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マルケの食卓&ワインを復習してみた(2)

マルケの旅の続き。マルケ州は、イタリアのアドリア海側の州。思うのに、イタリアのアドリア海側と日本の日本海側のポジションって似ているような。行くのに不便で、行ってみると手つかずで、お宝がたくさん。テンションあがります。普通の観光地では満足できない人向け旅のデスティネーションでしょう。海路の時代は、大国との窓口で、文化度が高いことも共通しています。日本海と古代中国、アドリア海と古代ギリシャ。とか言っているとどんどん話がそれるので9月の旅に話を戻します。(マルケ州は赤のところ)

マルケ州

マルケの代表的前菜、オリーべ・アスコラーナ

マルケにいったことがなくても、これは食べたことがあるでしょう。オリーブの中にミンチ肉が入っていてパン粉をつけて揚げたやつです。

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南マルケで宿泊した宿「ラ・シェンテッラ」では到着した晩、これを皆でせっせと手作りしました。マルケの食卓の前菜のパターンの一つは、ハムやサラミなどの豚肉加工品と、このオリーベ・アスコラーナ。マルケはサルーミ類もきちんと手作りが普通に残っていて、中でも生タイプの「チャウスコロ」(写真のサルーミ皿盛りの左上)は悶絶確実。現地必食のマルケ産土着サルーミです。

さて、マルケをテーマにした料理教室「ラ・ジョルナータ・ディ・マルケ」でもオリーベ・アスコラーナを作りました。イタリアでは、茹で肉を挽き肉機で挽きましたが、今回は生肉のミンチで。オリーブの実を大根の桂剥きのように種にそってペラペラっと紐状に剥き、小さく団子状にした肉の外側にオリーブの実を元の形に整えるようにします。こうやって揚げたら、ほら元どおり。こちらが料理教室バージョン。

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赤ならロッソ・ピチェーノ

上記のような加工肉の盛り合わせ、そしてオリーベ・アスコラーナのような肉前菜になら、ワインは赤のロッソ・ピチェーノ。ロッソ・ピチェーノは、マルケ州5県のうち4県で造られているモンテプルチャーノ種とサンジョベーゼ種のブレンドワインですが、一番の名産地がアスコリ・ピチェーノ。オリーベ・アスコラーナは、アスコリ地方のオリーブと言うことなので両者は同郷の料理とワインというオーセンティックな組み合わせ。モンテプルチャーノ種は、隣のアブルッツォ州も名産地だったりしますが、アブルッツォがモンテプルチャーノ・ダブルッツォのように単一種で造るのが多いのに対して、ロッソ・ピチェーノはかなりサンジョベーゼ種と混ぜます。故・内藤和雄師匠は「ロッソ・ピチェーノは、モンテプルチャーノとサンジョベーゼのブレンンドの妙を楽しむワイン」と言われていました。ワイナリーによってブレンド比率も大きく違うのでテイストも様々。サンジョベーゼ比率の高い方が、酸があってエレガントなものが多い気がします。

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料理教室で合わせたのは、我らがべロニカ嬢のロッソ・ピチェーノ「ロッソ・ベッロ」(右から3番目)。エレガント系の最たるもの。因みにこちらのセパージュは、モンテプルチャーノ種50%、サンジョベーゼ種50%。やはりサンジョベーゼの使い方でしょうか。サンジョベーゼはトスカーナでは主役ですから、それをバイプレーヤーにするあたりが爽快です。って誰の何に対する爽快感なのか。

濃ゆい人々と猫

さてさて、マルケでは、たくさんの濃い人達に会いました。そして可愛い猫。ワイナリーにはよく賢い犬がおりますが、マルケは猫率が高い。犬派猫派という話がありますが、マルケは断然猫派が多い印象です。濃い人&賢猫の筆頭は、「ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ」という標高600メートルで陰干しした赤品種ヴェルナッチャでスパークリングワインを造るワイナリー「セルボーニ」のシゲルとその猫。シゲルというのは、我々がつけた名前で、やんちゃでロックな感じが泉谷だねってことで。

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右がシゲル。本当の名前は、マッシモ・セルボーニさんでした。そしてシゲルに寄り添う猫。先頭切って我々を畑に導いてくれました。かなりのデキ猫です。左は今回南マルケで泊まった宿のご主人のロベルトさん。お料理上手で穏やかな人格者。濃い人多い中で和みました。

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海辺でもない山のワイナリーでも猫。ヴェルナッチャと言う品種はイタリア各地にありますが、語源はラテン語で”その土地の”という意味で、土地のいいブドウがヴェルナッチャと呼ばれるようになり、品種間の類似性はないそう。ヴェルナッチャを陰干しして糖度を上げ、スパークリングワインにするというイタリアの中でもなかなか珍しいワインで生産者は5生産者のみ。しかしイタリアの原産地呼称ワインのDOCGに認定の歴史は古い産地です。製法は1400年代のこの地域(セッラペトローナ)の文書に残っている。シゲルは、若い頃はやんちゃをしていたようですが、今は真摯な生産者。

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訪れた9月中旬は収穫したブドウを陰干しし始めた頃でしたが、本来は10月が収穫期で、近年は気温が高く収穫が早まっているそう。クリスマスぐらいまで干します。カビが生えないよう、湿度に非常に気を使う。昔は屋根裏部屋で干していたとか。

シゲル曰く「ブドウは自然栽培。農薬を使用するとブドウの皮が薄くなって干している間にダメになってしまうことが多かったので自然栽培に戻したんだ」。シゲルの祖父の時代、ブドウは木に這わせて育てていたそうです。(原始的!ジョージアでそんな話を聞きました)ヴェルナッチャ・ディ・サンペトローナの製法は、まず良いブドウを選定して陰干し(全体の3割)にして、残りの7割は第二段で収穫して普通の赤ワインを醸造。2月に陰干しブドウをこのワインに入れて再発酵させます。

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ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナは、チャンベッラという赤ワインを練りこんだビスケットなどドルチェにも合いますが、塩気あるハム類などとも良いです。

酸いも甘いも渋いも、料理によって出方を変えてくるシゲルワイン。何年か前、イタリアの某有名ワインガイドでも名誉ある賞を授与できるはずだったのに「お金がいるっていうから断ってやったぜ」。シゲルーと呼びたくなったのはそんなこともあり。かなり日本に行くき満々になっていましたので、日本でインポーターつかないかなあ。

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こちらもワイナリー「シルヴァーノ・ストゥロルゴ」と猫。ご夫婦仲良し。ロッソ・コーネロという赤ワイン生産地区。でも奥様は「シミがつくから赤ワイン私は嫌いなの。ロゼが好き」。奥様のために造ったロゼもとてもよかったです。

続いてマルケの濃い人シリーズ。シゲルの次はタケシ。マルケにはチチェルキアという地品種の豆があります。小さくて戻すのに時間がかかる。原種に近い豆なのだと思うのですが「古代種の小麦や豆を栽培して、ピッツェリアをやっている気骨ある生産者がいる」と連れていってもらったのがタケシでした。

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タケシと豆。本当の名前はステファノ。古代種男。麦と豆を混植する昔の農業を実践。豆で窒素固定するので化学肥料は使用せず。育てているのも古代種の穀物、育ててないけど食べている肉も改良種でないものだそう。

タケシは恥ずかしがり屋なのかあまり目は見ない。目をそらすように話しながら、パルラッチ(イタリア語の汚い言葉。バカ、クソ的な)が話すリズムに組み込まれていて、それが”なんだ馬鹿野郎”な感じに聞こえるわけです。だからタケシ。「豆と小麦が買いたいです」という我々に「金はいらない(持ってけ泥棒)」的なやりとりが終始続き。ああ、こういう人が自分みたいな(扱いにくいけど味がある)豆を守るのかと。希少種を守るのは希少人、と思ったのでした。マルケは希少人の宝庫でした。また食べたいものはたくさんありますが、生サラミのチャウスコロなら「Salumificio Pssamonti」、手打ちパスタなら「Salvatori Sabina」。両方ともフェルモという町にあるます(両方ともurlないかも)。そして、美味しいもの案内人は宿のロベルトさんでした。宿ではハーブを摘んでサラダを作り、皆で食事を作って庭で食べたり。看板猫のティグレ(虎)に癒されたり。どの時も人も忘れがたい。ワイナリーでは、どこも気持ちの良い風が吹いていて、ブドウにとっても人にとっても良いのだろうなと。風は、私のマルケの記憶の大きな部分を占めています。

そして旅に必要なのは、胃袋を共有できる旅友。今回は料理の先生二人という心強さで、おまけに帰ってから復習になる料理会まで開いてくれて。

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ふさこさんと千夏さん。そして我々は、次の旅に向けて始動中です。次の標的はマルケの隣、アブルッツォ州。これまたアドリア海側です。マルケにも寄りたいな。

今後の取材調査費に使わせていただきます。