違う!ぼくがしたいのはこれじゃない!
何度も何度も思い出す出来事がある。
担任4年目、4歳児の担任をしていた時のこと。
Aくんは、感情のコントロールが難しく、すぐに手がでてしまうことも多かった。
ある日、それぞれに好きな遊びをしていた。ふと見るとAくんは、水性マーカーで机に絵を描いていた。
私は、別の場の遊びにかかわっていたところを抜けてAくんの元へゆき、「お絵かきするの?それならこの紙にしたら?」と白い紙を渡して、机の上をきれいに拭いた。
Aくんは黙って受け取った。
私はまた元の遊びの場にもどった。しばらくして、Aくんの様子を見ると、今度は床に描いている。
私はまたAくんの元に行き、「どうしたの?床は絵を描くところじゃないよ。」と言ったが、Aくんは「違う!水!水!」と声を張り上げた。
私は「何をしたいのだろう。」と思いながら、コップに入った水を渡した。Aくんは、その水を絵の上にかけた。
「何してるの??」と私が言うと、「違う!違う違う!」と言って私を叩き始めた。
「何かしたいことがあったの?」と尋ねても「違う!」と繰り返すだけ。ついには、保育室を飛び出して、廊下にあった大きな積み木を倒したり投げたりし始めた。他の子どもたちは、びっくりして静まりかえっていた。
私はAくんがなぜここまで怒っているのかわからず、途方に暮れた。とにかくなだめようと、Aくんを抱き抱え、「先生とAくん、隣のお部屋にいるからね。何かあったら呼んでね。」と他の子どもたちに言い残し、隣の空き部屋に行った。
しかし、Aくんはおさまらない。あまり保育室を空けられないし…こうなったら管理職の先生に協力を頼もう、と職員室に行くも、年長さんの行事中。これは、協力は頼めない。
なぜ、こんなことになったのか。抱き抱えながら、よくよく考えた。
ペンで絵を描いて水、、、もしかして!
私は以前テレビで見たこれを思い出した。
ツルツルしたところにホワイトボードマーカーで描き、水を垂らすと浮き上がると言うもの。
もしかして、これがやりたいのか?!と思い、Aくんの前でやってみた。すると、「これやりたい!」と私からペンを奪い取るようにしてやりはじめた。(実際には、コツがいるのであまり上手くは出来なかったのだけれど。)
少しして片付けなければいけない時間になった。
(今やっとやり始めたのに片付けに切り替えるのは難しいだろうな...)そう思い、「Aくん、このペンだと難しいね。明日違うのも持ってきてみるよ。明日もまたやろう。」と言ってみた。Aくんは「うん。」とうなずいた。
私はその日の仕事帰り、100円ショップによっていろいろな種類のホワイトボードマーカーを買った。
翌日、ツルツルした素材のテーブルを保育室の端に用意し、Aくんが登園してからホワイトボードマーカーと水と水を拭く雑巾を置いた。(他の子が先に遊ぶのではなく、Aくんの遊びとして大事にしたかった。)
Aくんは飛びつくようにして遊び始め、何度も試した。私はずっとそばにいるのではなく、チラチラ見ながら、上手く絵が浮いた時は、できたね!と声をかける程度だった。(私がその場にいることで他の子どもたちを巻き込んでしまう。今は、この子に気の済むまで、試して遊ばせたい。そう思って。)
そんなことが2日続いた。もちろん、遊んだあとは床はびしょびしょ。マーカーもほとんどダメになった。でも、それについてAくんに何か言うことはしなかった。その後、Aくん気が済んだのか、違う遊びをするようになっていった。
特に派手な?遊びになったわけでも、発展した遊びになったわけでも、ない。
でも、Aくんが言葉にできなかった気持ちをわかれたとき、とってもとっても嬉しかった。だから、数年経っても何度も思い出すのだと思う。
そして、この出来事は、その後の私とAくんの絆のようなものになったと感じる。もちろん、本当のところは、わからないけれど。
表面的な慰めや、かかわり方では通用しない、Aくんが私に教えてくれた大切なこと。(子どもはみんな、そういうの見ぬいてるなって思うけど。)
全力で真正面から向き合った先に、心が通じる感動。この出来事だけでなく、Aくんの担任をした1年間、たくさん感じさせてくれた。
こんな経験を書いて残しておきたいな、って思った。(何ちゃら記録とかって堅苦しくなくね。)
まあ、実際、私にとって大切な経験ってことであって、文字で見たり聞いたりしても、いまいち伝わらないなって思うんだけど(笑)
私がこの仕事を好きな理由の1つ。感動し、心震える瞬間に出会えること。きっとどんな保育者にもいろいろな大切な場面があるはず。
心にこびりついて、離れない感動する場面が。
それは、毎日の日々の保育の中で。そんな出来事のひとつひとつが、私を「先生」にしてくれているのだと思う。
子どもと真剣に向き合えば向き合うほど、そんな感動にたくさん出会える。そう、信じてる。
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