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「なぜ DXを説明するのに7万字も必要なのか」GDXハンドブック序文・特別公開

6月1日より無料配布・公開される黒鳥社とAIS(行政情報システム研究所)のコラボによる「ガバメントDX」の教科書GDX:行政府における理念と実践の序文を特別公開。冊子は全国の書店などで配付いたします(記事末尾にリスト掲載)。

Text by Kei Wakabayashi

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本冊子が何のためにつくられているかをあらかじめ記しておきたい。

本冊子は当初「世界各国におけるDX推進における手法の調査」の報告書として想定されていたものだ。調査は、4カ国の行政府の「DX推進組織」の仕事をデスクトップ調査とヒアリング調査によって詳らかにすることを目的に行われた。

対象国は、英国、デンマーク、オーストラリア、タイの4カ国。日本のはるか先を行っている事例として、英国、デンマーク。おそらく日本と似たような状況にあって参考になるかもしれない事例として、オーストラリアとタイを選出した。また、地方自治体の事例も入れておきたいという主旨から、オーストラリアではニューサウスウェールズ州政府を対象に選んだ。さらに、これに加えて、日本における民間企業の先進事例として、金沢を拠点とする北國銀行をヒアリング対象に加えた。

当初は要点を簡潔にレポートする冊子を制作する予定だったのだが、調査の途中で方針を急転回することにした。というのも、ヒアリングした内容があまりに面白かったからだ。 いや「面白かった」というのは正確ではない。正しくは「驚いた」からだ。

「DX」と呼ばれる、行政から民間まで声高に叫ばない人はいないこのバズワードは、すべてのバズワードがそうであるように、それがいったい何を指しているのかが判然としない。 バズワードのいいところは、それを誰しもが好き勝手に解釈できるところで、そういうものであればこそバズワードとして流通するのである。とはいえ、「DX 推進手法」を調査す るとなれば、一応の前提として「DXって何ですか?」と問う必要はある。

誰しもが好き勝手に自分なりの「DX」を叫んでいる日本的な状況のなかにあって、「DX とは何か?」という問いの答えを探すことは実際のところ非常に困難である。「DX」と検索してみていただくといい。見つかるどの説明でも当たらずとも遠からず似たようなことは語られているのだけれども、なんだかいまひとつ焦点がはっきりしない。モヤモヤする。その気持ちが、リサーチ前に晴れることはなかった。

なので、調査に入る段階では、「きっとDXはそういう曖昧なものなのだろうから、その定義を聞いてみても、ぼんやりとした答えしか返ってこないのだろう」と考え、「問いとしては聞くけれど、さほど明確な答えを期待するのはやめておこう」と思っていた。ところがである。それが違ったのだ。「驚いた」のは何よりも、そのことだ。

「ユーザー中心ってことですよ」

「DX」って何ですか?と聞くと、取材をしたどの人も判で押したようにこの答えを返してくる。なかには「ユーザー」のことばの代わりに「人間」や「カスタマー」といったことばを使う人もいるが、主旨としてはまったく変わらない。要は「供給者」の視点からではなく「受益者」の視点からサービスを開発・運用しろということだ。

「あれ?それだけ?」と拍子抜けするほどだが、この答えは決して揺らぐことがない。そこから話が始まり、「DX」にまつわるあらゆる話─その手法、プロセス、組織体制、働き方、KPIの設定等々─は、すべて(そう、すべてだ)この「ユーザー中心」という大義に帰着する。「それがすべてだ」と、実際少なからぬ人が口を揃える。

このことを、少なくとも自分は、相当大きな衝撃をもって受け止めた。なぜなら「DX」という文脈で「それはユーザー中心のことだから。以上」と、明確に言い切るような言説に、少なくとも自分は、出会ったことがなかったからだ。もし仮に、そうした言説が実際に数少なく、決して広くは共有されていないのだとすれば、これは由々しき事態ではないのか。

「DXとは何か?」という問いについては、議論の余地はすでにない。答え、つまり目指すべきゴールはとっくに決まっているのだ。であればこそ、「どうやって、それを実現するのか」という議論に意味も発生する。「何のためにやっているんですか?」という問いの答えが 明確に定められていないところで、いくら「How」の話をしようが意味はない。ということを、この国では、誰も指摘してこなかったのだろうか。

しかしながら「ユーザー中心」ということばもまた、実体の伴わぬまま流通しがちなバズワードである。「DX=ユーザー中心」という答えを授けたとて、これまた使い勝手のいい方便にしかならなかろうことは容易に想像がつく。

「DXって何?」「そりゃユーザー中心のことさ」「で、そのユーザー中心って何ですか?」「んなもん、DX のことに決まってるだろ」といったしたり顔の禅問答を流通させるために、貴重な時間を浪費されたと知れば、今回お話を聞かせてくださった各国の方々もさぞかし悲しまれるに違いない。取材をさせていただいたこちらとしても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。これは、結論だけを伝えるのではなくきちんと伝えなくてはならない。そう心を決めたところから、レポートの目的と形式は急旋回することとなった。

物事をわかりやすく構造化し、キーワードをぽんぽん投げ込んで理解を促すというやり方は、頭と勘がいい人にとっては極めて効率的で有効だ。「DX=ユーザー中心」と言われて「そうかそうか、そういうことね」と、それを即座に意思決定と行動の指針として採用し、すぐさま手を動かすことのできる人は、この先のページをめくっていただく必要はまったくない。だが、自分の頭と勘がいいと思っている人に限って、自分に都合のいい解釈をことばに与えて悦に入っているだけのことも多い。自分がどちらに該当するかまずは考慮いただいた上で、ここから先のページに進まれるか否かをご検討いただきたい。

それを検討していただくにあたっては、まずは「ユーザー中心」ということばを絶対的な原理原則として、あらゆる業務、あらゆる意思決定の判断軸とすることができるかどうか、考えてみるといいかもしれない。「ユーザー中心」は大義でありビジョンではあるけれど、 それよりもさらに重要なのは、それが具体的な業務の「行動指針」であることだ。その指針は、すべてのワーカーの日々の業務に及び、それが一貫してブレることなく完遂されることを要求している。

この冊子が説明しようとするのは、まさにこのことだ。「ユーザー中心」という理念に向けて、「DX」にまつわる、あらゆる制度、手法、プロセス、働き方などが、いかに綿密に考察され編成されているか、わたしたちは驚きとともに理解する必要がある。7万字に及ぶ、ぐだぐだと婉曲な本冊子を通して明かそうとするのは、その周到なまでの一貫性と頑ななまでの論理性だ。ディテールの話が、必ず「ユーザー中心」という大義へと収斂していくのを、この冊子のなかで何度も読むことになるはずだ。バズワードをバズワードとして 終わらせないために必要なのは、こうした論理性・一貫性なのだということを、今回のリサーチではつくづく思い知らされた。

ある「ことば」を理解するということは、そのことばの定義を知ることではなく、そのことばが必要とされている前提にある課題、実行性をめぐる仮説、それがもたらす可能性を、ひとつの論理として理解することだ。それを理解したとき、それは過去と現在と未来をつなぐひとつの道筋として、初めて、わたしたちが未知なる時間へと歩みを進めていくための具体的な行動指針となる。

わたしがそう言ってるのではない。あちこち聞いてみたところ、とどのつまり、「DX」とはそういうものらしいのだ。


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