光の雨が降る夜に

“曲からインスパイアーした文章シリーズ~その2~”


「光の雨が降る夜に」
 

その雨はまるで都会の街並みで輝くイルミネーションの様だった、時刻は日付が変わる数時間程前。
眩いばかりに輝く驟雨が絶え間無く打ち付けていた。周囲の様子を見回していた男は「何て事だ…」 と呟いた。

男の眼前には、金色に輝く雨粒がひっきりなしに地を叩き付けていた。いつから降り出したのかは、もはや思い出せない程である。
“雨なのに金色の光を放つ” その光景は怪しく且つ非常に異様な光景だ。

運良く高台に避難していた男は、今いる場所から下を見下ろした。周囲はその雨の水を湛えていた。

「これ、一体なんなの?」と隣にいた女が訊いた。
「さあ…雨なんだろうけども、何か変な様子だな」と答えるしかなかった。

そのあと女が目を伏せた瞬間に、顔に付いた雨粒がゆっくりと滴り落ちた。男はそこはかと無く危険な予感を覚えつつも、吸い込まれるかの様に見入られていた。

女は次の瞬間、「もう、こんなの…嫌っ!!!!」と今まで押さえ付けてきた感情を吐き出した。そうこうしている間にも水位は徐々に上がっている。

そして何処からともなく流れ着いた一人乗りのボートを見つけそのボートに漂着した物を狂った様に擲った。まるで自らの苛立ちと不安を捨てるかの様に。

やがてボートは沈み出した。それにつれて彼らの元にも、怪しい光を放った水が更にその水位を上げていった。
もう彼らの直ぐ傍まで水責めの恐怖が迫っている、どんどんと逃げ場を無くしていく二人の下になおも激しく降り続く雨は光で瞬いている。

今にも発狂する勢いの女の姿を見た男は、事の異常さを痛いほどに感じていた。だが人の力ではどうする事も出来ない事態の大きさに、苛立ちともどかしさを同時に感じてもいたのだ。

女が全身を雨で濡らした状態で佇む姿を目の当たりにした男はハッとした。金色の雨に濡れた女の髪から、滴り落ちた雨粒を見た瞬間。その美しさに見惚れていた。

まだ沈みきっていないボートを見て、女は再び漂着物を擲つ男も共に擲っていた。
今のこの状況では二人にとって、不安と苛立ちしか感じられない。

この命よりも重く感じる、これらの感情を漂着物に込めて、ありったけの力でボートに投げ入れる。その行動は女が一人で行ったそれと比べて、あまりにも激しかった。まるで何者かに取り憑かれたかの如く。

静寂に満ちた夜空の下で、そんな危険な行為が更にエスカレートしていた。そしてそれらが、己の命を落とす無謀な行為と知りつつ。

重力に従って沈み行くボートとそれに伴って際限無く水位は上がり、二人は金色に輝く水流に音もなく呑まれて行った。

“この波に呑まれて溺れろ” とばかりに。

“この行為は君に対する愛だったのか?果たして真実は如何ほどか”

そんな事、今となっては水の底に沈んで見えない。

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