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「社会正義PRがもたらすチャンスとリスク」勝手に戦略考察ソフトバンク_04

第4回となるソフトバンクさんの勝手に戦略考察、今回は新規事業に参入する際にお約束となっている「社会正義を訴えるPR」についてです。使い方によって劇的な効果を生むと同時に、相応の批判リスクも伴うあたりを整理しました。
今回も、外からの限られた情報と印象からわかることを、ざっくり考察していきます。


ソフトバンクの事業参入が、日本社会にメリットを生む社会正義PRで世論を動かす

ソフトバンクが、生活インフラ的な規制業種に参入する際に必ずみられるアクションが、”ソフトバンクの事業参入が日本の国や国民の利益になる”という主旨の社会正義を訴えるPRです。しかも、孫さんという影響力が高く、プレゼンテーションがうまい経営者によるPRなので効果は抜群です。

Yahoo!BBであれば「日本を世界一安くブロードバンドを使い放題の国にする」であり、ソフトバンクモバイルであれば「ソフトバンクが参入すれば、寡占市場に風穴を開けて、もっと通話料は下げられる」という主旨を訴え、ソフトバンクの事業参入が国民の利益になるという世論を広め、それを規制業種参入や、事業のマーケティングの追い風にするのがひとつのパターンになっています。

確かにYahoo!BBは”定額且つ低価格なブロードバンド先進国”になるきっかけをつくり、モバイル事業では一時的でも料金が下がったプランが増えたため、実際に私たち生活者はソフトバンクの事業参入の恩恵を実感し、そのPRの説得力は増したと言えるでしょう。


社会正義PRの代償となる「社会正義つまみ食い」批判

ただ、その社会正義PRは「自社に都合の良いときだけ発動し、自社に都合が悪いときは規制や裁量行政を黙認する」という批判の声が一部ではあがります。(電波の周波数割り当て行政に関する同社の対応で、自社に恩恵があるときは黙り、自社が不利なときは抗議するように見えたことで賛否両論が起きたのは記憶に新しいところです)
ひとつひとつの事案では個々人の考えやモラルによって意見は別れますし、ここではその賛否は本題ではないため、あえて深堀りしません。

しかし、このような「社会正義のつまみ食い」的なPRは、同社の専売特許ではなく、過去に偉大な業績を残して現在でも褒め称えられる経営者でも同じような傾向は見られることがあります。それを好むか否かは、個々人の価値観に委ねますが、「経営者は自社の利益最大化を目指し、あらゆることに手を尽くすのが基本的な行動原理・本能」だと捉えれば、同社の社会正義PRが「つまみ食い」に見えたとしても、その背景を理解することはできるのではないでしょうか?
(*その社会正義の実現に、純粋な想いが含まれていることを否定するものではありません。経営のソロバンと崇高な理念の両方を内包するのが、偉大な業績を残す経営者であり、偉大な企業です)

ちなみに筆者は、今後の国内モバイルキャリアの市場競争は、これ以上の激しい値下げ合戦は起こらず、料金は下げ止まりとなり、3社の市場シェアは大きく変わらないと見ています。

この仮説がもし正しければ、ソフトバンクがモバイル市場参入時にPRした「寡占市場で料金が下がらない」状態に再び戻ることとなりますが、そのときは「寡占市場で固定化してきたので、価格を下げて顧客に還元しましょう」とは言い出さないと予測します。なぜなら、海外モバイル事業を勝ち抜く投資の原資として、国内モバイル事業はこれからも更に稼がなければならないからです。(無理に市場シェア向上を目指して料金を下げれば、市場シェアが増えても利益が下がりかねません。)


社会正義PRは、切れ味鋭い諸刃の剣

ソフトバンクは主に孫さんが社会正義PRを多用し、その存在と成功が目立つだけに、この手の「社会正義のつまみ食い」批判は起きやすく、社会正義PRはソフトバンクの事業とブランドの躍進を後押しすると同時に、大きな批判をもたらすリスクもはらんだ諸刃の剣と言えるかもしれません。


最近ではCSV(Creating Shared Value)と呼ばれ、社会にとっての価値と、企業にとっての価値を両立させて、企業の事業活動を通じて社会的な課題を解決していくことを目指すという概念も出てきており、社会的価値や社会正義と、自社の事業・サービスの価値をどう重ねて折り合いをつけていくかは経営上の重要トピックになってきています。

最後に大きく総括すると、社会正義PRは、期待値を高める代償で批判を招くリスクもありますが、社内外を惹きつけ、自社の事業・サービスの存在意義を訴える非常に有効な手法です。読者のみなさまも、いちど社会的価値の視点から、自社の事業・サービスの存在意義を見つめなおしてはいかがでしょうか?

必ずしもすべてのブランドが、社会正義に完全に寄り添って、それを声高に主張する必要があるとは個人的には思いませんし、社会的メリットと自社収益が相反してしまうシビアな現実に直面することも多々あります。(多くの企業はそのバランスの取り方に悩んでいるのが現実です。ここに一律の正解はなく、まさに企業や経営者の理念によって折り合いをつけるポイントを決めるしかありません)

色々と取り扱いの難しさもありますが、社会的価値という大義が明確でわかりやすいブランドは、社内外から大きな支持を得て、大きなビジネスの推進力が得られることは間違いありません。

第4回は短めですが、こんなところで。次回は、もろもろ総括してソフトバンクの経営の根源的な強さと、孫さんがいなくなった後について、勝手に考察し、最終回とする予定です。

P.S
本業の隙間で執筆となるため、ちょっと更新までの間隔が空いてしまったらすいません^^;


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