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【絵本が生まれる場所】カエルのお医者さん「キダマッチ先生!」シリーズができるまで

アグラ山にすむカエルのお医者さん、キダマッチ先生は、どんな病気やケガもあっというまに治してくれると評判の名医です。手ぬきは一切なし!
朝から晩までやってくる患者さんのために、日々奮闘しています。
大人から子どもまで、たくさんの人に愛される「キダマッチ先生!」シリー
ズについて、文章を書かれた今井恭子さん、絵を描かれた岡本順さん、作者のおふたりにお話をうかがいました。

6冊ならんでのコピー

今井恭子(いまい きょうこ)
広島県生まれ。日本文藝家協会会員。日本児童文学者協会会員。児童文学作家。作品に『歩きだす夏』『ぼくのプールサイド』(学研)、『アンドロメダの犬』(毎日新聞社)、『前奏曲は荒れもよう』『切り株ものがたり』(福音館書店)、『丸天井の下のワーオ!』『こんぴら狗』『縄文の狼』(くもん出版)など。『こんぴら狗』では第58回日本児童文学者協会賞、第65回産経児童出版文化賞産経新聞社賞、第67回小学館児童出版文化賞を受賞。「キダマッチ先生!」は初めての絵本シリーズ。東京都在住。
岡本 順(おかもと じゅん)
愛知県生まれ。18歳で漫画家としてデビュー。現在は主に絵本作家、イラストレーターとして活躍。絵本『きつね、きつね、きつねがとおる』(ポプラ社)で第17回日本絵本賞を受賞。ほかの絵本作品に『ふしぎなおるすばん』『ぼくのくるま』(ポプラ社)、『ポール』(佼成出版社)、『どうぶつのあかちゃん』(小学館)、『つきよの3びき』(童心社)など、さし絵の作品に『となりの蔵のつくも神』(ポプラ社文庫)、『はなざかりの家の魔女』(あかね書房)、『宇宙からきたかんづめ』(ゴブリン書房)、『キジ猫キジとののかの約束』(小峰書店)、『カラスのいいぶん』(童心社)など。宮崎県在住。


―まずは、キダマッチ先生のお話がうまれたきっかけを教えてください。

今井:それぞれの本には、それぞれの誕生秘話(大げさですが)があります。なんにも考えていないのに、ふと最初の一行を書いた瞬間、できた!と直感した作品もありますし、書きたいことはあっても何年もストーリーがまとまらない作品もあります。

「キダマッチ先生!」シリーズは、はっきりと誕生の瞬間を覚えている作品です。長年お世話になっている主治医の先生に、本ができるたびに差し上げていたのですが、あるとき「今度、ぼくのこと書いてよ」と、言われたのです。びっくりして、「そんな、無理ですよ」と、即答しました。すると、「カエルでもいいからさ」と、言うのです。じょ、じょ、冗談でしょ……。

ところが、それからだいぶたったある日のこと、電車の窓からぼんやりと外を眺めていたときです。なぜだか全くわかりませんが、頭の中にふわっとキダマッチ先生が登場したのです。名医のくせに、どこかとぼけていてユーモラス、荒療治も平気なのんきなカエルです。奥さんは派手好きで、町へ遊びに行ったきり。奥さんは留守の方が大いに気楽なのに、やっぱりちょっと気になります。こんなキャラがどうしてするすると出来上がったのか、それこそ謎なのです。というのも、主治医の先生をカエルに置き換えたわけでは断じてないからです(先生の奥様にはお会いしたことがないので、どんな方かも知りませんよ)。でも、とにかく、主治医の先生のひと言がこの本を書くきっかけになったのは間違いありません。


―先生の治療法がとてもユニークですね。患者さんの病気やケガも、その動物ならでは、いかにもありそうです。アイデアはどのようにうまれてくるのでしょうか?

今井:いや、いや、これは私の方が聞きたいです。誰かその秘密やコツを教えてください。というのも、私はアイデアがわかずに、いつもいつも困っているからです。一作書き上げるたびに、二度と書けないのではないか、と不安に襲われ鬱々とします。なので、これで書ける!と確信するアイデアが降りてきたときが、一番うれしいのです。

「キダマッチ先生!」に関しては、なぜかその鬱々をほとんど感じたことがないのが不思議です。どんな動物が、どんな症状でやってくるか、それを先生がどう治療するか、これらが作品の骨になります。そのアイデアは自然にわいてくることもありますし、考えて作りだすこともありますが、あまり苦労はしていません。この物語はとにかく書いている本人もリラックスできて楽しいのです。

トカゲの奥さん


―今井さんのほかの作品では、骨太なテーマを、取材を重ね練り上げていかれることが多いと思います。「キダマッチ先生!」については、どのようなスタンスで書いていらっしゃいますか?

今井:どんな作品でも、大人が読んで面白くないものは書きたくない、と思っています。児童文学の世界に入る前は大人向けのエッセイなど書いていたせいもありますが、子どもの本だから子ども向けに書く、ということはほとんど考えたことがありません。「キダマッチ先生!」は絵本ですが、大人もきっと面白いはず。書いている本人が面白がっていますから。


―「キダマッチ先生!」シリーズは、岡本さんの絵も大きな魅力です。登場人物がいきいきとしていますし、色が繊細で美しいですね。

岡本:「動物たちの世界で本当にこんなことが起こっているのでは」と感じられるように、擬人化はしていても、実際の動物からあまりかけ離れないように、漫画っぽくならないようにしています。第6巻に登場するヘビも、人間から見たら不気味なんでしょうけれど、本物のヘビらしさと絵本としての親しみやすさ、かわいらしさを調整しながら描きました。
原画は鉛筆でラインを描き、水彩色鉛筆を削って水で溶き、彩色しています。彩色の時、水彩色鉛筆の塗り重ねにとても時間がかかります。なかなか思ったように彩色できないので、もっと上手になりたいです。


町へきた

―先生の診察室だったり、奥さんのすんでいる町の様子(第4巻)だったり、タヌキのむすめさんの部屋(第6巻)だったり、細かいところまでとても凝っていて、楽しいです。

岡本:夢中になって描ける絵を、望んで描いています。細かく描く絵も、夢中になっているからそうなるのかな。描いている僕が楽しくないとね!


―文章には書かれていないものも出てきます。例えば、第3巻の冒頭。文章にはないですけれど、ミミズクを描かれていますね。絵として面白いうえに、文章で書かれた世界に空気感のようなものをプラスしてくださっています。

岡本:ここは、「キダマッチ先生が診察に追われているうちに、日がくれかかっている」というシーンで、夜型の動物がいいと思ってミミズクを描きました。ミミズクは目が特徴的なので目薬をさしたら面白いかなと思って。計算して描いているわけではありませんが、今井さんの文章を読むと、場面が映像として立ちあがってきます。「キダマッチ先生!」は、原稿を読んで面白く描けそうなところがいくつもあって、それを自由に描いているので楽しいです。

目薬をさす先生


―ちなみに、特にお気に入りの登場人物はいますか?

岡本:ミミムシ・スキムシのようなキダマッチ先生が住む世界にしかいないヤツが、またでてこないかなと思ってます。


―お二人とも、動物を飼ったことはありますか? 作品に活かしているところはありますか? 動物のどんなところを見ていますか?

今井:今は犬を飼っています。雌のシェルティ(シェットランド・シープドッグ)です。その前はゴールデンでした。大昔、学生時代にはセント・バーナードを飼っていたこともあります。断然、犬派です。
 どんなところを見るかというと、鼻の先から尻尾の先まで、眠っている間もじーっと寝姿を見つめています。飽きません。わが家では、犬が人間を嗅ぐのではなく、人間が犬を嗅いで、くさい、くさい、などと喜んでいるのです。(この場合、「くさい」というのは「いい匂い」と同義語です。)ですから、私が犬を描くときにはついにおいを書きますね。しっぽを振ってワンと鳴く、しか書いてない小説など読むと、この作家は犬を飼ったことがないな、とわかります。裏を返せば、私には猫は書けません。
 と、言いつつ「キダマッチ先生!」には、猫も含め、飼ったことのない動物を無責任に書いていて、すみません。あ、ときどきヘビやトカゲが登場しますが、ヘビもトカゲも好きです。うちの庭にはトカゲがうろちょろしていますし、以前あった池には、毎年ガマが卵を産みました。東京とはいえ私が子どもの頃は家の周囲は田んぼと畑でしたから、家の中にもヘビがあがってきました。「キャー!」なんて叫ぶような母親ではありませんでしたし、「ヘビがいる」と言われれば、私たち姉弟は、どれどれ、と寄って行って眺めました。霊長類は本能的にヘビを恐れると言われます。私はきっと霊長類ではありません。

岡本:犬、小鳥、金魚、昆虫、カメなどなど。子どものころは、いろいろ飼いました。上手に飼えなかった生き物もたくさんいます。見えるところは全て見てるけど、手で触れることができたのは、貴重な体験でした。

どれどれ



―文章が今井さん、絵が岡本さん、お二人で作られていることについて、お二人だから難しかったこと、お二人だから出来たことを教えてください。

今井:岡本さんには以前に挿絵を描いていただいた御縁で、毎年年賀状をいただいていました。それがなんとも素晴らしいのです。毎年、クマやガマなど、動物が年越しをしている細密画のようなユーモラスな絵です。「キダマッチ先生!」を書く以前から、もし動物を主人公にした絵本のテキストが書けたら、絶対に岡本さんに挿絵をお願いしたいと決めていました。願いがかなっての、このシリーズです。
 私がテキストを書くときには、どんなストーリーにするのか考えるだけで必死ですから、登場する動物たちのサイズなどにかまっていられません。というわけで、ミツバチからイノシシまで(そのうちにはライオンも?)大小さまざまな患者がやってくるのですが、小さなカエルのキダマッチ先生が診察・治療するわけですから、それを絵にする岡本さんのご苦労ときたら、サイズに関してだけでも大変なものがあると思います。いつも予想外のアイデアで、この難問もクリアして面白い絵を描いて下さいます。感謝、のひと言です。

岡本:登場する動物が、診察室に入れないサイズだったりするとき、最初少しだけ頭をかかえましたが(笑)、今ではそこを何とかするのも楽しくなってきました! 
 こういう動物たちの世界を描きたいと思っていたタイミングで依頼された仕事です。もし自分が絵だけでなく文章も書いていたら、きっと書かないだろうなと思う動物だったり、場面だったりもありますが、それを面白がって描いています。

うさぎ

(ウサギのばあさんの耳に、ミミムシ・スキムシをほうりこむ先生)



―最後に、読者へメッセージをお願いします。

今井:キダマッチ先生はかっこいいイケメンではありませんが、なんとも人間くさいおじさんのカエルです。背中の水玉模様がきれいだと信じて、白衣で隠さないようにしている可愛いところもあります。ちなみに、先生の名前は、背中の黄色い水玉模様(キ・タマ)からきています。
 たった今、世界中がコロナのパンデミックで苦しんでいますが、ケガや病気で苦しんだり、心を病んだりするのは人間だけではありません。現実の世界でもそうですが、キダマッチ先生の病院にも様々な生き物が、様々なケガや病気でやってきます。時には患者に食べられそうになったりしながらも、先生はいつも手を尽くし、奇想天外な方法で治療してくれるのです。「こまった人を助けるのが、わたしの仕事だ」をモットーに。みなさんなら、先生に相談したいこと、診てもらいたいことはなんですか?

岡本:今井さんのお話を、楽しく自由に描かせてもらっています。楽しんで描いた絵は、目にした人も楽しい、と思ってくれることを願っています!


―ありがとうございました。

「キダマッチ先生!」は現在6巻を刊行していますが、今後も続巻を出版する予定です。どんな患者さんがやってくるのか、そしてキダマッチ先生はどうやって治療するのか、どうぞご期待ください。

キダマッチ先生!シリーズ



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