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シウマイ弁当の教え

 1日の販売数は約24,000個。(※2018年取材時。現在は約25,000個)販売拠点は横浜市、神奈川県内、東京都内など関東ローカルながら、日本一売れていると言われる駅弁が崎陽軒の「シウマイ弁当」だ。一時期は全国展開を目指したこともあった。が、2008年の創業100周年に掲げた新たな経営理念は「崎陽軒は、ナショナルブランドを目指しません。真に優れたローカルブランドを目指します」だ。2012年からは過去最高売上の更新を続ける。(取材時2018年)シウマイ弁当の強さは、どこからくるのだろうか。

シウマイ弁当の誕生ストーリー

 まずは、同社の歴史について広報・マーケティング部の金田さんに伺った。「創業は横浜駅構内。当時の命題は、"冷めても美味しい横浜名物”の開発でした。東京に近い横浜は、駅弁販売の立地としては不利です。初代社長が土産として目をつけたのが、中華街の飲食店でつき出しとして出されていた“焼売”でした」。土産として“冷めても美味しい”を研究し、列車内でも食べやすく小ぶりにしたシウマイは横浜名物になった。「シウマイ人気が高まり、1954年に幕の内スタイルの弁当が生まれました。冷めてもおいしい、の考え方は同じ。お米は蒸気で炊くことで、もちもち感が長く続きます。発売時から容器は経木を使用していますが、これは余分な水分を吸ってくれるからです。長く支持されてきたのは、”基本を変えない”を貫いてきたことが大きいのではと思います」。

シウマイ弁当、どこから食べる?

 発売から60年以上続くロングセラーとなった「シウマイ弁当」。最近は、「シウマイ弁当」ファンによる情報発信も盛んでファン同士の結束も強まっているようだ。ファン代表として、2016年夏に「食べ方図説 崎陽軒のシウマイ編」を発行した市島晃生さんにシウマイ弁当の魅力を聞いた。市島さんは、神奈川県大和市出身。同誌では「シウマイ弁当」ファンの著名人として、放送作家の小山薫堂さんらが同弁当を食べる手順や食べ方のこだわりを披露している。「神奈川県ではシウマイ弁当を何から食べるかで話が白熱します。社会人になって、神奈川県民に限らず、一家言あるファンが多いとわかりました」。市島さんは「シウマイ弁当」の魅力を「完璧に見えてスキがあるところ」と分析する。「シウマイ5つに俵型ご飯が8つでアンバランスなんです。食べ手は、他のおかずとシウマイを食べる順序を無意識に組み立てます。そこに各自の流儀やこだわりが生まれます」「食べ方図説 崎陽軒のシウマイ弁当」では、登場するファンが

   スタイル  縦置きか横置きか ご飯は手前か左右か

   食前の儀式 醤油の扱いやカラシの扱いなど

に始まり、食べる手順を事細かに解説している。どの位置のシュウマイから手をつけるか、ごはんとシウマイをつまむリズム、そしてファンの間で「あんず問題」と言われるあんずをどのタイミングで食べるかなど、読んでいるとついつい自分はどう食べていたか、今度はこの人の食べ方でやってみようなどと考えてしまう。愛に溢れた一種のファンブックだ。出版に至ったのは、ブログやSNSで「シウマイ弁当」へのこだわりや愛着を披露する人が顕在化したことも大きいそうだ。

応援され上手という強み

 そして知った事実が、「シウマイ弁当」は変わっていないようで実は、顧客の声により、ごくたまにマイナーチェンジを行なってきているということだ。「1974年、もう少しシウマイを食べたいというお声に応えて、シウマイを4つから5つに変更しました。あんずはさくらんぼに変えましたが数年で復活しました」。このマイナーチェンジは、ファンに意見する余地、参加権を与えてきたとも言える。崎陽軒のファンは、販売店で直接店員に希望を伝える人が多いというのだ。

「もはやシウマイ弁当は、ファンの皆様のもの。当社は、お預かりしている感覚です」(金田さん)

 「シウマイ」弁当が地道に売上を伸ばしてきた要因は、この応援の土壌にありそうだ。“顧客の声を聴く”というのはあらゆる商売の基本だろうが、シウマイ弁当が教えてくれるのは、より近い人の声を聴き続けるという姿勢。経営理念で掲げられた”真のローカルブランド”は、ファンとの心の近距離感で強められてきたものだろう。2018年は創業110周年。ファンの応援はますます熱くなりそうだ。

〜 METRO MIN. 『INTO THE FOOD Vol.27』 2018 SEP 〜

「シューマイ」でも「シュウマイ」でもなく「シウマイ」ですよと思わず突っ込みたくなってしまった、よく分からない飛び火の「崎陽軒」問題?ああ、そういえばこの連載でも取材したなと、順番繰り上げてこの記事をリライトしました。シウマイ弁当のファンでもなかったのですが、2018年が110周年ということで盛り上がりを感じてファンの人の話を聞き、崎陽軒の取材で話を聞きとしているうちに自然に親近感を感じるようになってしまいました。きっと今回の一件でもファンは増えているのでは。しかし、あんずがさくらんぼになった時期があったことにも、すぐにあんずに戻ったのにも驚き。あんずの賛否は昔からあったのに、いざ変えたら「お叱りの声が大きくてびっくり」だったそうです。2003年にスタートした工場見学は大人気で予約は数ヶ月待ち。試食つきで、お土産にひょうちゃん(陶器の醤油差し)が貰えます。



今後の取材調査費に使わせていただきます。