朝
二階の部屋で暮らしている。
朝夕関係なく思いついたら何かする自由な生活を心がけるようになって、この部屋がいかに恵まれた空間なのか実感している。
4部屋の木造アパート。
入居人は三人。
ワタシの下に住む婆さんが大家さんで、隣の爺さんは弟か何かのようだ。
80をこえているだろうに二人とも元気で気さくな性格をしている。
たぶん二人にオレは気に入られている。
地元の集まりや、近所の誰かに何かをもらうたびにお裾分けしてもらう。
昨日もべったら漬けを弁当箱サイズのタッパに一杯いただいたばかりだ。
オレは住宅原状回復とゆうハウス・クリーニング専門便利屋をしていた経験があり、何か必要なことがあるたび、ただで修復してあげたりしているから当たり前ではある。
先日も爺さんの部屋の入り口がキューキュー音を立てていたから、ドアを外してグリスを打ってあげたばかりだ。
ついでに婆さんの郵便受けのヒンジにもグリスを挿しといたがたぶん気づいていない。
朝だ。
いや、正確には夜中。
まだ三時。
キッチンでヤカンに湯を沸かし、餃子を焼いている。
最近この時間、朝刊のスーパーカブのエンジン音とともに電気をつけてベッドから出る習慣が出来ている。
ションベンをし、ヤカンたっぷりの水をコンロで沸かし、歯を磨く。
外に出て朝刊を抜き取り、表の作業場兼駐車場資材置き場に若い連中が来て作業していたら手をあげる。
3時は大げさか。4時ちょっと過ぎが正しい。
都内の現場に向かう連中は千葉だとこの時間にはもう準備をしている。
当たり前だ。
五時半には首都高を降りて6時には駐車場を確保して仮眠。
個人経営の作業者は皆そんな感じで動いている。
オレも昔、クリーニングで中野の物件でも貰ったら、まず駐車場の心配をしたものだ。
ラジオで文化放送を聴きながら新聞の見出しを見る。
なかなかカッコよく餃子が焼けた。
片栗粉を溶いて羽をつけるようになって格段に見栄えが良くなった。
コーヒーを魔法瓶に落とす。
ペーパーフィルターがそろそろ無くなる。
買い物って奴はタイミング良く買い忘れるから不思議だ。
紅茶がまだたっぷりあるし、大丈夫ではある。
ご飯は冷たいままが良い。
餃子の油と酢醤油は、冷めたご飯のブッキラボウな態度とマッチする。
フンワリと泡だった状態をキープしたままヤカンから湯をソロソロと落としつづけている。
下の婆さんは朝から番まで大音量でテレビをつけっぱなしにしているし、爺さんもラジオとテレビを最大ボリュームで聴いている。
夜中の足音やトイレを流す音で目覚めるほどヤワじゃない。
朝夕バラバラの生活をしている独身中年男には天国みたいな部屋だ。
4トン車の鈍いエンジン音が響いている。
あの音を聞くと、また一日が始まるんだなと思えるから不思議だ。
そうだ。
あのべったら漬けををお鉢に盛って喰うのも乙なはずだ。
朝の餃子はやたら美味い。
ろっけんろー
ありがとうございます。