マガジンのカバー画像

ものローグ

3
身の回りのある「モノ」たちの独り言
運営しているクリエイター

記事一覧

ものローグ:3

白く艶めく表面にナイフを入れながら、あなたは唇を噛みしめた。さくり、とんと、まな板が美しい音色を響かせる。さくり、さくり、と、几帳面な手つきで切り分けながら、あなたの澄んだ黒い瞳には、うっすらと透明なしずくが溢れている。私はそれを、黙って見ていた。ナイフを握る白い手は、とても冷えている。かじかんだ指先で一心に切り刻むあなたを見上げながら、私は、それで良いのよ、と伝えたかった。私を刻むと、みんなそう

もっとみる
ものローグ:2

ものローグ:2

描くもの。
語るもの。
紡ぐもの。
表すもの。
伝えるもの。
消えるもの。
残すもの。
迸るもの。

全身全霊、プライドを以て
あなたの心を形とするもの。

私は、鉛筆である。

『鉛筆』

ものローグ: 1

ものローグ: 1

私はあなたに逢いたくて
真白な海をひた走る
飛魚を追い越すスピードで
海鳥も騒がない静けさで

世界は二つに崩れおち
二度とは元に戻れない

私はあなたに逢いたくて
破壊と別離を繰り返す
鉛色に光る体を軋ませて

そうしていつかは地の果てで
人知れず朽ちてゆくのだとしても

『鋏』