私たち、最高にユニバーサルな結婚式を挙げましたーー松田昌美

私、松田昌美は、ブラインドライターという名前をもらった最初のメンバーです。今はタレントとしても活動しています。視力は右目は全盲、左目は目の前に出された指の数が何となく見えるくらいで強度弱視の視覚障害があります。

私は今年2月に、結婚式を挙げました。
このコラムでは、私と、夫の築地健吾さんのバリアフリーな結婚式について、どんな工夫があり、どんなふうに開催したのかを書いていきたいと思います。

私たちのなれそめを少しだけ

今から6年前のある雨の日、私は会社からの帰宅途中にスターバックスに寄りました。その店に、盲導犬を連れた人がいました。かわいいな、と思って見ていたら、あれ? 盲導犬を連れているのは……知ってる人じゃない? 盲学校の同級生、築地健吾さんです。高校を卒業して以来、10年ぶりに再会しました。

健吾さんは20歳のときに病気で全盲になり、その後、盲導犬と生活をしていました。お互い近所に住んでいることを知り、一緒にお酒を飲んだりご飯を食べる機会が増えていきました。
ただし恋人としてではなく、単に異性の友だちとして。

ところが2018年9月頃、私から突然プロポーズしました。「一緒にいて楽しいな、心地いいな」と思ったら、友だちとしてではなく、家族として一緒に生きていく選択肢もありだなと思ったんです。健吾さんも快諾、結婚がすんなり決まりました。そして2019年2月に入籍。その1周年の今年2020年2月22日に結婚式を挙げました。

もともと盲学校で知り合った私たちですし、障害者タレントとして活動している私の友だちには、障害のある人たちがたくさんいます。結婚式には、視覚障害者や車いすを使っている人など多種多様の障害を持った人々が集まりました。自分たちの結婚式を行うまでのプロセスや工夫したことなどを書いていくことにします。私たちのように視覚に障害があるカップルや、車いすの方が安心して楽しめる、素敵な結婚式を挙げてほしいと思っています。

障害のある友だちがたくさん集まる結婚式……本当に大丈夫?

「結婚式をしよう」と思ったときに、まず不安になったのが、夫婦揃って視覚障害がある私たちの話を聞いてくれるウェディングプランナーさんがいるのかということです。だから最初は断られる覚悟で、インターネットで偶然見つけたスキナウェディング・新宿サロンに電話をしました。すると直接詳しい話を聞きたいということなので、2人でサロンへ足を運びました。担当プランナーの山本登紀子さんに初めてお会いしてまず、夫婦揃って視覚に障がいがあって、私たちでも結婚式を挙げることが可能なのかを確認しました。結婚式を挙げることなると「式に参加するゲストも視覚障がいのゲストが多くなる」こと、「私には車いすに乗っている友人もいて、彼女たちも招待したい」ということ。現時点で自分たちはレストランウェディングが希望だということを伝えました。山本さんは明るく「私たちの結婚式を成功させたい」と言ってくださいました。

いつ頃結婚式を挙げるのか2人で話し合い「お互い共働きだし、焦らないでゆっくりじっくり準備していこうか」ということで、約1年、準備期間を設けることにしました。このくらい時間をかけると余裕を持てるので超オススメですよ!

レストランかホテルか、それが問題だ……

まず最初は、フランス料理のレストランを下見しました。このお店のお料理がどれもおいしく、美しく盛り付けられており、来てくれたゲストに喜んでもらえるだろうなと思ったんです。ですがレストランの入り口にいくつか段差があり、車いすの友人は、スタッフのお手伝いがないと店内に入ることができません。またトイレが狭く式中に車いすの友人は使用することが難しそうでした。もうひとつ不安だったことは私たち新郎・新婦控室が2階にあり、ハシゴのような階段を使用しなければならないことでした。レストランのスタッフの方々は熱心に私たちの相談に乗ってくださいましたが、レストランウェディングの場合、障害のあるゲストの人数に対してレストランのスタッフの人数が圧倒的に足りないこともあり、とても残念でしたが結婚式をレストランで行うことは諦めざるを得ませんでした。

続けて下見に行ったところが今回、結婚式を挙げた第一ホテル東京シーフォートです。床もフラットだしトイレも車いすに対応していました。ホテルのスタッフの方から、過去にそれぞれに盲導犬を持っているご夫婦の結婚式を経験されたというお話を聞きました。ゲストも私たちも含めみんなが安心して楽しみたい。ホテルウェディングにしようとその場で決めました。

打ち合わせのときに、工夫したこと

打ち合わせでゲストの席を決めるとき、レーズライターという道具を持参ししました。

図1

レーズライターとは視覚障害者が文字や図形を書いたり、識別するのに使う筆記用具のことで、日本点字図書館でも購入できます。プラスチックの板の上に薄いゴムが貼り付けてあって、専用のセロファンを紙抑えで止めた状態でボールペンなどで文字や図形を書き込むと浮き出た状態で筆跡が残る道具のことです。

レーズライターの上で書いてもらった図に指で触って確認しながら、車いすのゲストの席の場合の出入りに問題がないかなどプランナーさんと時間をかけて入念にチェックをしていきました。

席次は車いすのゲストに合わせて決めました。8人がけの大きめのテーブルではあるけれど、電動車いすの場合は大きいので1.5人として席次を考えました。

視覚に障害がある人にとって、どういう料理だと食べづらいのか、当事者である私たちもあまり考えたことがありませんでした。私たちの結婚式には、全く見えない人、ぼんやり色や光が見える人といった、多くの視覚障害のゲストが参加する予定でした。披露宴の料理は多くの場合、ナイフとフォークを使うような料理が多くなります。視覚に障害のある方にとってナイフを使って肉や魚を一口大に切り、切った肉屋魚のかけらがどこにあるのかを把握しながら、お皿の上のものをきれいに食べていくことは実はとても難しいのです。

ですから私たちの結婚式では、視覚障害のあるかたのの肉・魚料理はあらかじめ一口大にカットされたものを出してもらうようにしました。それから食事をテーブルに置くときにはアナログ時計に例えて「何時の方向にどんな食材が乗っているお皿なのか」をその都度説明してもらうようにお願いをしました。

もうひとつ、テーブルクロスと食事のときに使用するナプキンの色を工夫しました。一般的には白いテーブルクロスが主流らしいのですが、白いテーブルクロスだとワイングラスとか白いお皿の区別がつかなくなってしまいます。なので、あえて濃い色のテーブルクロスを選びました。食事のときに使用するナプキンの色も薄いピンクにし、テーブルの上に白い色のものは、お皿以外は極力置かない。私なりの工夫でした。

本当に必要なことと、不用なこと

障害のあるゲストを、ホテルのスタッフが全員でアテンドしてくれたり、料理のメニューを1品1品説明してくれるなどの細かい配慮をお願いできたこと。またホテルの館内に車いすトイレがあったことなどが、ホテルウェディングをした利点でした。

しかし、私たちが気付かなかった反省点もありました。乾杯のとき、通常通り司会者から「ご起立ください」と声掛けがあったことです。ゲストから「車椅子だから立てません」と声が挙がったため、改めて司会者から「ご起立が難しい方は座ったままで構いません」とフォローが入りました。
乾杯をするために椅子から立ち上がるのは、視覚に障害のある人にとっても危険です。また立ち上がることができないゲストに対して、不安な気持ちや、不快な思いをさせたのではないかとあとで気が付き反省しました。この点については、会場にいる新郎・新婦やゲストの身体の状況に合わせた柔軟な対応が必要だと思います。

もうひとつ反省点は、「できる限り細かい情報を“言葉にして”伝える」ことです。新郎・新婦の指輪のデザインの説明やウェディングケーキのデザイン。ケーキ入刀のときに新郎・新婦がどういう表情をしていて、今何をしようとしているのかなどを言葉にして伝える。そうすれば、テーブルから遠くて見えづらいゲストや視覚に障害があるゲストに対して、より会場の雰囲気を味わってもらえるようになったと思います。

プランナーさんにバリアフリー結婚式について聞きました

今回、結婚式の相談に載ってくださったプランナーの山本登紀子さんに感想を聞いてみました。

「バリアフリーの結婚式ということで、移動を少なくし、皆様の負担を減らすことに焦点を置き、挙式と披露宴を同じ会場でする『宴内人前式』をご提案しました。

お声がけするポイントやタイミングも学びました。
食事の時に『今、○○を置きます』とお知らせしたり、引き出物を席に置いておいても、前もってお声がけすれば大丈夫といったことなど、状況をイメージできるように言葉で表現することの重要性を実感しました。

光や音により敏感に反応されているなとも感じました。
聴覚に障害のある方は音に、視覚に障がいがある方は光に敏感なかたが多いとのこと、皆様が辛くないよう、BGMの音量やスポットライトなどの照明の微調整をしました。昌美さんは会場が暗くなったり暗いところから照明がつくと、気分が悪くなる可能性があること、健吾さんからも視覚障害のゲストは照明がついた時のギャップをあまり感じない演出の方が良いかもしれないとのお話を伺っていました。音楽での演出を皆様かなり楽しんでいらっしゃったのも印象的です。「触れる」という演出もあればより盛り上げられたのかなと思います。当日は、普段よりスタッフの数を増やしてご案内をさせていただきました。

会場などの状況をおふたりと共有するための資料を作成し、認識に齟齬がないかを何度もチェックを重ねました。

こうした結婚式のプランを立てるのは初めてでしたので、気を遣いすぎても逆に失礼に当たることが分からず、最初は不安でした。しかし不安やご不明点がないか、分からない場合は素直に聞いていいのですね。『全てを把握して臨まなければ』と少し意気込み過ぎていましたが『不安や不明点がないか、分からない場合は素直に聞いて欲しい』とお2人からアドバイスを頂いてからは肩の荷が降りました。

後日のアンケートでは、進行の細部を司会に実況中継してもらうべきだったことに気付きました。何が行われているか分からない方も多く、やはり『見える』ことを前提として進行をしてしまったようです」

「徹底的にバリアフリーを意識した結婚式をお受けするのが初めてだったので、手探りでした」とのことですが、これを機会に、いろいろな人がいること、誰もが楽しめる結婚式がこれからもどんどんと開催されるように、少しでも参考になれば幸いです。

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