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しゃぼん玉が生み出した地域の縁側 ー福島におけるソーシャルオアシスの取り組みー ―Social Moment Vol.1

CONCEPT BASE Shibuyaで行われるのは、さまざまなイベント。今回はSocial Moment Vol.1として、福島の佐藤和希さんをお招きして、みんなでしゃぼん玉をつくりました。(2019年10月31日)

佐藤さんは、しゃぼん玉で、地元福島で非公式のコミュニティを作り出しつつあります。

なぜ「しゃぼん玉」? いろんな疑問がわきますが、まずは佐藤さんのお話聞いてみましょう。(文・構成:片岡峰子/写真:小山龍介・片岡峰子)

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ちょうどハロウィンのこの日、渋谷一丁目のCONCEPT BASE Shibuyaには8名がお集まりくださいました。佐藤さんと勤務先が同じです、とおっしゃる方もちらほら。「いっしょに仕事してるんですけど、実際、佐藤さんが何してるかよく知らないんですよ。」

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「しゃぼん玉だったらできるかも」

佐藤さんは、福島県在住のJAの職員さんです。仕事の傍ら、福島大学大学院を修了、その後もさまざまな団体で学びを深める佐藤さん。

田中元子さん(『マイパブリックとグランドレベル』(2017年/晶文社)著者。株式会社グランドレベル代表。コーヒーの屋台を引いて街に出て、待ち行く人にコーヒーをふるまうのが趣味)の講演を2回も聞いて、「パーソナル屋台」に触発され、なんとなく「あぁしゃぼん玉なら」と思いつき、道具を買って近くの大きな公園にでかけたという。

「でも恥ずかしいんですよ。大のおとなが、ひとりで、いきなりしゃぼん玉やってたら変でしょう。だから、そうだ、帽子とかサングラスがあれば平気かも、と思って、しゃぼん玉のときはこの出で立ちです。」

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「でも子どもたちは興味津々で寄ってくるんですよね。で、やりたい?って聞くと「やりたい!」って言うから、しゃぼん玉を渡してみるんです。」

私がいなくても成り立ってる場を少し遠くから見るのがうれしい

「子どもは遠慮がないし、知らない人が恥ずかしいわけでもないので、寄ってきてくれるんですよ。子どもが来ると親も来る。知らない親子同士がその場で話し始めたりするのを見るのがうれしい。すごいのは、ちょっと手を洗いに私が席を外しても、だれかがさっきまでの私の役割をやってくれてる。そういうのがいちばんうれしいです。」

さぁ、実際に、この場でしゃぼん玉をやってみよう、ということになり、シートを敷いてしゃぼん玉の準備。佐藤さんが、黙々とひとりで準備を始めます。

「公園でもそうやってひとり黙々と淡々と準備するんですね?」との問いに、「そうなんですよ、もともと、コミュニケーション得意じゃないので」と苦笑いの佐藤さん。

高いのでハレの日にしか使わないグリセリンも入れてしゃぼん玉溶液ができました。

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いまこの場で起こったこと

しゃぼん玉で遊んだあとは、弊社代表の小山龍介と対談形式でみなさんと一緒に今日を振り返ります。

小山「いま、どんなことが起こったんですか?」

佐藤「まず、第一声、コウサクさんがやりたいと言ってくれたのが、うれしかったです。大きなしゃぼん玉ってだれがやっても盛り上がるんですね。キラキラしててきれいだし。今日初めて会った人たちも、しゃぼん玉を介して自然とコミュニケーションがとれてましたよね。」

小山「もうちょっと、『さぁ、みなさん』って声をかけるのかと思ったら、そうでないんですね。それがおもしろかった。」

佐藤「いつもこんな感じです(笑)。やりませんか? と声をかけても大人はやってくれないんですけど、子どもがひとりくると、そこからどんどん人が集まってくる。子どもが救いです。」

小山「大人と子どもでは最初の反応が違うんですね。子どもはわけへだてがない。」

佐藤「子どもって、外と内の境界があんまりないんじゃないかな、と感じます。」

小山「大人は、知らない人に声をかけるのが恥ずかしいというのはありますよね。大人になればなるほど、失敗したら恥ずかしいという思いが行動を止めていますよね。」

佐藤「子どもも無邪気に近寄ってくるのは小6くらいまで。中学生は来なくて、高校生は逆に変な感じでニヤニヤしながら近づいてきたりします。」

小山「思春期に精神構造がガラッと変わる。場への接し方、エゴのあり方が変わるんですよね。」

佐藤「そうですね。」

小山「ただ、途中から大人もちゃんと参加する。それはしゃぼん玉だからなんだと思います。しゃぼん玉って、絶対壊れてなくなるものなので、成功か失敗かでいうと、『全部壊れて全部失敗』というのがいいんじゃないかな。形が残ると、出来不出来が見えちゃいますよね。たとえば、サッカーをやるとなるとと、へたな人は途中でやめたくなっちゃう。しゃぼん玉は、うまいへたがわからないのがいい。」

佐藤「私は数々のしゃぼん玉を見てきているので、ときには、本当にすごいしゃぼん玉ができることがあるんです。そのときに、ほめちぎるとすごく喜びます。すごいのができたときは、知らない人も一緒に喜びます。」

小山「見てる人の役割も大きいですよね。すごいのができたときに、まわりで『おぉ!』って言ってくれる人たち。」

佐藤「そうですね。それがもともとは知らない人同士、というのがまたうれしい。」

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小山「生活と芸術を一致させようとしたウィリアム・モリスや、農民芸術を試みた宮沢賢治の例がありますが、ただふつうのひとが芸術活動、たとえば楽器や演劇をやるのはそこそこハードルが高い。でも、しゃぼん玉は手軽にできますし、この瞬間に作品を表出させる。魔力がありますね。」

佐藤「わけもわからず始めてみたら、そこから見えてくるものがありました。」

しゃぼん玉はやすやすと境界を越えていく

小山「実は、この場所(CONCEPT BASE Shibuya)は、正方形で能舞台を模していて、外側に結界が張ってあるんです。これがこの場の特徴ですが、しゃぼん玉はいとも簡単に結界を越える存在ですね。」

佐藤「公園で家族連れを観察すると、家族ごとに楽しんでるんですよね。そのなかでは活発なコミュニケーションがとられているけど、他の家族やグループとは話したりしないんです。でもしゃぼん玉をやると、みんながしゃぼん玉を見てくれる。同じものに関心を持つことによってその境界が消えるみたいな感じがあります。」

小山「しゃぼん玉って移動して、隣のグループのところにいっちゃう。ふつうなら乗り越えられない「恥ずかしい」というブロックが簡単に外れてしまう。しゃぼん玉自体が予測のつかない子どもみたいですよね。それに誘導されていっちゃう、という感じですかね」

佐藤「小さいしゃぼん玉なんてすごく遠くまでいくから、迷惑だって言われないかとこっちはビクビクするんですけど、大丈夫なんですよね。」

小山「佐藤さんの取り組みのサイエンスカフェもそうですが、断絶を超えるというのがテーマですよね? とくに、福島県は日本の中でも断絶を感じる地ともいえますし、福島県の中にもまた断絶がありますよね。それをどう乗り越えるかということを研究してきたんですよね。しゃぼん玉はやすやすとそれを超えてしまった。」

佐藤「公園でしゃぼん玉やっている瞬間は、ふだんのことを忘れて社会とつながれる気持ちになってますね。なんとなく思い立った『しゃぼん玉』ですが、これはいい選択だった! ってことですね」

参加者「しゃぼん玉を始めて、なにか変化はありましたか?」

佐藤「より楽しませよう、期待を超えようという気持ちが湧いてきました。しゃぼん玉の中に入りたい、という子どもがいて、その次に行くときは、その子が来るかどうかは別として、中に人が入れるしゃぼん玉を用意しよう、とか。」

小山「工夫も生まれるんですね。」

佐藤「3月から始めたんですが、少しずつリピーターのような人が出てきて…『次いつきますか?』と聞かれることもあります。この公園では、こういう活動をしているのがいまのところ私ひとりなので…、そういった人が他に現れてくれて、『公園にはおもしろい人がいつも誰かしらいる』というふうになればいいなという希望的観測を持っています。」

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ここから参加者のみなさんからも質問を受けながら進めていきました。

参加者「チームともグループとも違う。安心安全と共通言語があって、その場に行ったら楽しめるという信頼がある。佐藤さんのつくりたい場ができた、ってことですね」

佐藤「あくまで趣味なので。行きたいときに行く。だから相手も来たいときに来たらいい。強制はしない。あくまで自由に。」

小山「まさに、パブリックでもプライベートでもない。義務になるとまた意味が変わってきますよね。佐藤さんのいいところは、自分が、自分がじゃなくて、縁の下の力持ち、コミュニティを支えるそのあり方がその場に現れている感じ。道具だけ残していなくなるように。」

佐藤「ただ片づけの時間は、さっきまでの盛り上がりが嘘のように孤独な時間です。その断絶的な切り替えにも、意味があるような気がしています。マイパブリックの中心から一市民に戻る感じです。強いていえば、彼岸から此岸へ戻ってくるような……。」

小山「まさにそうですね。佐藤さんの活動には、コミュニティをどう生成するかのヒントが詰まっている感じがしました。ぜひこれからも突き詰めていってください。」

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佐藤 和希|さとう かずき プロフィール

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任意団体COOPSTARTUP コミュニティコープデザイナー
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会 認定コンサルタント
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター 連携協力員

JA系統団体に勤務の傍ら、2015年、福島大学社会人向け大学院「地域産業復興プログラム」に参加。研究では、内発的発展論研究の第一人者である守友裕一教授らに師事し、原発事故・放射能をめぐる価値観の違いを越えた対話の場の構築について検討を行う。

2019年、より実践的な検討を行うべく、科学を切り口とした市民間の対話の場「グラスルーツサイエンスカフェ」を主宰。最近では、(株)グランドレベルの田中元子氏のマイパブリック活動に感化され、公園でのシャボン玉パフォーマンスを開始。その結果、自らがハブ的存在となることで、コミュニティ形成前のより開かれた関係が即興的に協同的関係へと発展する可能性を見出す。

未来のイノベーションを生み出す人に向けて、世界をInspireする人やできごとを取り上げてお届けしたいと思っています。 どうぞよろしくお願いします。