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七音
2020年3月4日 11:00
白く艶めく表面にナイフを入れながら、あなたは唇を噛みしめた。さくり、とんと、まな板が美しい音色を響かせる。さくり、さくり、と、几帳面な手つきで切り分けながら、あなたの澄んだ黒い瞳には、うっすらと透明なしずくが溢れている。私はそれを、黙って見ていた。ナイフを握る白い手は、とても冷えている。かじかんだ指先で一心に切り刻むあなたを見上げながら、私は、それで良いのよ、と伝えたかった。私を刻むと、みんなそう
2020年3月3日 11:24
描くもの。語るもの。紡ぐもの。表すもの。伝えるもの。消えるもの。残すもの。迸るもの。全身全霊、プライドを以てあなたの心を形とするもの。私は、鉛筆である。『鉛筆』
2020年3月2日 23:55
私はあなたに逢いたくて真白な海をひた走る飛魚を追い越すスピードで海鳥も騒がない静けさで世界は二つに崩れおち二度とは元に戻れない私はあなたに逢いたくて破壊と別離を繰り返す鉛色に光る体を軋ませてそうしていつかは地の果てで人知れず朽ちてゆくのだとしても『鋏』