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フレンチ=健康食⁉︎「ロカボ」の世界

カロリー制限から糖質制限へ

  常識を疑うには、きっかけと勇気が必要だ。それが、自分の身体にかかわることなら、なおさらのこと。ある食材が体にいいと持ちあげられたと思ったら、すぐに次のブーム、はよくあることだが、そのレベルでないパラダイムシフトが、今、栄養学の現場で起きている。 “カロリー制限”から“糖質制限”への考え方のシフトである。これまで、カロリーベースの栄養学では、健康診断で「ちょっと太り気味ですね。脂肪やアルコールを控えて、バランスよい食生活をしましょう」だったのが、糖質基軸の栄養学では「ちょと太り気味ですね。糖質の多い食材は控えて、お肉やワイン、良質な脂はお好きなだけ」となる。

   食いしん坊には、朗報にきこえる。しかし、今、なぜカロリー制限から糖質制限という流れが起きたのか。北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏によれば「カロリー制限しても、残念ながらメタボ対策にならないと実証されたのです」とのことなのだ。その根拠となるのが2008年に報告された、イスラエル人医師グループが行った実験だ。肥満の被験者を

①カロリーも油脂も控える

②カロリーを控えて油脂は食べる

③カロリーは気にせず糖質だけ控える

の3つに分け、それぞれに食事指導した結果、もっとも減量効果の高いのは③だった。この結果が引き金となり、糖質制限は世界的に注目されるようになった。日本でも、2015年版の医師向け教科書に糖質制限の項目が加わる。栄養学の授業からも、いずれ、カロリー計算はなくなるかもしれない。   

    そもそも、カロリーベースの栄養学は、消費を前提に必要なエネルギーを算出する。肉体労働など消費が確実に行われれば有効だろうが、食べてもエネルギーを消費しないデスクワーク族、運動不足の現代人に必要なのは、消費できない場合の食べ方だろう。「生活習慣病の大きな要因に、運動不足からくる糖質の余剰があります。糖質を多く含むのは、主食(米・パン・麺類)果物・芋・豆などですが、これらを意識してとりすぎないようにすることは、糖尿病の予防、ダイエット、美容にもおすすめです。私達が推奨するのは、継続的緩やかな糖質制限の食事法です」。山田氏主宰の「食・楽・健康協会」では、1回あたりの食事で糖質を20〜40gに抑える緩やかな糖質制限を「ロカボ」と命名している。

フレンチは、ロカボの理想食

  「ロカボ」を実践しようとすると、これまでの健康食のイメージががらりと変わる。今まで健康軸で語られることのなかったフランス料理は、優等生だ。なぜなら、糖質の高い炭水化物への依存が少なく、タンパク質が主体。ためらいのあったフォアグラに肉の油脂、ワインも「ロカボ」的にはOKなのだ。

   ミシュランの二ツ星を9年連続で獲得している神楽坂のフランス料理店「ルマンジュ・トゥー」の料理長で、栄養士の資格も持つ谷昇氏は「低糖質のコースを新たに設けなくても、うちは普段通りのコースで糖質40g以内です。新しい栄養学の見地から、健康に良いと言われれば、提供する側としては料理により自信が持てますね。時代・社会は変わっているのに、栄養学が変わらないのはおかしい」と語る。「オギノ」「ラノー・ドール」などのフランス料理店もまた、基本的に普段通りのコースを提供している。麺やごはんが必須なイタリア料理や中国料理、日本料理と比べ、提供側に無理がないのがフランス料理だ。取材時の「ルマンジュ・トゥ」のコースメニューは、

冷前菜) ホワイトアスパラガスのラヴィゴットソース、野菜のテリーヌ、桜鱒の燻製のテリーヌ

温前菜)イベリコ豚のバルサミコ煮込

魚料理)ハタのポワレ

肉料理)ランド産窒息鴨のロースト

デザート)日向夏のデザート

 この内容で糖質の合計は、30.5gで、おにぎり1個分(約40g)よりも少ない。     「ロカボ」の魅力は、制限と言いつつ、実は食の選択肢が広がり、食べる幸福感が増える事にある。さらには、日本の社会を救う可能性もあるのだ。現在日本の医療費は40兆円強。これは国家予算の半分に迫る勢いで、医療費の1位を占めるのが生活習慣病だ。“美味しく食べて健康に“がモットーの食事法、それが社会の健全さにも繋がるとしたら、悪い話ではないではないか。 

ーMETRO MIN.VOL163  2016 年 06月より一部リライトー

低糖質な食事法は、継続的ブームであり、様々な論議もあります。一口に低糖質といっても、提唱者には考え方の違いがあり、糖質を完全にダメとする極端な考えもあります。私は「ロカボ」の、緩やかで、食べる幸福感を大切にする考え方に共感しています。制限というよりむしろ、食の喜びが広がる食べ方であり生き方。コツをつかめば普段の食生活にも取り入れやすいので、厳密ではないですが、頭のどこかで意識しています。実は、糖質計測器なるものも購入し、どんな時に何を食べると糖質の変動がおきたり、安定するのかも実験。それはいずれ別の機会に書いてみようと思います。


今後の取材調査費に使わせていただきます。