYouTubeといったメディアによって僅かな成功者にも簡単に触れられる時代になった。「カジノ 必勝法」とYouTubeで検索しただけで沢山の動画、最初の動画は71万回再生、667コメント。
こういう動画を観て、自分でもマネ出来そうだな、大きな夢を持つことって大事なことなんだな、と思うらしい。夢だけ見てると人生のギャンブルには負けてしまうと心配になる。

「いちまんえんのりょうがえですねーおあずかりしまーす」
噂には聞いてたけど韓国人は日本語が上手い。隣国なのに韓国語がカムサハムニダぐらいしか出てこないことを恥じた。

 和也も1万円を両替し、其々110,000ウォンを手に入れ、空港から無料シャトルバスで3分のところにあるパラダイスシティのカジノにやってきた。カウンターにあるアルコールで手を消毒しながら受付を済ませ、いよいよカジノへin。
 
 シックボーではサイコロの3つの出目の合計が4から10なら小、11から17なら大、ルーレットでいう黒と赤のようなもので勝率は約50%。約というのは3つがゾロ目で揃うと負けたことになるからだ。なんとこのシックボー大か小どちらかを当てるだけで70,000ウォン分のチップが貰えるという初回キャンペーンがあったので早速シックボーの卓へ向かったのだ。

 負けた。70,000ウォンのボーナスがなくなった。和也は勝ち。もうカジノで勝ったような顔で意気揚々としている。
 カジノにはディーラーが実際にいる卓とゲームセンターのように機械で賭けられる卓に分かれる。ディーラーがいると緊張するのでルーレットとシックボーが出来る機械の卓へ行った。

 「ちょっとずつ賭けて増やしたら、原資から増えた分大きく賭けるんだよ。そしたら勝てる。」あれカジノ初めてじゃなかったっけ、と思った。さすが理系男子だ。
少しずつ賭けてウォンを増やす和也。

 30分後。
 200,000ウォンの和也。
 60,000ウォンの私。
 こんなはずじゃなかったし、私がやりたいのはこんなゲームではない。ポーカーだ。
全額賭けるのは恐れ多いので50,000ウォンを握りしめてポーカーの卓についた。ポーカーはプレイヤー同士でチップを奪い合うゲームだ。

 卓について驚愕した。周りの人間のチップは3,000,000ウォンぐらいある。それと比べて自分のチップはなんだ、情けない程度にしか積み上がっていない。後から分かったが、ポーカーをやるためだけにわざわざこのカジノにやってくる人間もいるらしい。

 負けた。一瞬で負けた。プロポーカー士みたいな奴らに一瞬でチップを持っていかれた。悔しいのは言うまでもないが、チップを持っていかれた以上に印象に残っているのは卓についた時の彼らの目だ。素人を狩ろうとする目と素人なのに来るなよという目。相反するはずの目はどちらも非常に似ていたと思う。当の本人達は実は何も考えてないかもしれないが、共通しているのは俺らは経験者、既にこのコミュニティにいる人間だ、とかいうそういう雰囲気で、こういう雰囲気が昔から嫌いだった。

 そんな奴らにボコボコにされたので手持ちは10,000ウォン、日本円にして1000円だ。
和也はルーレットの卓にずっと座って賭け続けていたのでポーカーで負けたことを報告しにいった。

「勝った?」
「ボコボコに負けて帰ってきた。残り10,000ウォン。」
「まじか。そんなに強かったか。」
「もうポーカーはやらん。シックボーで頑張ってくるわ。」

 ルーレットより何となくシックボーの方が勝てる予感がしていた。0から36まで数字があるより、1から6の数字までしかない方が予想出来そうという全く訳の分からない理由からだ。賭け方はただ一つ。毎度大か小のどちらかにだけ賭け続ける。要は約50%に賭け続け、ラスト数回で全額の大賭けを仕掛けて勝ち切るパターンだ。

 賭ける前にドリンクバーに向かってスプライトをコップに注いだ。一度カジノを訪れたことのある人は分かるだろうがドリンクは全て無料だ。そんなことからお金を貰わなくても何倍ものお金が一息つく間も無く入ってくる。

 シックボーの卓につく。まずは1,000ウォンずつ賭けて少しずつ増やす。減ることもあるが大方プラスに転じる。ちなみに大か小は倍率2倍、勝ったら賭け金が倍になる。あとは和也に教えてもらった"原資を超えたら超えた分を賭ける"これに従うことにした。
 機械の卓もディーラーの卓も賭けられる時間は約40秒、サイコロが転がり結果が出て20秒。1ゲーム1分のスピードで進んでいく。冷静に指スマぐらいのスピードでお金が動くことを考えると恐ろしい。
 
 自分の決めたルールに従って何ゲームか繰り返し順調に59,000ウォンまできた。時刻19:30。実は次の飛行機を考えると19:50にはカジノを出なければならない。

「そろそろ換金する」着実にチップを増やした和也からもう十分だ、というLINEが来た。
「なるほど、俺も全賭けするわ」ここから私の大勝負が始まる。
 ここまでの出目は大、大、大、小ときている。一度大や小が出るとそれが数回続く傾向にあった。ということは次は小だ。しかし怖いのはこれが何のファクトにも基づいていない"出そうだ"という勘でしかないことで、大や小が続くのはたまたまでしかない。勘をあたかも明確なファクトに基づいていると思わせる、これがギャンブルの怖いところなのだ。
 小に40,000ウォンのチップを賭けた。サイコロが転がる、出目は2.2.4、小だ。80,000ウォン増え、手持ちは99,000ウォンになった。元々の原資近くまで戻り、少し安心している自分がいる。

 和也が勝負を終え戻ってきた。結果200,000ウォンで終わり原資を倍にして終えたようだ。

「あつし、全額賭けよう」
「わかってる」
 ここまでの出目は大、大、大、小、小。次も小が来る。小に99,000ウォンのチップを賭けた。サイコロが転がる、出目は1.3.4、小だ。198,000ウォンに手持ちを増やし、原資の約2倍、日本円にして2万円になった。勝つとやはり欲が出るのが人間で最後もう一度全額賭けることにした。ここまでの出目は大、大、大、小、小、小。どっちだ、どっちが出るのか読めない。ここまで4回以上同じ出目が出ることもあれば3回で変わることもあった。全く読めない、勘でいこうとしたその時。

「1回待とう。」
そうだ、その通りだ。1回待って様子を見ることによってその次が賭けやすくなる。ここまで和也に助けられてばかり。彼が感情的になるところはほとんど見たことがない、いつも冷静沈着な判断で動いている気がする。

 出目は1.2.6で小だった。賭けるとしたら大だと思ってた私にとって和也の一言は神の一声だったのかもしれない。
 
 さあ舞台は整った。全額198,000ウォン、最後の大勝負が始まる。もう大に賭けることは決まっており持ち時間の40秒さえ長く感じた。これで負けると大損なのだが不思議と冷静な自分がいる、これもさっき負けを回避したからなのかもしれない。
 40秒が過ぎ、サイコロが回る。出目の合計が11以上なら勝ち、それ以外なら負け。自然と両手を握り祈った。"こい"、と心の中で最大に叫んだ。
 出目は、3.5.6、大だ。
「っしゃーー!!396,000ウォン!!」
「きたな!あつし!」
「これが俺のカジノだ!」
カジノに響き渡るほどの大きなハイタッチをした。あまりの喜び様からこいつらカジノ素人だな、と思われているだろう周囲の目は全く気にならなかった。それだけの大勝だったのだ。もうカジノでやり残したことなどない。

 時刻19:50。カジノを出て、空港までのシャトルバスに向かう道中。
「パラオ旅行最高だな。まだ着いてすらいないのに。」
「それな。今のところパラオ旅行100点だわ!」
 396,000ウォンを握り締め、カジノで貰った水で乾杯した。

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