神の虐殺のためのプラン
昔々、腐女子がいました。
腐女子は闇の腐女子でした。
闇の腐女子の定義は闇の腐女子の数だけありますが、ここでいう彼女はバッドエンドしか描かないタイプの創作者でした。闇の腐女子はバッドエンドをばかすかpixivに上げました。けっこうブクマもつきました。
さて、闇の腐女子がいまいるカップリングは、莫大な規模をるカップリングでこそありませんでしたが、ひとりの神がいました。同人イベントでは絶対に誕生日席、気の利いたノベルティはあたりまえ、ラブラブハッピーな作風とキャッチ―な絵柄はあらゆる人の心を引きました。人柄も無邪気で、親しみやすく、買い手にもROMにもわけへだてなくフレンドリーでした。
そして、神はとても無邪気に、闇の腐女子の作品のpixivアドレスをTwitterに貼り、「いい話だったのに終わり方悲しくて、こういうの辛いし注意書きしてほしい」と言いました。
めっちゃ荒れました。
具体的には、注意書きの定義についてジャンル外の腐女子まで巻き込んだ騒動になり、Togetterまとめが複数作られ、TwitterのTLは当該闇の腐女子に対するエアリプと無言の圧力で埋め尽くされるくらい荒れました。
闇の腐女子はずっと静かにしていました。神にリプライで抗議をすることも、こんなのはいやだと泣き喚いてアカウントを消して同情票を得ることもしないかわりに、バッドエンドの作品を投稿するのをそっとやめました。
そして闇の腐女子は静かに、神のこれまで出した同人誌を在庫がある限り買い、中古同人誌ショップを漁ってそこでも買い集め、当然pixivのログも全部保存しました。
そして、適当な素材を用意したのちに、適切な場所で、コミケの締切直前に言いました。
「こいつトレパクしてない?」
捏造であるということは闇の腐女子本人がよく知っていました。「してるよね?」とは言いませんでした。ただ素材を放り出して情報操作しただけです。数日でまとめwikiができました。神の目には当然留まりました。神は言いました。
「こんなの嘘だよ」
誰も神の言葉を信じませんでした。なぜなら神は、注意書きの定義について荒れたときのふるまいのひとつひとつで、少しずつ信頼を失っていったあとだったからです。そして信頼を失うように少しずつ世論を調整していったのもまた、闇の腐女子でした。
憔悴しきった神に、闇の腐女子は、はじめてのリプライを送りました。
「大丈夫ですか? こんなこと全部嘘だってわかってます、大丈夫ですよ。信じてます。冬コミ頑張ってくださいね」
神は感動にあふれたリプライを返しました。そして、闇の腐女子のあたたかいリプライを見た同CP民も、神にまた少しずつリプライを送るようになりました。神と闇の腐女子はSkypeで繋がり、闇の腐女子は神の怒涛のような愚痴をきいて慰め、励まし続けました。そして締切当日。
「疲れたでしょ? 入稿前に休憩しなよ。ねえ、見てほしいものがあるの」
その言葉を最後に、闇の腐女子は、予定通り、Skypeアカウント、Twitterアカウント、pixivアカウント、すべてを消しました。
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